PageTopButton

警察官を撮影すると“カスハラ”?福岡県警が全国で初めて「カスタマーハラスメント対策」を明確化

「お客様は神様」ではない。企業は従業員を守るために理不尽なクレーマーに毅然とした対応をとるようになった。警察とて例外ではない。福岡県警は11日、市民から嫌がらせに近い不当な行為を受けるケースを想定して、全国で初めて警告を含む独自の「カスタマーハラスメント対策」を設けたと発表した。


◆トラブル対応の警察官に「ぶっ殺すぞ」
これまでに福岡県警の警察官や職員が経験してきた「カスハラ」には次のようなものがあるという。

・飲酒状態で警察署に居座り続ける
・トラブルに対応した警察官に「ぶっ殺すぞ」などと暴言を吐く
・電話対応に「無能、ばか、あほ、警察署に火をつける」などと発言
・「いつも警察に協力しているから見逃せ」と特別扱いを要求する
・「お前では話にならない署長を呼べ」と要求する
・電話対応で「通話内容をネットにさらす」と発言し対応した警察官を威圧する

アンケートに答えた警部以下の約8割が「カスハラ」の対応に苦慮し、そのうち4割は眠れなくなったり、入院したりするなど心身に支障を来しているという。若手の離職にもつながっているというから事態は深刻だ。


◆若手の離職要因にも「妥当性のない要求」
福岡県警はまず、警察が受ける「カスハラ」を独自に定義した。以下、その4分類を発表資料より引用する。

(1)反復・時間的拘束型
執拗に同様の申出・要求を繰り返すなど、その対応に職員が長時間拘束され、業務に支障が出るおそれがあるもの
(2)暴言・威嚇・脅迫型
大声を出したり、脅迫めいた言動、セクハラ行為など、職員が畏縮して業務に支障がでるおそれがあるもの
(3)権威型
優位な立場にいることを利用した暴言、特別扱いの要求をするなど、担当職員だけでは対応が困難なもの
(4)SNS・ネット等での誹謗中傷型
職務執行に係る動画の撮影、職員の氏名等のインターネット等での公表など職員の名誉やプライバシーが損なわれるおそれがあるもの

(4)の「SNS・ネットでの誹謗中傷型」は、「職務質問をことさらに撮影して、カメラを顔に近づけて挑発するなど職務執行の妨害になるケースがあった」ことを受けたものだという。一方で、職務執行中の警察官の撮影は、法執行機関による不当な扱いから身を守るための市民の自衛策(証拠保全)でもある。「動画の撮影」だけが一人歩きして「警察官を撮影したらカスハラ」と市民を畏縮させることも考えられる。

この点について、警務課の千代島秀樹統括管理官は「動画撮影自体は強制的に止めさせることはできないが、明らかに嫌がらせ目的と認められる撮影行為や捜査への支障が生じる可能性があるものがカスハラに当たると判断している」と述べている。


◆カスハラは「警告」30分で打ち切りも想定
福岡県警によると、去年12月に警部以下にアンケートを実施、約1万件の回答を得た。妥当性がない要求に業務時間が奪われケースは少なくなく、現に職員の勤務環境が害されているという。今後、カスハラに対しては状況に応じてその場で対応を打ち切る、警告するなどの毅然とした対応をとる。現場対応や電話は30分、窓口は1時間ほどを目安にしているという。

それでもなお、市民が「カスハラ」の可能性がある行動を続ける場合は「組織的な対応」を行うことにしている。また、実効性を担保するために、2023年度中にすべての警察署に通話録音装置を整備することにしている。録音装置はもともと配備予定だったものをカスハラ対策にも活用する。


◆警察組織では「全国初」事業主の対策
厚労省の企業調査(2020年)では、全国の6426企業のうち「顧客からの著しい迷惑行為を受けた」と回答した企業は19.5%に上った。パワハラ、セクハラに次いで割合が多く、増加傾向だという。カスハラは、従業員のパフォーマンスの低下や休職、退職の理由になるほか、企業も時間の浪費により業務に支障をきたすことになる。事業主が従業員を守るためのカスハラ対策は時代の要請だ。任天堂は去年10月に保証規定に“カスハラ項目”を盛り込み話題になった。百貨店の高島屋や公共交通機関のJR西日本をはじめ「対策」を明確化した上で対外的に公表する企業がこのところ相次いでいる。

福岡県警は、警察組織でその先陣を切った。とはいえ、市民はカスタマー(顧客、得意先、取引先の意味)なのだろうかというわだかまりは残る。

この記事はいかがでしたか?
リアクションで支援しよう