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我が愛しのプロンデュクセル!昭和40年から天神と共に、時を刻む洋食レストラン

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子どもの頃から、家族で食事に出かけるのが大好きでした。なかでも祖父や祖母と「中洲大洋」や「天神東宝」で映画を観て、天神で食事をする日は特別。「ツンドラ」に「平和楼」、イムズのレストランフロア、ソラリアの「ばん」、新天町の「千成屋」も。残念ながら、今はすべて思い出のものとなってしまいましたが、変わらないものもあります。

天神 レストラン達 外観

それは北天神のモスバーガーの隣に、薄暗い階段を降りた先にある洋食店。天神に店を構えて60年を迎える名店「レストラン達」です。重厚感のある看板とアールデコ調の扉が印象的なエントランスが素敵。当時のモダンさをそのまま残したような空間にも愛しさが込み上げます。

天神 レストラン達 店内

背筋が伸びるような高揚感と頬が自然にゆるむ安心感。そういった、老舗レストラン特有の雰囲気、活気ってありますよね。「レストラン達」は、まさにそんな空気に満ちたお店。ランチタイムはビジネスマンをはじめとしたゲストで賑わい、ディナータイムには若いカップルからご年配の夫婦、家族客も訪れ、みな温かな時間を過ごしています。

天神 レストラン達 写真 開業当時の蔦に囲まれた「レストラン達」。店の前にはまだ路面電車が走っていた。「日若酒店」はその後、ビルに建て替えられ、1987(昭和62)年に現在の地下へ

「レストラン達」は、1965(昭和40)年8月に創業しました。この4年前にあたる1961(昭和36)年は、当時の西鉄福岡駅が高架化され、福岡バスセンターや福岡ビルが開業した年です。商業ビルやオフィスビルも次々と建設され、福岡の中心地は一気に博多から天神地区へ――。そんな時代に、実家が営んでいた「日若酒店」の一部を改装し、当時はまだ珍しかった洋食店を開いたのが故・篠原達さん(写真右上・右)。料理長を任されたのが達さんの後の伴侶となる現オーナーシェフの篠原安之さん(写真右下・右)でした。

天神 レストラン達 シェフ 「味がブレたりしないよう、自分自身が健康でいることも大切」と、空手や古武道で体を鍛えているという現役バリバリの篠原シェフ(写真中央)

篠原シェフは長崎県・壱岐の出身。幼い頃からおいしい海と山の幸に囲まれ、物心ついた頃には包丁を握り、迷うことなく料理の道へ進んだと言います。数々の洋食レストランで腕を磨き29歳になった頃、先輩の紹介をきっかけに“料理人を探している”という達さんに出会いました。

レストラン開業後もさらなる向上を目指してフランスへ研修に渡ったり、「中村学園大学」や大阪の「辻調理師学校」で開かれる著名なシェフの講習会にも都度参加するなど、とにかくひた向きに研鑽を積みました。「お客さんに喜んでもらいたい」という一心で料理に励み、御年86歳となった今もその気持ちは変わりません。篠原シェフの右腕として20年に渡り厨房を支えるセカンドシェフの石橋さん(写真右)、22歳の若きシェフ柏木さん(写真左)、2人の娘さんやお孫さんと共に、「レストラン達」を守り続けています。

天神 レストラン達 メニュー 天神 レストラン達 メニュー

貴重な当時のメニュー表も見せていただきました。表紙のデザインやフォントが素敵! ビーフカレーライス150円、達名物ハンバーグステーキ250円という価格にも驚きます。プロヴァンサルライス、スパゲティカルソーなるメニューも気になりますね。

天神 レストラン達 ビーフシチュー

さぁそれでは、愛しの洋食メニューもご紹介していきましょう。

「レストラン達」と聞いて、まず思い浮かぶ料理といえば「ビーフシチュー」(4,950円)。長崎・壱岐、宮崎、鹿児島県産をはじめとしたA4~5ランクの上質な和牛を使用し、約1カ月かけて作られる名物です。毎月、月初めの10日間ほどしか登場しないため“幻のビーフシチュー”とも呼ばれ、予約は必須。お店の前に「お待たせしました!ビーフシチュー」の旗がなびいている時が、ビーフシチュー登場の合図です。じっくり煮込まれた牛肉は舌の上でとろけるほどに柔らかくまさに絶品!

天神 レストラン達 ハヤシライス

続いてもう一つ、ビーフシチュー終了後に控えているお楽しみメニュー「ハヤシライス」(サラダ付き・2,420円)も忘れてはいけません。こちらは、月半ば10日間ほどしか出合えない数量限定メニュー。たっぷりの野菜や牛スジなどの素材をじっくりと炒め、煮込み、裏ごしをして……と丁寧な手仕事を何度も繰り返し、丹念に仕込まれたビーフシチューのソースと、和牛ロースで作られる逸品。それはもう堪えられないおいしさです。

天神 レストラン達 レモンステーキ

また、選りすぐりの牛サーロインを使った「レモンステーキ」(3,520円)も人気。熱々の鉄板に乗って登場し、レモンが効いた醤油ベースのソースも食欲をそそります。肉料理や魚料理といった単品メニューはプラス1,100円で、スープ、サラダ、ライスまたはパン、ソルベ、コーヒーがセットになった“コース”として楽しむこともできますよ。

天神 レストラン達 プロンデュクセル

そしてお待たせしました。こちらがタイトルにも掲げた、我が愛しの「プロンデュクセル」(2,530円)です。開いた大ぶりの海老の上に、カニの身をたっぷりと混ぜ込んだ自家製のベシャメルソース(フィリング)をのせて揚げた逸品。言うなれば、エビフライとカニクリームコロッケを合体させた夢のような料理です。

天神 レストラン達 プロンデュクセル

運ばれてくる瞬間から漂う芳ばしい甲殻類の香りに、細やかなパン粉を使った上品な薄衣。口の中でとろけるクリームとカニの旨味、大きな海老ならではの“バシッ”とした食感、程よい酸味を湛えた滑らかなトマトソースも絶妙です。物心ついた頃から今に至るまで訪れる度に欠かさず注文していますが、いつ食べても本当に至福のおいしさ! シェフの丁寧な仕事に加え、温かな外食の思い出もパンパンに詰まっているので、心の底から幸せな気持ちになれるんです。

天神 レストラン達 オニオングラタンスープ

そこへさらに、熱々トロトロの「テールオニオングラタンスープ」(1,870円)を追加すれば、もう言うことはありません。誕生日やクリスマスがきたかのような胸の高鳴り、高揚感! まずはベースとなる素材を煮込み、丁寧に下処理して焼いた牛テールを加え、さらに煮込む……。そうして約2日かけて完成するテールコンソメは琥珀色に輝く贅沢な味わいで、じっくり炒めた飴色タマネギの甘味が豊かに重なります。

天神 レストラン達 店内装飾 天神 レストラン達 店内装飾 天神 レストラン達 看板 天神 レストラン達 ドレッシング

その他、特選黒毛和牛のハンバーグステーキやハンガリアンオムレツ、ステーキピラフやシーフードドリアなど、愛しのメニューを挙げればキリがなく……。それどころか、料理以外にも好きなものが多すぎて困ってしまうほど。刺繍のコースターやレトロなナプキンホルダー、1階の入口に飾られた手描きのイラストメニューも実に愛らしく、販売もされている自家製ドレッシングも大好きです。

天神 レストラン達

「既製品は使わず、新鮮な材料を選び、スープやソース、ドレッシングも手作り。お客さんにも健康でいて欲しいからミネラル豊富な岩塩を使って、料理の塩分が強くなりすぎないよう気をつけています。手間を惜しまず、おいしいと喜んでもらえるように心を尽くすことが大切。特に子どもの舌は正直だから。こんな手紙をもらった時は本当に嬉しいね」。篠原シェフはそう笑って、最後に可愛らしいお客様から贈られたという手紙を見せてくれました。

――大好きなお店がずっと変わらずその場所にあって、大切な人とおいしい時間を過ごすことができる。それはなんて幸せなことでしょうか。「レストラン達」は紛れもなく〈福岡の愛すべき名店〉で、改めて感謝の気持ちでいっぱいになったのでした。

店舗名:レストラン達(たつ)
ジャンル:その他レストラン
住所:福岡市中央区天神3-16-1 天神日若ビルB1F
電話番号:092-751-7302
営業時間:11:00~OS14:20、17:00~OS20:20
定休日:月曜、第3・4火曜
席数:テーブル30席
個室:なし
メニュー:今月のランチ・サービスメニュー(サラダ、ライスorパン、コーヒー付き)1,760円~、テールオニオングラタンスープ1,870円、プロンデュクセル2,530円、レモンステーキ3,520円、ビーフシチュー(時期・数量限定4,950円)、ハヤシライス(時期・数量限定2,420円)、コース料理4,730円~
URL:https://www.instagram.com/restaurant.tatu

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この記事を書いたひと

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