PageTopButton

メディアは党の「喉と舌」…彭帥さん問題で際立った“中国の弱点”

中国の最高指導部の一人との不倫を告白したのち、一時、行方不明になったとされる女子テニスプレーヤー、彭帥さんのスキャンダル。中国ウォッチャーでもある飯田和郎・元RKB解説委員長が、この問題から浮き彫りになった“中国の弱点”について、レギュラーコメンテーターを務めているRKBラジオ『櫻井浩二インサイト』で解説した。 飯田和郎・元RKB解説委員長(以下、飯田):すでにこの1週間で、彭帥さんをめぐるさまざまな動きがあった。真相は分からないが、きょうは、真相そのものより、国営メディアを使った中国流の対応が、国際常識からいかにかけ離れているか、その対応が、外から中国を見る目をどのようにしているかを考えたい。中国共産党では「うまく対応できている」と思っていることが、これこそ国際社会の非常識になっている。

この問題をおさらい

・中国のプロテニス選手、彭帥さん(35歳)が投稿サイトに文章を寄せたのが11月2日。共産党の最高指導部メンバーだった張高麗元副首相(75歳)と「不倫関係にあった」と実名で告白する内容だったことから国際的なスキャンダルになった。

・大坂なおみ選手、ジョコビッチ選手ら世界的プレーヤーから「彭帥さんの無事を願う」という声が続いた。

・また、テニスの女子ツアーを統括する組織、WTA=女子テニス協会のトップが告白を擁護し、真相究明を求める声明を発表。適切な結果が出ないと、中国からの撤退も示唆した。

その後の中国の対応に注目

飯田:問題にしたいのは、このあとの中国の動き。約2週間経過した11月17日、中国の国営テレビ系列・中国国際テレビが、彭帥さんのものとするメールをツイッターで公開した。このメールは「私は行方不明ではなく、安全でない状況でもない。家で休んでいるだけ」と記されている。「性的暴行」は「事実ではない」と指摘した。中国からすると、テニス界だけでなく、国際社会までスキャンダルが広がったため、2週間続けた沈黙から、火消しに入ったわけ。さらに20日には、中国共産党の機関紙・人民日報系の日刊紙の編集長が「彭帥さんは間もなく公の場に姿を現し、活動に参加する」とツイッターに英語で予告をし、翌21日には、彭帥さんがテニスイベントに参加する動画を投稿した。

止まらぬ国際社会の懸念

飯田:中国は火消しに走ったが、日米両政府や国際人権団体の懸念は収まらない。アメリカの大統領報道官は19日、彭帥さんについて「深く懸念している。中国当局は、彼女が安全だという証拠を示すべき」と表明した。日本政府も22日、松野官房長官が「一刻も早く懸念が払拭されることを強く望んでおり、状況を注視したい」と指摘した。国際的な人権団体「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」も「中国政府のプロパガンダを助長してはならない」と、IOCの対応を批判する声明を出した。

なぜメディアが火消しに動くのか?

飯田:この問題について、彭帥さん自身が自分の言葉で語っていない。もちろん、プライベートなことなので、本人がしゃべりたくなければ、しゃべる必要はない。問題は、彭帥さん自身でも、不倫相手とされる元副首相でもなく、国家が主導して火消しに動いていること。なぜ、彭帥さん本人や、それが無理なら中国のテニス協会などが表に出てこないのかすごく不思議に思う。これが冒頭述べた「中国流の対応が、国際常識からかけ離れた中国独特の手法」ということだ。火消しの先頭に立ったのは、中国国営のテレビ局、そして中国共産党機関紙・人民日報系の日刊紙の編集長だ。

中国ではメディアは党の「喉と舌」

飯田:共産党による一党独裁にある中国では、メディアは党の「喉と舌」と定義されている。報道機関や言論政策は共産党中央宣伝部という役所が統括し、主要な機能は、共産党の政策や考え方を国内外に宣伝すること。先ほどの共産党機関紙・人民日報系の日刊紙の編集長は、ツイッターで、彭帥さんの動静を予告したり、テニスイベントに参加する彭帥さんの動画を流したりしているが、中国の一般人は当局が規制しているため、ツイッターを閲覧することも投稿することもできない。そのツイッターを使って、しかも中国語ではなく、英語で発信しているのは、海外に向けて、しっかり共産党の「喉と舌」の役割を演じているといえる。

なぜIOCも火消しに加担しているのか?

飯田:今回の件で怒っているWTA=女子テニス協会や人権団体を相手にするのではなく、IOCを相手にしているのも、国際常識、国際的な関心事から、ズレている。来年2月の冬の北京オリンピックを成功させたいIOCは扱いやすいからだろう。IOCのトップ、バッハ会長が一選手に過ぎない彭帥さんに「今度、夕食を一緒に食べましょう」と誘うのも不自然だ。

スキャンダルで際立った中国の弱点

中国外務省の報道官は23日、すでに彭帥さんの動静が分かっており「一部の人は悪意のある宣伝をやめ、政治問題化しないよう望む」と述べ、真相を求める声をけん制し、事態の沈静化を急ぎたい考えを示した。しかし、国際常識からかけ離れた行為を繰り返す姿こそ、中国の弱点であり、もろさでもある。ただ、私たちからすれば、偶発的な衝突や紛争が起きたとき、自分たちの常識に基づいて、中国がどう対処するかわからないという怖さを与えるできごとでもある。

この記事はいかがでしたか?
リアクションで支援しよう

radiko 防災ムービー「いつでも、どこでも、安心を手のひらに。」