「禅農法」で見据える未来

「禅農法」で見据える未来

福岡市のほぼ最西端で独自開発した農法「禅農法」を用いて野菜を栽培されている平兮元祥さん(ひらなげんしょうさん)。福寿寺(福岡市西区小田)の住職さんです。元祥さんが作られる野菜はどれも瑞々しく一般的なものとは一線を画す味です。

なぜ、いま農業なのか?それは「美味しいものを食べるため」だそうです。食の安心安全が叫ばれて久しいですが、今でも流通しているものが作られた経緯全ては消費者には分かりません。自分で作って自分で食べれば、安心か安全かは別として納得して食べられますし、自分に合った農法で作れば味も満足できるのは間違いありません。そんな元祥さんの考えに共感する人は多く、常連さんがいるのと同時に10人ものお弟子さんがいらっしゃるのです。(実は僕も11番目を狙っていたりして‥)

それだけの野菜を作られているので、買いたい人も作りたい人も元祥さんを訪ねてくるそうです。それこそが元祥さんの狙い。それを聞いた僕は何となく「へぇ~」と思ったのですが、理由を知ると心から納得しました。福寿寺がある北崎地区は元祥さんの幼少期と比べて人が少なくなり活気もなくなっているそうです。そこに賑わいを取り戻すべく…というのはよく耳にするのですが、そのあとに元祥さんが口にした言葉が心に残っているのです。

関わる人を増やす

てっきり「賑わいを取り戻すために多くの人に住んで欲しい」という話かと思いきや「関わる人を増やす」という言葉。さらに元祥さんはこう言葉を続けました。「天神だってそこに住んでいる人が多いから賑わっているわけではなく、関わる人が多いから」。よく考えるとその通りですし、言葉にされると明確になり説得力が増します。

もちろん、元祥さんには、将来的に多くの方に北崎地区に住んで欲しいと思いがあります。ここからは僕の想像ですが、ただ景色が良いとか自然が多いという理由だけで移住しても十分楽しめると思うのですが、そこに農業という「関わり」を付随することによりその土地に住む理由がより強固となり、ともすればその子孫も代々そこに住むという流れができるかもしれません。そう思ったこともあり「関わる人を増やす」という言葉が強烈に残っています。

ひとまずゴールは建立1300年

福岡には「福岡三観音」と呼ばれる観音様が存在するそうです。油山観音、雷山観音、そして小田観音(元祥さんが住職をされている福寿寺と同じ地域にある光明寺にまつられている)。その中で文化財に選ばれていないのは「小田観音」だけそうです。

理由はお世話というか管理する人が不足しているからということ。元祥さんは、高校卒業後に東京で過ごし数年前に地元に戻ったときにそれを実感たそうです。地域の人々も参加し月に一度観音様をお参りした後に皆で食事を共にする「観音講」を前住職であるお父様1人だけで行っていたのです。

幼少期には地域のおじいちゃんおばあちゃんも一緒にやっていたことを思い出し、これではいけないと立ち上がり、2021年の1月から「観音講」を復活させたそうです。さらに当時は「禅農法」も確立しつつあったため「農業」もセットにし地域の人々で観音様を守りながら農業も行うという形で今も継続されています。

西暦728年に建立された光明寺は6年後に1300周年を迎えます。その時には盛大に多くの「地域の人たち」とお祭りをしたいという目標を持たれているとのことでした。元祥さんであればきっと実現されることと思います。

「禅農法」のつながりは街にも

後に良い写真が撮れたのでご紹介させて下さい。福岡市中央区界隈が行動範囲の方は気になっているはず!大濠公園の南西方向にある「大濠一丁目」交差点で野菜を店頭販売しているお店です(ANTE-ROOM アンテルーム)。

衣料品店なのですが野菜や果物も販売しているというちょっと特別なお店です。そこに元祥さんの「禅農法」の野菜も販売されていると聞き飛び込みでうかがってみました。店主の古川さんに話を聞くと「店のコンセプトは“気持ちいい”」。人の気持ちいい感覚は万人に共通ではないかということで洋服は肌ざわりの良さを基準に揃えているそうです。

そして、生きていく上で口にする物も気持ちいいものをと思い、厳選した野菜や果物を並べているということでした。マル禅マークの元祥さんの野菜はリピーターも多く人気だそうです。「洋服はちょっとこれ持って行き!ってサービスはできないけど、野菜はそれができるからお客さんとのやりとりも楽しい」。古川さんは笑顔でそうおっしゃっていました。

40年以上前にはたくさんあった市場や商店街の雰囲気を思い出しました。大濠一丁目から六本松にかけてはレトロな雰囲気が漂っています。おそらくこのエリアもかつてはお客さんと店主の会話や関係が存在していたのだろうと想像できます。

そう思って店を眺めていると、1人の女性が野菜を買いに来られました。古川さんが教えてくれたのですが、その女性の年齢は90歳だそうです。きっと常連さんなのでしょう、古川さんがご自身の手で、商品はバッグに、お釣りも直接お客さんの財布に入れてあげている様子を見てそう感じました。

そしてそのお客さんの帰り際、古川さんは何も口にせずとも買い物バッグを持ち、もう片方の手でお客さんの手を握って段差を降りるのをフォローしてあげたのです。僕は思わずスマホを取り出し、写真を撮りました。無農薬野菜を買うご婦人の手を取る店主。バッグには「これ食べてみて」と古川さんがおまけした漬物も入っています。とっさに撮った写真ですが、何だかお守りをもらったような気がしました。

THE WRITER

松井聡史 / RKBテレビ制作部ディレクター
松井聡史 / RKBテレビ制作部ディレクター
カメラやパソコンよりも土を触ってる時間の方が圧倒的に長いRKB農園部(自称)。最近の仕事は、生ごみのコンポスト、畑の水やり、除草作業、野菜の販売、そして時々、番組企画書の作成。RKBラジオよなおし堂ではレギュラーでコーナーを持ち、SDGsを発信している。

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