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学校に通えない外国籍の子供たち…「熟練外国人の永住大幅拡充」を急げ

熟練外国人の永住を大幅に拡充するという、政府の方針が報じられた。「事実上の移民受け入れにつながる」との保守派の反発もあるが、「遅すぎる」と話すのは、RKB毎日放送の神戸金史解説委員。出演したRKBラジオ『田畑竜介 Grooooow Up』で、劣悪な労働条件や、すでに外国籍の子供たちが1万人も学校に通うことができていない問題についてコメントした。

「外国から労働者が来てくれない」経済界の危機感

4月25日の朝刊各紙に外国人労働者の問題が多く出ています。どの新聞も1面に取り上げていて、大きな問題だということがよくわかります。

外国人労働者の問題を重視しなければ、と私が思ったのは2016~17年ごろ。当時、日経新聞がキャンペーンを始めました。今でもよく覚えているのは「これから少子高齢化で労働力が足りなくなるので、外国人の労働力が要るのだが、日本語の障壁もあって、他の国に流れてしまう可能性が高い」、「日本に来てもらうためにどうしたらいいかを本気で考えなくてはならない」という記事が何度も出たことです。

日経新聞は、読者もスポンサーも財界、経済界の人たちが多くを占めています。つまり、論調は経済界の意思を反映していると考えていいでしょう。日経新聞という媒体が「外国人労働者をどうやって増やしていくか、どう日本を選んでもらうかということが一番大事だ」とキャンペーンを始めたことが、すごく衝撃でした。

例えば、2017年3月21日に日経新聞はこう書いています。

法務省によると、2016年に失踪した実習生は全国で5058人。(略)「逃げるのは失踪した実習生を雇う企業があるから」と話す。

待遇が非常に悪く、劣悪な労働条件だったり、妊娠したら国に返すと脅したり…ひとりの人間として認めず、ただの安い労働力として、技能実習生を受け入れてしまったという問題があります。記事の最後にはこうあります。

人口が細り、日本は外国人材なしに豊かで便利な暮らしを保てない現実に直面している。正面からの議論を避け、国際貢献や留学を口実にサイドドアから受け入れるやり方はもう限界だ。

それから、何年が経っているのでしょう? 外国人労働者が増えると「治安が悪くなる」と言う人がいます。地域に言葉がうまく通じない人が増えることに対する不安を抱いてしまうことは分かりますが、日経新聞が言うように、外国人材なしに、豊かで便利な暮らしを保てない現実に直面しているのが私たちなんです。

学校に通っているかどうか確認できない外国籍の子供が1万人超

4月23日に、衝撃的な記事が出ていました。学校に通っているかどうかを確認できない「就学不明」の外国籍の子供たちが1万677人に上っている、という文部科学省の調査が発表されています。小・中学校に通う年齢の外国籍の子供の約1割が「就学不明」。さらに、在籍もしていない子供たちが778人見つかった、というのです。

「外国人労働者が欲しい」と国に入れても、きちんとした対応を取っていない中で、劣悪な環境の中で逃げ出してしまったり、望まない生活を日本で送らざるを得なくなったりしている人がいっぱいいたわけです。今、小学校に入る6~7歳の子供たちは、先ほどの日経新聞の記事の頃に生まれた子たちですね。

就学不明になっている子供が1万人―――。外国人労働者の受け入れに対して日本の姿勢が、あまりに劣悪だったことの結果だと思います。教育も受けられていないこの子たちは将来どうなるのでしょうか? すでに日本社会にいるんです。

いわゆる「保守派」と言われる人たちは、国の治安を理由に外国人労働者の受け入れに強く反対していますが、現実的にはもう成り立たない状況です。中途半端に入れて、社会福祉的な面は後回し。子供を産んではいけないとか、極めて劣悪な状況に追い込んで何年も経ってしまっていることのツケが、まもなく来るんじゃないかと思っています。この記事を見て、非常に危機感を覚えました。

“保守派”は治安をどうする気なのか

「日本の治安を守りたいから外国人を受け入れるな」という、机上の空論みたいなことを言っていては、本当にまずいです。実際に徐々には受け入れているのに、その人たちに対する福祉をちゃんとしていないとなると、本当に治安の悪化につながるおそれがあります。

「国のことが大事だ」「私は保守派だ」と言う方々こそ、今いる外国人労働者の家族・子供たちに対する福祉をどうするのか本気で考えないといけませんね。

しかし、もう遅すぎるかもしれません。2016~17年ごろに議論をしたわけですが、そのまま放ったらかしになっています。そのツケが、就学不明の子供たち1万人という現実を引き起こしていると思います。

保守と言われる方々、外国籍の子供や労働者を受け入れたくないとおっしゃっている方々に、本気で考えてほしい。一刻も早く対応を進めるべきです。きちんと受け入れない私たちにこそ責任があり、子供たちには責任はありません。このままだと大変なことになると思います。

◎神戸金史(かんべ・かねぶみ)
1967年、群馬県生まれ。毎日新聞に入社直後、雲仙噴火災害に遭遇。福岡、東京の社会部で勤務した後、2005年にRKBに転職。東京報道部時代に「やまゆり園」障害者殺傷事件を取材してラジオドキュメンタリー『SCRATCH 差別と平成』(2019年)やテレビ『イントレランスの時代』(2020年)を制作した。

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この記事を書いたひと

神戸金史

報道局解説委員長

1967年、群馬県生まれ。毎日新聞に入社直後、雲仙噴火災害に遭遇。福岡、東京の社会部で勤務した後、2005年にRKBに転職。東京報道部時代に「やまゆり園」障害者殺傷事件を取材してラジオドキュメンタリー『SCRATCH 差別と平成』やテレビ『イントレランスの時代』を制作した。現在、報道局で解説委員長。