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「政治はどこを向いている?」裏金事件と政治資金規正法案から考える

潟永秀一郎

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1月に始まった今国会も、残す会期は約1か月。パーティ券裏金問題を受けて、最大の課題である「政治資金規正法」の改正は間に合うのかだろうか。問題を起こした当の自民党の改正案は、連立与党を組む公明党の同意も得られていない。元サンデー毎日編集長・潟永秀一郎さんは17日に出演したRKBラジオ『立川生志 金サイト』で「政治はどこを向いているのか?」と指弾した。

公明党の合意得られない前代未聞の事態

皆さんもそうでしょうが、私も「何やってんだ」という思いです。先の三つの衆議院補欠選挙で自民党は事実上全敗して、「裏金問題は許さない」という民意は示されているのに、まだ何とか抜け道を残そうとするかのような素案を出して、連立与党を組む公明党の合意すら得られず、自民党単独で改正案を出すという前代未聞の事態だからです。しかも、それすらまだまとまっていません。怒りを通り越して、あきれますよね。

なぜ、何が引っかかって、こんなことになっているのか、各党の改正案はどうなっているのか、をはじめにおさらいするとともに、そもそもパーティ券問題の背景に何があるのかも考えてみたいと思います。

最初に、主な各政党の政治資金規正法改正案が、今どうなっているか、です。ポイントは三つ。「連座制」の導入と、政策活動費の使い道の公開、そして政治資金パーティなど「企業・団体献金」の取り扱い――で、ここに絞って説明します。

まずは与党です。実は自民、公明両党は5月9日にいったん「与党案」をまとめることで合意していました。連座制については「議員に収支報告書の『確認書』を作成するよう義務づけ、会計責任者が不記載などで処罰された場合、議員が十分にチェックしないまま確認書を作成していれば、議員も処罰され、公民権が停止される」という内容です。

また、政党から議員個人に渡される「政策活動費」については、「支払いを受けた政治家が党に使い道を報告し、それを党が収支報告書に記載しなければいけない」というもの。ここまでは合意したんですが、パーティ券を購入した人の公開基準について、公明党は「5万円を超える場合」と主張し、自民党は現行の「20万円を超えた場合」よりは「引き下げる」としたものの金額を明示せず、折り合わないまま、玉虫色の決着でした。

その後、両党は持ち帰って具体的な改正案の作成を図りましたが、公明党はパーティ券の購入者公開基準で「5万円超」は譲れないとして法案はまとまらず、結局、自民党は公開基準を「10万円を超えた場合」とする独自案を出すことになりました。そもそも公明の当初案は「連座制の導入」や「政策活動費の使途公開義務付け」を打ち出していて、9日の合意にも不満がくすぶっていたという背景もあります。

野党側から「抜け道だらけ」の批判が噴出

ただ、けさ(5月17日)の毎日新聞デジタルによると「(独自の)法案を出せば、自民との協議決裂をより印象づけることになるため、提出を見送る方針」だといいます。公開基準など、自民と合意できなかった部分については、与野党協議の場で考え方を訴えるとみられます。

ということで単独提出になった自民党案ですが、来週半ばからとみられる政治改革特別委員会での審議入りを前に、野党側からは早くも「抜け道だらけ」の批判が噴出しています。

まず連座制ですが、本来「連座」とは、議員事務所の会計責任者が政治資金収支報告書に不記載=収入を書かなかったり、虚偽記載=うその記載をしたりした場合、議員も罪を問われる仕組みです。

ところが自民党案では、「会計責任者が処罰」つまり有罪が確定した場合に、「十分にチェックしないまま確認書を作成していれば」という二重のハードルがあります。だから例えば、今回の裏金問題に照らすと、議員本人が立件された3人以外、裏金を受け取っていた82人で事務所の会計責任者が立件された議員はいないので、全員セーフです。

また、これら議員はほぼ口をそろえて「任せていた」「知らなかった」などと弁明しました。これに関して自民党案では「確認書の作成とチェック」を義務付けますが、何をチェックするのか、どこまでチェックすれば「十分」なのかが明らかでなく、野党側は「抜け道を残そうとしている」と批判しています。

次に「政策活動費」です。議員が使い道を党に報告して党が収支報告書に記載する、としていますが、これも1件当たり50万円を超える場合、しかも記載されるのは大まかな項目だけで、野党からは「大きなブラックボックスが、小分けにしたブラックボックスになるだけ」と批判されています。

野党案の一本化は困難

では、野党側の対案はどうなっているのか、立憲民主、国民民主、日本維新の会、共産の4党について見ていきます。

まず連座制については、4党とも「導入」で一致しています。立憲と共産はさらに罰則の強化や法定刑の引き上げなどを盛り込み、国民民主は「議員が起訴された場合、政党交付金の交付を一部停止する」としています。

次に政策活動費ですが、立憲と共産は「廃止」。維新も現行制度は「廃止」し、使途や領収書の公開を前提とした「新制度を検討する」としています。国民民主も維新とほぼ同じ趣旨で「使途の公開を義務付ける」としています。

政治資金パーティについては、立憲が「全面禁止」。維新と共産は「企業・団体の購入禁止」で、以上3党はパーティ券に限らず、企業・団体献金については全面禁止を打ち出しています。一方、国民民主は「購入者の公開基準を5万円超に引き下げる」とし、政治資金の寄付と同様に、外国人の購入を禁止するとしています。

このように野党各党、一致するところもあればズレもありますし、これ以外に政党助成金の廃止やパーティ券収入の課税といった独自案もあって、一本化は困難です。ただ、先日の衆院補選の結果を受けて「対・自民」の構図は動きそうになく、実際、内容に隔たりもある立憲と国民民主が、改正案の共同提出に向けて一致する部分の条文化を進め、週明けの提出を目指しています。あらためて、選挙で民意を示すことの大切さを実感します。

政治はどこを向いていたのか?

最後に、そもそも今回のパーティ券裏金問題の根っこにあるもの、つまりは毎年億単位のカネが有力者に流れることで、政治はどこを向いていたのか、ということを考えます。

例えば、消費税です。1989年に消費税が創設されてからこれまで、国と地方を合わせた消費税の総額はおよそ476兆円にのぼります。「年金や医療、福祉の財源」とされますが、この間、法人税率は段階的に引き下げられて合計324兆円減っています。さらに経団連は去年、少子化対策の財源として「消費税引き上げは有力な選択肢の一つ」と、政府に提言しています。

法人(企業)に関して言うと、輸出品にかかる消費税率はゼロで、それどころか、原材料や部品の仕入れにかかった消費税分は輸出企業に還付され、元静岡大学教授の湖東京至氏によると、その額は2020年度、自動車や電機など上位10社だけで1兆2000億円を超えます。消費税率が上がると、還付金はさらに増えます。

法人税引き下げも、輸出企業への消費税還付も「企業の国際競争力を高めるため」などと言われています。

この間、サラリーマンの平均年収はバブル期の1992年をピークにじわじわと下がり、近年持ち直しつつあるものの、まだ92年のレベルに達しません。一方で、税と社会保障負担を合わせた国民負担率は、10%以上上がりました。預金金利は91年当時、普通預金でも3%を超えましたが、今はほぼゼロで、株価だけがバブル期を超えています。構造改革の名のもと、非正規雇用も大きく増えて、格差は拡大しました。

多くは言いませんが、これが現実です。政治は変わるのか――。政治資金規正法改正案の審議は、いよいよこれから本番です。

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この記事を書いたひと

潟永秀一郎

1961年生まれ。85年に毎日新聞入社。北九州や福岡など福岡県内での記者経験が長く、生活報道部(東京)、長崎支局長などを経てサンデー毎日編集長。取材は事件や災害から、暮らし、芸能など幅広く、テレビ出演多数。毎日新聞の公式キャラクター「なるほドリ」の命名者。