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「表現の自由は差別の自由ではない」安田菜津紀の提訴が意味するもの

「表現の自由は差別の自由ではない」安田菜津紀の提訴が意味するもの

在日コリアンの父を持つフォトジャーナリストで、TBSテレビ『サンデーモーニング』などに出演している安田菜津紀さんが、Twitterで誹謗中傷を受けたとして、西日本在住の投稿者の2人に対し、それぞれ損害賠償など約200万円を求める訴訟を12月8日、東京地裁に起こした。

ヘイトクライムについて調査・報道しているRKBの神戸金史解説委員が、RKBラジオのニュース番組『櫻井浩二インサイト』で解説した。

 

安田さんが運営しているホームページ「Dialogue for people」の中で、2020年12月に「もうひとつの『遺書』、外国人登録原票」というエッセイが公開された。

父親の家族のルーツを古い書籍を頼りにたどったもの。安田さんのお父さんは中学2年生の時に亡くなっているが、その後、安田さんは家族の戸籍を手にしたときに初めて、自分の父親が在日コリアンだったと知った。

飲食店の店主だった父は、仕入れから店頭での調理に至るまで、忙しい日々を過ごしていた。この日もきっと疲れていただろう。それでも嫌な顔ひとつせず、私を膝に乗せてくれた。ところが、なぜか父はすらすらと絵本が読めない。簡単に読めるような大きなひらがなのページでさえ、何度もつかえる。「もういい!」私はしびれを切らして、父の膝から立ち上がった。そして思わずこう、言ってしまった。「お父さん、日本人じゃないみたい!」。父は少し困った顔をして、静かにただ、笑っていた。あの時の私はまだ、その言葉がどれほど残酷な響きであるかを知らなかった。

「この文章を以前読み、胸を打たれた」と、神戸は話す。

ところが、このエッセイで父が在日コリアンだと明らかにした安田さんに、誹謗中傷が寄せられる。安田さんが提訴した相手のツイートを紹介する(差別用語が含まれているとお断りした上で、番組で読み上げた)。

「密入国では?犯罪ですよね?逃げずに返信しなさい」

「チョンどもが何をして、なぜ日本人から嫌われているのかがよく分かるわい。おまえの父親が出自を隠した理由は推測できるわ」

安田さんは、否定的な投稿を見ないようにするなどの自助努力で対処しようとしたという。しかし、見ないようにしても根本的な問題の先送りでしかないと気づいた。安田さんはまず、誰がこのツイートをしたのかということを明らかにするように求める裁判を起こし、明らかになったツイート主に対して損害賠償を求めたのが、今回の提訴である。

安田さんは「本来であれば裁判ではなく、あなたはなぜこの書き込みをしたのか、それをしないためには何が必要なのかを直接尋ね、共に考えてみたかったと思っています」と話している。しかし、匿名である以上、裁判を起こさざるを得なかった。

誰もがルーツを明らかにする必要はないが、それを誰かに伝えること自体が「勇気のいること」だとすれば、それは安心して暮らせる社会とは言えない、と安田さんは考えている。

安田さんのもとには、こんなコメントも寄せられているという。

「私は勇気がなくて、自分のルーツを友人にも言えていないんです」

「結婚したい人がいるのですが、なかなか打ち明けられずにいます」

安田さんは、誰しもが声をあげる「べき」ではないと思っている。差別の矛先を向けられた人にとっては、まず自身の心を守ることが最優先だ。だが、差別の問題は、「心の傷つき」という問題に留まらない。

ヘイトスピーチは、単なる悪口ではない。社会的マジョリティーの側との力の不平等を背景に、矛先を向けられた側に恐怖心を抱かせ、「声をあげたらまた言葉の暴力にさらされる」という沈黙を強い、日常や命の尊厳を深くえぐるものだ。

「表現の自由への侵害だ」という主張がある。しかし、安田さんは「ヘイトが誰かに沈黙を強いるものである以上、矛先を向けられた人々の表現の自由は既に踏みにじられているのです。表現の自由は、差別の自由ではないことを明確にしたい」と訴えている。

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