「歴史のデマ」振りまく団体を後押しするのか?群馬県の追悼碑撤去問題
戦前、日本にやってきて命を落とした朝鮮人の追悼碑は各地にある。そのひとつを群馬県が撤去しようとしている。歴史改ざんを厳しく批判してきたRKB毎日放送の神戸金史解説委員長は群馬県生まれ。1月30日に出演したRKBラジオ『田畑竜介 Grooooow Up』で、デマやフェイクを振りまく歴史修正主義を結果的に後押ししている県の姿勢を問題視した。
群馬県が撤去を開始した追悼碑
今日は、朝日新聞の朝刊に出ていた記事を紹介したいと思います。
朝鮮人追悼碑、群馬県が撤去開始 「強制性」記述めぐり抗議各地でもhttps://digital.asahi.com/articles/ASS1Y6V3NS1YOXIE00N.html?iref=pc_national_top__n
県立公園の「群馬の森」は26ヘクタールあり、子供の頃は「限りなく広い公園」と思っていました。その「群馬の森」に戦前、事故などで亡くなった朝鮮人労働者を追悼する碑が2004年に建てられましたその追悼碑を撤去する工事が始まったという記事です。
多くの反対運動もある中で、群馬県が踏み切りました。建築の際は、県議会も全会一致で設置に賛同していて、アジアの平和と友好を願う内容を刻んだ碑なのですが、その碑の前での集会で「強制連行の事実を訴えたい」などの発言があったことを問題視した県が、利用を認めないという態度に出て、設置の許可更新を拒んだのです。
これについては裁判があり、1審は県が違法と判断しましたが、控訴審で県が逆転勝訴、最高裁で確定しました。碑の設置許可を更新しなくてもいい、ということになったのです。群馬県の山本一太知事は会見で、運営の仕方に「ルール違反があった」としています。しかし、「碑文の中身に問題はない」とも言っているのです。
毎日新聞1月25日
『群馬知事「歴史認識の問題でない」 朝鮮人労働者追悼碑撤去』https://mainichi.jp/articles/20240125/k00/00m/010/216000c
東京では「虐殺なかった」と碑の撤去を主張
実は、こういう朝鮮人追悼碑の撤去を求める人たちの要請活動が日本中で広がっています。関東大震災での朝鮮人虐殺の追悼碑(東京都立横網町公園)について、私は2023年9月1日に取材しました。「虐殺はなかった」というデマを信じてしまっている人たちがいます。「犠牲になった方は233人しかいないんだ」と言って「真実の追悼祭をやるんだ」と主張しました。
朝鮮人を殺したとして刑事事件に問われた日本人がいます。そうした刑事事件の被害者数の集計が233人なのですが、これは全体のごくごく一部にとどまっていることは明らかです。だけど彼らの言い方によると、「233人は日本に対する暴動を起こして、それに対する自衛行為の結果殺されてしまったけれど、それはそれで追悼しようじゃないか」と。ちょっとねじれた形で「虐殺がなかった」と主張する人たちが追悼祭をやっているのです。それで大もめになりました。
実は「群馬の森」の追悼碑についても、同じ団体が撤去を要望しています。群馬県知事は、運用の仕方、ルールに違反していたと言っていますが、結果的には、デマを広めている団体の意見を採用して碑を撤去することになっているのです。
朝日新聞の社説では、「戦前の日本を美化する風潮が強まる中、一部の勢力から抗議を受けた県が、政治的中立を盾に事なかれ主義に陥っているとすれば、歴史改ざんに手を貸すことにもなる。きわめて危うい事態だ」と書かれていました。これは全く同感です。判決は撤去まで求めていないのです。
朝日新聞 1月30日社説
『朝鮮人追悼碑 知事は撤去を中止せよ』
https://digital.asahi.com/articles/DA3S15851130.html?iref=pc_rensai_long_16_article
歴史修正主義者の狙いとは
東京都の朝鮮人虐殺慰霊碑前の追悼式典にも抗議が来て、トラブルが起きています。抗議の目的は「慰霊式典自体を中止させ、慰霊碑を撤去させることだ」と、団体も言っています。自分たちが「真実の慰霊祭」をやることによって、本来の慰霊祭とは別にもう一つあるじゃないか、と。「もめているのだったら両方を中止させてしまえ」と東京都が命じることを狙っています。同じ団体が、群馬の碑についてもいろいろな主張をして、県に要請もしているのです。
産経新聞2023年6月16日付
『最高裁決定から1年「早く撤去を」 群馬の森・朝鮮人追悼碑前で集会』
https://www.sankei.com/article/20230616-PMSU6ICS7ZLELBGRLSJRFRGVTU/
群馬県が全国の先鞭となる可能性
この件については、韓国でものすごく大きくニュースに取り上げられています。「またか」と思いました。こうやって国と国の関係が乱れてしまう…。撤去を求めている側と、結果的にそれに加担してしまっている知事の立場に私は立てません。
群馬県は私の故郷であり、県庁には同級生がいっぱいいます。この件に関わらされているのではないかと思うと、げんなりしてしまいます。歴史改ざんの流れを後押しするようなことになってしまってはいけません。「友好」について願う碑自体は問題ないと知事が言うのだったら、その碑を存続させて何の問題があるのでしょう。
昔の発言について、その後は何も問題は起こっていないのに、撤去するという知事の決断については、極めて大きな違和感を持っています。何か、故郷が汚されてきているような気がします。
これは「群馬の森」だけの問題ではなく、日本中でこういうことが起こり得ます。先鞭になる可能性があるんです。福岡にも追悼碑はあります。こういったことを認めてはいけないと私は強く思っています。
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この記事を書いたひと
神戸金史
報道局解説委員長
1967年、群馬県生まれ。毎日新聞に入社直後、雲仙噴火災害に遭遇。福岡、東京の社会部で勤務した後、2005年にRKBに転職。東京報道部時代に「やまゆり園」障害者殺傷事件を取材してラジオドキュメンタリー『SCRATCH 差別と平成』やテレビ『イントレランスの時代』を制作した。現在、報道局で解説委員長。