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4630万円誤送金男逮捕・元雑誌編集長が注目する2つのポイント

ラジオ
山口県阿武町が、463世帯分の給付金4630万円を誤って1人に振り込んでしまった事件。既に多くの報道がされている中、RKBラジオ『立川生志 金サイト』に出演した元サンデー毎日編集長・潟永秀一郎さんは2つのポイントに注目しているという。  

日本はいつの間にか「オンラインカジノ大国」

逮捕された田口翔容疑者は弁護士に「オンラインカジノで全額使った」と話しています。海外のサイトですが、ほとんどの方はその存在すら知らなかったんじゃないでしょうか。実は私もそうです。ところが、調べてみると、日本はいつの間にか「オンラインカジノ大国」になっているんですね。

 

まず大前提として、日本では競馬や宝くじなど公営以外の賭博行為は禁じられています。「統合型リゾート施設」として、国内にもカジノを作る動きはありますが、現時点で国内でのカジノ行為は違法です。

 

ただ、ラスベガスをはじめとして、海外ではカジノが合法化されているところが結構あって、オンラインカジノもそうした合法地域で運営され、日本からもインターネットを通じて利用できるわけです。その数は世界で数千万人と言われ、サイトへのアクセス数を国別でみると、日本は既にトップ5に入っているという調査報告もあります。

 

さて、公開された口座の記録によると、田口容疑者は、役場職員が返金を求めに行った4月8日、その日のうちに68万円余りをデビッドカードで使っています。田口容疑者は職員に「風呂に入る」と言って1時間ほど出てこなかったと言いますから、もしかしたらこの間にもうカジノで使っていたかもしれません。

 

いずれにせよ、それ以前に海外カジノを利用したか、知っていたのでしょう。「増やしてから元金だけ返せばいい」と思ったのか、銀行に向かう車内で心変わりして返金を拒否したと考えられます。結果、全額をスッたというのですが、これは、真に受けるわけにはいきません。カジノは勝ち金を口座にプールできるからです。中にはビットコインのような仮想通貨で決済するカジノもありますから、そういう隠しガネがあるかもしれないからです。

 

ただ、運営先は海外で公的な許可=ライセンス=を持っていますから管理は厳しく、入出金の口座登録にはパスポートなどによる厳密な本人確認があって、仮名や第三者名義などではできません。業者だって違法行為に手を貸すとライセンスを失う恐れもありますから、警察庁がインターポール=国際刑事警察機構=を通じて捜査協力を求めれば応じるはずで、今後の捜査で解明されるでしょうし、そのための逮捕でもあったと思います。

逮捕容疑の「電子計算機使用詐欺罪」は成立するのか?

次のポイントですが、それは逮捕容疑の「電子計算機使用詐欺罪」についてです。別名「コンピューター詐欺」と言われる罪状で、通常の詐欺罪は「人をだまして」不当な利益を得た場合に適用されます。「オレオレ詐欺」なんかが典型ですね。これに対して、コンピューター詐欺は、機械やシステムをだます行為。例えば、他人のクレジット番号やパスワードを使ってネット上で買い物をしたり、おカネを引き出したりするケースですね。昔は想定していなかった犯罪で、1987年の刑法改正で追加されました。

 

ただ、今回の犯罪がコンピューター詐欺罪に当たるかどうかは、専門家の間でも議論があります。というのは、この罪の構成要件には「電子計算機に虚偽の情報、もしくは不正な指令を与えて、不実の電磁的記録を作り」とあって、コンピューターにウソの情報入力や不正な操作をした場合――ですが、今回のケースで言うと、そこまでは役場のミスです。

 

だから詐欺は成立しないのではないか、という解釈があって、金額は莫大ですが「占有離脱物横領罪」=道に落ちていた財布を拾っておカネを取ったのと同様の罪=になるのでは、とも言われていました。これだと最高刑は1年以下の懲役、または10万円以下の罰金・過料です。

 

でも、山口県警は「電子計算機等詐欺罪」での逮捕に踏み切りました。

 

ここからは推測ですが、これだけ全国的な注目を集めた事件ですから、当然、県警は検察や警察庁と協議を重ねて逮捕に至ったはずです。その際、警察・検察共に重視したのは「再犯防止」でしょう。というのは、ここまで額は大きくなくても、実は「誤送金」って結構あって、私が今、経営に関わっている会社でも、過去、他社に送るおカネが間違って入ったことがあったそうです。そんな時、もしそれが多額で、悪い人が「使い込んでも懲役1年ならいいや」と思ったら、どうでしょう。よく「犯罪の最大の抑止は検挙」と言われますが、今回のケースが微罪だと、抑止にならないおそれがあります。だから何としても、最高刑が10年の詐欺罪で立件したかった…のかもしれません。

 

また、コンピューター詐欺罪の構成要件の件ですが、オンラインカジノは利用登録した後、掛け金であるチップを買うための口座に送金するのが一般的です。でも、田口容疑者はそのカネが自分のものではないと分かっていながら送金したわけですから、ここで不正な指令をしている――そう考えると、罪の構成要件を満たしている、とも言えます。どちらも推測ですが、それは今後の取材や、裁判で明らかになるでしょう。

 

最後に、この事件、これまであまり注目されなかったオンラインカジノの存在や、誤送金の悪用に対する法の不備も示しました。小さな町の、単純なミスから起きた騒動ですが、もしかしたら、法改正やオンラインカジノに対する規制強化など、社会を変えるきっかけになるかもしれない、大きな事件になりましたね。

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