土砂災害が起きた竹野地区 300年前の古文書に酷似の記述 専門家は「防災につながる」と注目 九州大雨
7月に九州北部を襲った大雨では、ハザードマップ上で危険な地域に指定されていない場所でも被害が発生しました。災害の歴史をひも解く専門家は、1冊の古文書に着目、「自分の経験に頼りすぎないで」と呼びかけています。
みんなが口にする「こんなことは初めて」の災害
久留米市田主丸町の竹野地区。連日、住民やボランティアが住宅に流れ込んだ土砂を撤去するなど復旧作業に追われています。
RKB下濱美有記者「土砂が大きく流れ込み、家を押しつぶしています」
竹野地区では、7月10日記録的な大雨で土石流が発生、10人が巻き込まれ70代の男性が死亡したほか5人がけがをしました。
住民
「水も流れているし、土も、周りに植わっている杉林も全部流れている。こんなことは初めてです」
「もう70年間生きて初めて。水害に遭うとは夢にも思ってませんでした」
九州大学工学研究院 西山浩司助教
「あれ?…ない」
「ここに鳥居があったはずなんだけど…」
住民が「こんなことは初めて」と口をそろえる竹野地区。気象災害史が専門の九州大学の西山浩司助教が現地調査に訪れました。
九州大学工学研究院 西山浩司助教
「ここは徳間神社というところで、徳間村という村があった場所です。もう少し行くと竹野村。この2つの村が大きな被害を受けました。だから300年前とほぼ同じような状況だったと思いますね」
うきは市が所蔵する「壊山物語」では同じ地区が被害に
西山助教は、7年前から竹野地区を含む耳納連山付近の災害について古文書を読み解いたり、何度も現地を歩いたりして過去の災害について調べています。
西山助教が読み解いたのは、うきは市教育委員会が所蔵する「壊山物語」という古文書。300年ほど前の享保5年・1720年に耳納連山全域で起きた土砂災害について記されています。
「この度筑後耳納山山汐大変の儀」という記載がありました。
九州大学工学研究院 西山浩司助教
「『山汐』というのは『土石流』のことです。この地域で発生したということが書いてある。
『岩石、水とともに流れ来たり』という記載もありますね。つまり、天然ダムが1回できて、それが崩れて水とか砂とか岩が流れてきた。
『徳間村と竹野村は大変』という風に書いてあります。今回の被災地、先ほど見た徳間神社が被災していましたよね、あの辺りが、当時も大変だったということですよね」
西山助教は「壊山物語」に詳細に書かれた当時の被災状況が、今後の防災にとても参考になると考えています。
九州大学工学研究院 西山浩司助教
「『30あまりなる男、大石に当たって砂に埋もれて、ついにはむなしくまかりなる』と書かれています。つまり亡くなった、と書いてある。被害状況をそのまま記載しているので非常に生々しい話ではあるんです。ただ、これを見ることで実際に何が起こるかということがはっきり分かりますから、こうならないために何が出来るのかということが、この地域の今後の防災に繋がります」
300年前に山から流れてきた? 柿畑に残された岩
竹野地区の隣にある大慶寺地区です。300年前の土石流の痕跡が今も残されている場所があります。
九州大学工学研究院 西山浩司助教
「300年前の昔の記録の中に、7メートルくらいの岩が流れてきたと書いてあるんですよ、大慶寺で」
地元の人が柿畑の中を案内してくれました。
地元の住民「こっちにある岩は、1個は上が平。子供の頃は遊びよった」
土石流で流れてきた岩か尋ねると、「それは分からん。実際に見た者がおらんけん。伝え話で聞いただけやけん」
九州大学工学研究院 西山浩司助教
「古文書に書いてあったのは、長さ4間、幅が2.5間、なんとなくこの岩くらいの大きさじゃないでしょうか。これが転がってきたらひとたまりもないですね」
RKB小畠健太記者
「多くの被害が出た土石流の現場から少し離れたこちらのお宮にも、土砂や流木が流れ込んでいます。実はこちらの場所はハザードマップ上の土石流警戒区域からは外れた場所なんです」
西山助教は、ハザードマップに示された危険区域はあくまで「目安」だと話します。
九州大学工学研究院 西山浩司助教
「少し外れていても危ないということは十分にあります。これはあくまで目安です。ハザードマップだけでは、分からないんですよね。実際にそこで何が起こったのかということをはっきりと過去の歴史の中からあぶり出して、それをしっかり地域の方に伝えていく、それで災害のイメージができるようにすることが大切です」
自分の経験だけに頼らないことが大切
西山助教は、調査の結果分かったことをホームページにまとめたり、地域ごとに勉強会を開いたりして住民に対して周知を図ってきました。100年程度のスパンでは起きていない災害も数百年遡れば起きていたということは少なくありません。自分の経験に頼りすぎずに災害に備えておくことが大切です。
九州大学工学研究院 西山浩司助教「自分の寿命のうちに起きない可能性の方が高いわけですよ。ということはここは起きないものだとみなしてしまうんですよね。しかし、実際には起きているので。ここの地域の方だけじゃなくて、耳納山全域に住んでいる方は、『次は自分の所でも起こるんだ』と思って対策を立ててほしいと思います」
この記事はいかがでしたか?
リアクションで支援しよう
この記事を書いたひと
小畠健太
1983年生まれ、岡山県出身。2008年入社。「寄り添った取材」をモットーに10年以上取材に取り組む。3児の父 趣味は釣りと楽器演奏