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専門家が「増税」と話すインボイス制度  影響を受ける事業者、受けない事業者 WEBデザイナーと居酒屋店主の選択

10月から、消費税の納入に関して新しく「インボイス制度」が始まりました。納税の透明性や公平性には不可欠な制度ですが、専門家によると、実は同じ個人事業主でも影響を受ける業種と受けにくい業種があるといいます。WEBデザイナーと居酒屋店主がとったそれぞれの選択とは。

免税事業者は「登録事業者」になれない

しかし、登録事業者になるには条件があります。

 


公認会計士 力丸宣康さん
「中小企業を助けようという政策的な配慮から『免税事業者』という制度があって、売り上げ1000万円以下の企業や事業主は、これまでお客さんから消費税を預かっても国に納付する必要がありませんでした。国としては、今回インボイス制度を導入することによって、免税事業者が課税事業者になる、という思惑があります」

売上1000万円以下の事業者はこれまで消費税の納税が免除されていましたが、インボイスを発行するためには、課税事業者となり消費税を納める必要があります。

WEBデザイナーは「登録事業者」を選んだ

課税事業者となるのか、免税事業者のままでいるのか。フリーランスでWEBデザインなどを手掛ける吉田深雪さん(40代)は、取引先からの要望を受けて今年8月「インボイス発行事業者」に登録しました。

 


WEBデザイナー 吉田深雪さん
「取引させていただいているクライアントさんから『インボイスどうするの?』と言われて『やっぱり必要ですか?』という話をしたら、『登録してもらえると助かる』と言われました。それで登録した次第ですね。私が登録しないと『適格請求書を発行できる他の方に依頼しよう』という流れになってしまう可能性がある。私としても困るので、登録事業者になるしかないという感じです」

吉田さんは、売上が1000万円以下の「免税事業者」でしたが、インボイスを発行できるようにするために「課税事業者」になりました。フリーランスになって2年目。これから売上を伸ばしていこうという時に、負担が増えることに不安を感じています。

 


WEBデザイナー吉田深雪さん
「今までもらえていたものが、減ってしまう。できたら単価を上げていきたいんですけど、難しい部分もあり……」

居酒屋店主は「登録しない」を選んだ

一方、当面は「免税事業者」のままでいることを選択した人もいます。福岡市内で居酒屋とうどん店を経営する守山範行さん(50代)です。

 


角打ち凛々 守山範行さん
「売上を上げて消費税も申告所得税もきちんと納めることが一番良いのですが、なかなか今は、新型コロナ以降厳しい状況です」

守山さんは、新型コロナの流行前は3店舗を経営していましたが、緊急事態宣言の影響で1店舗を閉店。いまだに客足は戻っておらず消費税を負担するのは厳しいと話します。

 


角打ち凛々 守山範行さん
「毎日わずかな売り上げで、現金仕入れでしている中で、消費税をまた別途支払わないといけなくなれば、年間で何十万円という金額を払わなければいけない、そんな余裕は本当にないです。今の状況では」

免税事業者のままでいた場合、領収書精算に対応できなくなりますが、守山さんの場合は、消費税を負担するよりも影響は少ないと考えています。

インボイスの影響受けない事業者もある

多くの相談にのっている公認会計士の力丸宣康さん力丸さんによると、実は、インボイス制度では、影響をダイレクトに受ける事業者と、ほとんど影響がない事業者があるといいます。

 


公認会計士 力丸宣康さん
「BtoB、つまり企業間で取引をしている事業者にとっては、死活問題になります。登録事業者にならなければ、取引料金値下げの対象になるかもしれないし、取引自体をもしかしたら失うかもしれないので、業種や、今後どうやっていきたいかという話を聞きながら相談に乗っている状況です。
一方で、例えば医科・歯科や、個人客だけを対象にした飲食店などは、訪れる客が経費として領収書を求めるケースが少ないので、インボイス登録しようがしまいが集客に関係はありません。この方たちには、『登録事業者にならずに、免税を続ける選択をしましょう』という話をしています」

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この記事を書いたひと

小畠健太

1983年生まれ、岡山県出身。2008年入社。「寄り添った取材」をモットーに10年以上取材に取り組む。3児の父 趣味は釣りと楽器演奏