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第2のパイナップル事件?高級魚をめぐる中国と台湾の対立

「台湾で収穫されたパイナップルを積極的に購入しよう」「台湾の農家を支援しよう」。そんなかけ声とともに、日本のスーパーマーケットや果物店に、台湾産パイナップルが並んだことは記憶に新しい。昨年(2021年)春、中国の税関が「パイナップルから害虫が検出された」との理由で、台湾からのパイナップルの輸入を禁止したことが発端。中国の禁輸措置によって、台湾のパイナップル農家は大きな輸出先を失い、窮地に追い込まれた。それによく似た事例がまた起きている。ただ、今度は農家ではなく、台湾の水産業者が大きなダメージを受けそうだ。東アジア情勢に詳しい、飯田和郎・元RKB解説委員長がRKBラジオ『田畑竜介 Grooooow Up』で解説した。  

突然の輸入禁止で打撃を受けている台湾の水産業

台湾のパイナップルの輸出先はそれまで、9割が中国本土向けだった。パイナップルの禁輸は大きなニュースになったが、実はその後、パイナップルのほかにも台湾産のくだもの2種類が中国で輸入禁止になっていた。いま、それによく似た事例がまた起きている。

それは、高級魚のハタだ。中国の税関が、台湾で養殖されたハタの輸入を先週から停止した。理由として中国側は「昨年以降、台湾から輸入した活きたハタからたびたび、禁止薬物や基準を上回る抗生物質が検出されたため」と説明している。「養殖されたハタに与えるエサに有害物質が入っている」ということだった。

ハタは中国本土や台湾では「石斑魚」という名前で呼ばれる。「斑」は斑点の「斑」。たしかに身体にしま模様がある。調理方法として、蒸しても、フライにしてもおいしい。スープにも使われる。魚の分類でいうと、九州ではアラと呼ばれるクエもハタ科の仲間。やはり高級魚として人気が高い。台湾の統計によると、昨年の場合、ハタの漁獲量全体の4割、6700トンを海外に輸出した。日本円にして78億円相当に上る。そのうち92%が中国本土向けだ。それを中国が突然、輸入禁止にしたから、台湾では大きな混乱が起きた。

台湾側は、「養殖ハタの飼料に有害物質を使っている」という中国側の主張を認めていない。漁業を担当する閣僚は「安全性に問題がないことは、確認されている」と反論している。しかし、それに追い打ちをかけるように、中国側は6月15日、台湾から輸入した別の冷蔵・冷凍水産品のサンプルから、新型コロナウイルスの陽性反応が出たと発表した。そして、この水産品を扱う企業の輸入申請の受け付けを見合わせている。台湾側は「ウイルスが水産品を通じて人に感染するという科学的証拠がない」と反発している。

台湾のメディアは、養殖ハタを扱う業者の声を紹介している。それによると、ハタを食材に使う料理は大きなテーブルでの宴会料理に提供されることが多い。だが、コロナウイルスの影響で宴会が激減し、ハタの需要が減っていた。高級料理だけに、家庭での食事にハタを使うことはほとんどない。宴会が減り、家庭での料理にも似つかわしくない――。つまり、台湾の中での消費は今後も期待できないという。

台湾の蔡英文総統は、中国による輸入ストップという事態を受け、「今後は欧米に販路を求めていく」と述べている。だが、先の業者によると、距離的に近い中国向けにはハタを活きたまま輸出していたが、大型魚のハタを同じように活きたままの方法で、さらに遠い外国へ持っていくのは難しいという。

いま台湾に経済的ダメージを与えている中国の“狙い”は?

仮に一連の禁輸が中国から台湾への揺さぶりだとしたら、その狙いは二つ考えられる。一つは、台湾では今年11月に統一地方選挙が行われる。台北や高雄など直轄市の市長選挙、議員選挙。そして年明けの1月には4年に一度の総統選挙が控えている。統一地方選挙はその2か月後の総統選挙の前哨戦。中国は、現在の蔡英文政権の母体、民進党に代わって、中国と融和的な国民党への政権交代を望んでいる。パイナップル、ハタの輸入禁止措置は、「民進党についていくと、こんな目に遭うぞ」という台湾の有権者向けのメッセージに見える。

ところで、5月に行われた日米首脳会談後の記者会見で「台湾で有事となれば、アメリカは軍事的に関与するか」と記者から質問されたバイデン大統領は、はっきり「イエス」と言った。台湾にとっては、おおいに歓迎できる大統領の発言だ。一方の中国は神経をとがらせている。大統領の発言を受けて、台湾のなかで独立を目指す勢いが加速しないよう、中国は抑え込む必要があった。揺さぶりのもう一つの狙いはこれだろう。

台湾以外にも輸入規制を外交カードに使う中国

相手国からの輸入を規制する――。こうした外交カードを中国が使うケースはたびたび起きている。2年前、新型コロナウイルスの発生源を巡って、オーストラリアは「独立した機関が中国で調査するべき」と求めた。これに対し、中国は対抗措置とみられる動きに出た。つまり、オーストラリアの産品(=ワインや牛肉、大麦)に対して輸入を一部停止したり、高い関税をかける措置に出たのだ。人口14億の巨大マーケットを外交カード、経済カードにしている。

先週、このコーナーでバルト三国のリトアニアが中国との関係が悪化し、リトアニアから中国への輸出がゼロになったという話があった。中国が相手の国との関係をにらみながら、輸入する農水産品、加工品にストップを掛けるケースは今後もあるだろう。台湾との間では、パイナップルも、魚のハタのケースも、主に台湾の中部・南部で栽培、養殖している。このエリアは、いずれも中国と距離を置き、日本やアメリカとの関係を重視する蔡英文政権の与党・民進党の強い支持基盤だ。

台湾の農業者や水産漁業者にとって、中国本土へ輸出できなくなるのは死活問題。「蔡英文はなにやっているのだ!」という、政権や与党に対する有権者の不満を高める狙いがあるように受け取れる。ただ、台湾の場合、過去の例を見ても、中国から圧力を受ければ受けるほど、反発心が高まり、「中国離れ」が進むことがある。中国のやり方は、むしろ真逆の結果につながるようにも思える。

飯田和郎(いいだ・かずお) 1960年生まれ。毎日新聞社で記者生活をスタートし佐賀、福岡両県での勤務を経て外信部へ。北京に計2回7年間、台北に3年間、特派員として駐在した。RKB毎日放送移籍後は報道局長、解説委員長などを歴任した。
 

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