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ミスチル「しるし」とドリカム「LOVE LOVE LOVE」は“究極の愛の歌”その理由は?

RKBラジオ『立川生志 金サイト』のコメンテーター、潟永秀一郎・元サンデー毎日編集長は、かつて作詞家を志望していた。そこで毎月一回お送りしているのが「この歌詞がすごい」という解説コーナー。2月は新型コロナによる外出制限がない4年ぶりのバレンタインデー。デパートなどでは商戦花盛り――ということで「愛の歌」2曲をとりあげた。  

言葉にしなくても分かってほしい男性目線の「しるし」

今回は「男性の気持ち」と「女性の気持ち」のそれぞれで、私が「究極の愛の歌」だと思う2曲をとりあげます。まずは「男性の気持ち」は、Mr.Children15枚目のシングル、2006年11月発売の名曲「しるし」です。テレビドラマ『14歳の母』の主題歌にもなって、大ヒットしました。
実は桜井和寿さんがこの歌を作ったきっかけは、7年間飼っていたリスザルが死んでしまったことだったそうで、確かに「いろんな角度から君を見てきた」とか「いろんな顔を持つ君を知ってるよ」というフレーズにそれは垣間見えるんですが、この詞を書くときは「誰もが共感しうる恋愛の歌に聴こえるよう、自分の気持ちをコントロールしつつ書いた」そうで、自身「最高のラブソングができました」とコメントしています。私も、そう思います。

 

しかもこれ、男なら「分かる分かる」という恋愛感情ばかりで、だからぜひ女性に聞いてほしくて、解説しますね。

 

冒頭からそうです。
最初からこうなることが決まってたみたいに 違うテンポで刻む鼓動を互いが聞いてる
これっておそらく、初めて2人で迎えた夜、ベッドの中で見つめ合っている情景でしょう。こういう時、女性はえてして「愛してる」とか、言葉を求めがちですが、桜井君は「最初からこうなることが決まってたみたい」だと思い「どんな言葉を選んでも どこか嘘っぽい」から「左脳に書いた手紙 ぐちゃぐちゃに丸めて捨てる」つまり、ただ黙って見つめます。

 

一般的に左脳は言葉や理屈、右脳は空間認識や感情を優位に司るといわれます。この仕組みは、次にご紹介する歌とも絡むので後でまたお話しますが、「左脳に書いた手紙 ぐちゃぐちゃに丸めて捨てる」というのは、「何か言おうと思ったけど、この思いはもう言葉を超えてるからやめた」と読めます。この表現、ちょっと天才的ですね。歌詞で「左脳」という言葉を使った世界初の歌じゃないでしょうか(笑)

 

でも、この歌詞のおかげで、彼はこんなふうに論理的に物事を考える人で、けれど言葉にするのが苦手だから「心の声は君に届くのかな?」と、少し不安に思っていることが分かり、一方で彼女も、「本当に愛されてるのか」不安を感じていることが、次の歌詞
『半信半疑=傷つかない為の予防線』を、微妙なニュアンスで示そうとしている
というところから分かります。

 

――と、ここまで本当に「あるある」だなぁと思います。あくまで一般論ですが、男性は恋が叶ったとき一気に盛り上がりがちですが、女性ってちょっと手探りで、特に自分から好きになったり、相手が恋多き人だったりすると、少し引き気味というか、慎重になりますよね。それを「傷つかない為の予防線」とは、本当に言い得て妙です。だから彼は「面倒臭いって思うくらい」この恋に「真面目に向き合」うわけです。

 

そして、この歌が不滅のラブソングだと思うのは、「ダーリンダーリン」で始まるフレーズで畳みかけるように語られる
いろんな角度から君を見てきた そのどれもが素晴らしくて 僕は愛を思い知るんだ
とか、
何をして過ごしていたって 思い出して苦しくなるんだ
とか、
共に生きれない日が来たって どうせ愛してしまうと思うんだ
という理屈じゃない思い、心からの叫びです。こんなこと言われたら、泣いちゃいません?

 

でも、その思いはうまく伝わらないから
心の声は誰が聞くこともない それもいい その方がいい ? 泣いたり笑ったり 不安定な想いだけど それが君と僕のしるし
だと、自分に言い聞かせます。

 

この切なさ、「なんで言葉にしなきゃ分かってくれないんだ」という、男たちのもどかしさを分かってほしくて、この歌を取り上げました。まあ、歌詞にもある通り、それまで「軽はずみだった自分」も悪いんですが(笑)

「LOVE LOVE LOVE」女性が自分に語りかける愛の確認

次は女性目線のラブソング。ご存じDREAMS COME TRUEの「LOVE LOVE LOVE」です。作詞は吉田美和さん。1995年、テレビドラマ『愛していると言ってくれ』の主題歌で、250万枚の大ヒットを記録しました。豊川悦司さんと常盤貴子さん演じる、耳の不自由な画家と女優の卵の、切ないラブストーリーに涙しましたよね。
さて、歌詞です。この歌も冒頭、
ねぇ どうして すっごくすごく好きなこと ただ 伝えたいだけなのに うまく言えないんだろう…
と、「しるし」の主人公と似た思いを語りますが、でも違うんです。こちらは「なぜ、うまく言えないんだろう」で、「しるし」は「なぜ、伝わらないんだろう」だからです。

 

この女性は、うまく言えないことを嘆いているわけでも、自分の気持ちが相手に伝わらない、と思っているわけでもなく、「なんでこんなに好きなんだろう」という、いわばひとりごと。というか、この歌は全編が自分に語りかける愛の確認、もっと言うと、愛し続ける覚悟の確認に聞こえます。

 

それはこの歌詞
ふたり出会った日が 少しずつ思い出になっても 愛してる 愛してる
というフレーズに明らかで、深く強いなあと思いますし、ユーミンの「守ってあげたい」に通じる母性も感じます。

 

ちなみに、さっき少しお話した「左脳」と「右脳」の話ですが、一般的に男性は「左脳優位」、つまり物事を論理的に整理して割り切ろうとしがちで、一方、女性は左脳と右脳を結ぶ「脳梁」が男性より大きく、右脳的な感覚や感情も配慮して判断すると言われます。もちろん、みんなそうだというわけでなく、機能的な類型化で、ジェンダーレスの時代にはそぐわないんですが、一つの話題としてお聞きください。

 

例えば、話している相手の表情や変化に気付きやすいのも女性で、だから髪形を変えても気づかずに怒られたり、彼女はただ話を聞いてほしいだけなのに、男はつい何か答えを言おうとして「違う! そんなこと聞いてない」とか怒られるわけで、この歌で言うと、女性が「すごく好きだって伝えたいだけなのに、どうしてうまく言えないんだろう」と言ったとき、「それは語彙力が足りないからだろう」とか、「夢で会いたいと願う夜に限って出てきてくれないね」と言われて「夢をコントロールできるわけないだろう」とか言ったら、アウトなわけです(笑)。黙ってほほ笑めばいい。私も学びました(笑)

 

そして、これがその「左脳的」「右脳的」に由来するのかは分かりませんが、やはり女性の方が感情が豊かというか深いというか、繰り返される次の歌詞
ねぇ どうして すごく愛してる人に 愛してる というだけで 涙が出ちゃうんだろう…
というのは、男性にはない感情だなぁと。好きな人をじっと見ていたら涙がこぼれたり、恋愛感情に限らず、久々の再会で懐かしさのあまり、とか。女性に聞いたら「あるよ」って。だからこの歌詞、男には書けないなぁと、少なくとも私には書けない詞だと痛感しました。

 

ということで、今日は、私が「深い」と思うラブソング2曲でした。

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