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「佐野元春は日本の音楽を変えた」音楽プロデューサー・松尾潔が絶賛

詩人としてのメッセージを内包した歌詞や独特なリズム、アレンジで私たちを魅了するシンガーソングライター、佐野元春さんが3月13日、67歳の誕生日を迎えた。この日、RKBラジオ『田畑竜介 Grooooow Up』に出演した音楽プロデューサーの松尾潔さんが彼の功績を絶賛した。    

いろんな人に影響を与えているのに、いろんな人と違う

佐野元春さんは日本の音楽を変えた一人ですね。1956年生まれ、きょう3月13日で67歳の誕生日を迎えました。「Someday」に代表されるような名曲も多く、50代以上の方はよく聴いたという人が多いのではないかと思います。
2022年には、桑田佳祐さんをはじめとする方々と「時代遅れのロックンロールバンド」という曲をリリースし、紅白歌合戦にも出場しました。ただ、佐野さんはその方々ともちょっと違うところにいるような方です。「いろんな人に影響を与えているのに、いろんな人と違う」という異端なイメージを、佐野さんを見ていると感じます。

ロックをタイムレス・エイジレスなものに拡大

ロックは元々、若者カルチャーであり、一方で「大量消費される資本主義が生み出した商業音楽」でした。それを、タイムリーというだけにとどまらないタイムレスなもの、あるいは、ユースカルチャーというものではなく、エイジレスなもの、というふうに定義をどんどん拡大したのが佐野さんの功績だと思います。

 

「時代の目撃者にならなければ」という意思が佐野さんにはあったと思うんです。だから、その時々の時代を象徴するような音楽に対しては、常に鋭利なアンテナを張り巡らせていたように感じます。特に1980年代、一番過激だったと言われている頃の佐野さんは、かなり早い段階でラップにも真正面から取り組んでいました。

 

1984年、僕が高校生の時に発売された「Complication Shakedown」という曲には、衝撃を受けました。今改めて聴いてみると、ヒップホップとしての匂いは、今われわれが思っているものと同じかどうかというと、そこは評価が分かれるところです。
でも、この曲を含む「Visitors」というアルバムは、彼が1983年から1年間ニューヨークに滞在して見聞を広め、それ以前から持っているロックに対しての知識とかスキルに加えて、その時代を生きる人間としての接点をうまく落とし込んで、素晴らしいバランスで作ったアルバムです。

言葉と音楽の理想的な関係を模索する先頭に立つ

もちろん、根底にはロックンロールスピリットがありますが、ロックと文学、特に詩の部分の融合に関して、自覚的な人でもあります。NHKの番組『佐野元春のザ・ソングライターズ』では、彼がキュレーターとして出演していて、それをご覧になった方もいると思いますが、本当に言葉と音楽の理想的な関係を模索するということに関して、ずっと先頭にいる方ですね。

 

音楽的にすごいという話をすると「肝心の歌声はどうなんだ?」ということも気になりますが、パフォーマーとしても魅力的ですよね。こもった声質を最大限に生かした…照れ屋さんの暴走みたいな(笑)彼の歌を聴くと、ハニカミみたいなものと、何かを突き上げるような衝動がぱっと出てくることがあります。外交的でもあるけれど、内向的でもあるという部分がどちらもあって、それが人間だと思うんですが、佐野元春という独特のバランスでそれが成り立っているなと思います。

 

さらに、美しいメロディーを作る方でもあると同時に、言葉に力があるので、彼の歌に励まされて、何かしら自分の勝負事の前に佐野さんの音楽を聴いて、気持ちを高めている方も多いと思います。やっぱりロックンローラーであり詩人でもあるという人ですね。

 

「詩」と「詞」はごんべんの右側が違いますし、英語でもポエム、リリックと訳が異なりますが、佐野さんはこのふたつの「し」が、シームレスに繋がるような伸びやかさを感じます。それができるのはやっぱり彼の圧倒的なロックンロール的教養があるからです。肉体性と文学性のどちらもあるから、佐野元春の音楽なんだなと感じますね。さらに、その感じる度合いも、自分が年齢を重ねていけばいくほど、高くなっています。

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