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「映画はフィクションでも、中身は本物」映画『MINAMATA』から考えたこと

9月23日に公開された映画『MINAMATA』。ジョニー・デップが制作・主演し、日本の四大公害・水俣病を描いていることで話題になっている。この作品を鑑賞した、神戸金史・RKB解説委員がRKBラジオ朝の情報ワイド番組『櫻井浩二インサイト』に出演し「映画はフィクションででも、水俣の真実が描かれている」と評した。

 

神戸:九州に住む者の一人として、まずは水俣病をきちんと知らなければならない、と思って観たのですが、ひとつの娯楽作品としても大変面白かったです。熊本県水俣市が舞台ですが、旧ユーゴスラビア、今のモンテネグロのティバトという町でセットを組んで撮影されました。現在の水俣は当時の街並みがあまり残っていないためです。重要なのは、「史実に基づいた物語である」という点です。つまり、物語であって史実どおりではない、ドキュメンタリーではないということです。事実に基づきながら脚色も伴って作られたフィクションとして観るべきでしょう。

 

ジョニー・デップが演じているのはユージン・スミスという実在する写真ジャーナリストで、1959年には「世界の十大写真家」にも選ばれています。51歳のときに来日し、当時20歳の新婚の妻・アイリーンとともに水俣に3年間住んでいました。映画はこの2人が出会い、アイリーンから「水俣ですごいことが起こっているから取材してほしい」と頼まれるところから始まります。しかし実際には、アイリーンから水俣の撮影を依頼したことはなかったそうですが…ここは脚色を加えながら、ストーリーは進んでいきます。ユージン・スミスは、太平洋戦争に従軍して写真を撮った経歴もあるため、日本人のこともよく知っています。沖縄戦では取材中に砲弾の破片を受けて上あごに大けがをするなどして、肉体的にも精神的にも傷ついた一人です。

 

水俣では、チッソが流す排水に含まれている有害物質・メチル水銀が、魚を通じて人間の体内に蓄積をしていき、手足のしびれや脳の損傷で死んでいきました。その時、戦争が原因でPTSDになり苦しんでいたユージン・スミスは「水俣の現状を撮らなければならない」と思い、前向きになっていきます。その姿は知っている人が見れば、ユージン・スミスそのものだったそうです。水俣の市民や関係者を演じている方も名優たちで、つい見入ってしまいました。
しかし、映画では分からないところもありました。ユージン・スミスの妻、アイリーンはいったいどんな人だったのか?それが気になって、映画を見た後、ある本を読みました。文藝春秋から出版されたノンフィクション「魂を撮ろう ユージン・スミスとアイリーンの水俣」(著・石井妙子)です。そこでアイリーンがどんな人だったのか理解できました。映画とあわせて、この本もおすすめです。

 

アイリーンは日本で生まれ、家庭の複雑な事情でアメリカに渡り、大学で通う中でユージン・スミスと出会っていました。2人はその運命に導かれるように水俣に向かいます。そこで理不尽な公害に苦しむ人たちを知りました。ユージン・スミスの写真の中で一番有名なのは「入浴する智子と母」という作品で、「水俣のピエタ(マリアが殉教したイエスを抱く彫刻)」とも称されています。映画はフィクションではありますが、この写真がどのような背景で撮影されたのかをかなり詳しく知ることができます。そういう意味でも「水俣の真実」を描いた映画と言えます。

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