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今年3月、佐賀県鳥栖市の実家で両親を殺害したとされる19歳の長男の裁判員裁判です。検察側は「2人の命が奪われた結果は極めて深刻。反社会性、反倫理性は著しい」として、懲役28年を求刑、弁護側は刑罰ではなく保護処分を求め、裁判は結審しました。裁判では、長男の心理状態に多くの時間が費やされました。
両親を殺害したとして19歳の長男を逮捕・起訴
事件が起きたのは、今年3月9日。佐賀県鳥栖市の実家で刃物で刺され死亡した50代の父親と40代の母親が見つかりました。その両親をナイフで刺し殺害したとして逮捕されたのが当時、九州大学工学部に通っていた19歳の長男です。
事件の背景に父親の虐待 検察・弁護側も争わず
今月1日から始まった裁判員裁判。父親の殺害については、小学生のころから学習成績に対して叱責、または虐待されたことに長男が復讐心を抱き犯行に及んだものとして検察側、弁護側ともに争いはありませんでした。
争点1 母親への殺意があったのか
主な争点となったのは2つです。1つめの争点は「母親への殺意」です。検察側は、父親の殺害を止めようとした母親を排除するため殺意を持って左胸などを複数回刺したと主張しました。弁護側は、止めに入った母親をどかそうとしてもみ合った際にナイフが刺さった可能性があるとして、殺意はなく傷害致死にとどまると主張しています。
争点2 刑罰か、保護処分による更生か
もう1つの争点は、懲役刑などの刑罰を科すべきか少年院送致など更生を目的とする保護処分にすべきかです。検察側は原則、刑事処分が相当とされる殺人罪であり、凶悪性や悪質性を大きく減じて保護処分を許容しうるほどの特段の事情は無いと主張しました。一方、弁護側は、被告人質問の多くの時間を使って父親から受けたとされる虐待の内容とその時の心理状態の立証に努めました。
長男と弁護士のやりとり
弁護側 「仕打ちとは具体的にどのようなことですか」
長男 「父による人格否定や暴力のことです」
弁護側 「暴言や暴力を受けて精神面への影響はありましたか?」
長男 「心がどうしようもない状態で壊れそうになりました。いつか仕返ししてやると思うようになり、高校生になって殺してやると考えました」
弁護側 「殺すのを辞めるというのは考えなかったですか?」
長男 「自分がいつか仕返しをするということをずっと支えにして生きてきて。それを放棄すれば、これまで生きてきた意味がなくなるので、放棄することはできませんでした」
弁護側は、長男の家庭環境や成育歴19歳という年齢などから保護処分で更生することが十分に可能とした上で、虐待が原因で起きた事件で遺族が寛大な処罰を求めているなどとして、「犯行の悪質性を大きく減少させて保護処分を許容できる特段の事情がある」と主張しています。
検察側 懲役28年を求刑
7日の論告求刑で、検察側は傷の数や深さなどから母親への殺意が認められるとした上で「2人の命が奪われた結果は極めて深刻。反社会性と反倫理性は著しく、保護処分を社会的に認めることはできない」などとして、懲役28年を求刑しました。
弁護側 保護処分か、懲役5年が相当
一方、弁護側は母親への殺意はなく傷害致死にとどまるとした上で、父親からの虐待が原因で起こった事件で遺族が寛大な処分を求めていることなどから、更生を目的とする保護処分とするべきと主張し、刑罰であっても懲役5年が相当と訴えました。
長男が述べた後悔
両親をナイフで刺し殺害したとされる19歳の長男。最後の意見陳述で話したのは事件を起こした後悔と、償いの気持ちでした。
「父のことを思い出すと感じることは、腹の底から湧き上がる恐怖と憎悪です。一挙手一投足に口を出してくることに対して、父に怒りや恐れの感情をいだいていましたが、それを感じさせないように、父を尊敬しているように思わせるように演技していました。父を恐れすぎるあまり、敬語で話した時期もありましたが、距離感が遠く感じられるといって怒られました。理想の息子像のように振る舞うことで、父が怒らないようそれを利用しました。父から離れることは、できるできないというようなことではなく、考えることもできないようなことでした。父を殺害してしまったことは、他の選択肢が見つからなかったとはいえ深く後悔しています。
母親については、殺害の意図はありませんでしたが、殺してしまって息が詰まるような感情です。
祖父母の悲しみも計り知れませんが、その感情を必死で考えることも償いの一部と考えています。どうにか償いの道を考え続けたいと思います」
長男への判決は、9月15日に言い渡される予定です。
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