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「子育て、もう無理…」SOSを引き受ける福岡市のショートステイ里親とは

radiko podcastで聴く

「精神的に辛くて、子供に当たってしまう」「急な入院で、子供を見てくれる人がいない」。こうした親のSOSを、地域の里親家庭で引き受ける。そんな「ショートステイ里親」事業が広がっている。RKB毎日放送の神戸金史解説委員長が、実際に子供を預けた母親にインタビューし、10月8日放送のRKBラジオ『田畑竜介 Grooooow Up』で肉声を紹介した。

「頑張っているお母さんと見られたい…」

福岡市内に住む30代の主婦、陽子さん(仮名)に話を聞きました。3歳の男児と1歳の女児を育てていますが、2人目が生まれてから、「いっぱいいっぱいになってしまった」。時に手を上げることもあり、まずいと思っていました。実家は離れていて、手助けは望めないそうです。

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神戸:育児・家事、夫婦2人の負担割合は、どんな感じですか?

陽子さん:9割、私がやっています。夫もなかなか忙しい仕事をしているので。(家に)いてくれたら、子供の世話をちょっとしてくれるだけでも私が家事に専念できるので、いてくれるときはいいんですけど、夫が出張のある仕事なので…。子供が1人だった時は良かったんですけど、2人になると、もう2人とも「抱っこ、抱っこ」。自分1人だと、キーッとなっちゃって。

陽子さん:公園とかで遊ばせていても、2人いようと1人だろうと「自分の子供は自分で世話しろよ」みたいな雰囲気が公園内にあるので、連れて行くのでも2人いたら大変で…。「子供が増えないのはわかるなー」って、2人産んですごく思いますし、ちょっと3人目とかも考えられないって感じで、今は思っています。

神戸:頑張っているお母さんでありたい、そう見せていたい、という気持ちもあるんでしょうか?

陽子さん:…と思いますし、私は「そういうふうに見せたいな」というのはあります。「ちゃんとしているママ」みたいな。できないときはできないんですけど、外ではそんな顔していたいのが本当の気持ち。虐待のニュースをよくテレビで見るんですけど、「気持ちはわかるな…」って。もうキーッとなっていたら…。誰かがどうかしてあげないと、こんなことも起こるよなーとか思いながら見ています。


 

もしもの時に子供を数日間預かる

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「そんな気持ちになること、誰でもあるよ」と思う方もいるかもしれませんが、今は親と同居しない家庭が多いですし、転勤や引っ越しで周囲に知り合いもいない。虐待や無理心中事件の背景には、孤立した子育てがあるのは間違いないと言われています。

福岡市では、家庭での養育が難しい18歳以下の子供を、児童養護施設や乳児院で一時保護する「子どもショートステイ」サービスを提供しています。原則7日以内で、収入などで一定の条件を満たせば無料です。区役所の保健福祉センターで相談を受けていますが、施設には定員があるので、事情のある子供を預かっている「里親家庭」でもショートステイを引き受けています。

ショートステイ里親「はじめてみませんか?」(フライヤーの表面)

これが「ショートステイ里親」ですが、里親を紹介された陽子さんは「里親って何? 私はちょっとだけなんですけど」と戸惑ったそうです。

陽子さん:祖父母に預けたこともないし、365日私が見ていたので、不安でいっぱいで。1泊2日ですけど、かといって1人で2人を見る余裕もないし、それで怒っちゃうのも罪悪感だしっていう感じで、思い切ってエイッと預けてみたんですけど、預ける時に里親さんとお会いすることができて。娘を引き取ってくれた方は、子供3人と一緒に迎えに来られた子育て世代のお母さまで、お会いして「かわいい、かわいい」って私の赤ちゃんのこと言ってくれて。お兄ちゃんの方は、同い年ぐらいの別の里子をお預かりになっていて「一緒に遊ぶかな、と思って受けました」っておっしゃってくださった。同世代の子供だったので、すぐ何か一緒に遊びだしたので、その場面を見られたので、すごく安心して預けられたっていうのはありました。帰ってきたら「2人とも別に大丈夫でした」みたいな感じで。

陽子さんはホッとしたでしょうね。お子さんと一緒の里親さんで、安心できましたよね。

「SOS子どもの村」に紹介された里親

福岡市西区にある「子どもの村福岡」

陽子さんの窓口となったのは、「SOS子どもの村JAPAN」という国際NGOの日本法人です。福岡市西区に「子どもの村福岡」を作り、様々な事情があって実の親と暮らすことができない子供たちを預かっています。村には5つの家があり、3棟で里親さんが子供たちと暮らしています。残る2棟でショートステイ事業を引き受けていて、専門の職員が受け入れを担当していますが、市内で里親となっている家庭と連携して、紹介するコーディネート事業もしていて、陽子さんはそれを利用しました。

「陽子さんの決断は、家族からどう受け止められたのですか?」と尋ねたら、パートナーは「預けるの? どこに?」というのが最初の反応でした。でも、里親さんが迎えに来た時にパートナーも立ち会っていて、里親さんにお子さんが一緒にいたことや、保育関係の仕事をしていると聞いて、安心していました。親御さんは「今はそんなサービスがあるんだ。私の時もあったらなあ」と話していたそうです。

「余裕ができたら…私も」

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子供を預ける、ということにはためらいがあるかもしれません。しかし、ためるだけため込んで、手を上げることが習慣化してしまうことは、虐待の原因になってしまうかもしれず、大変危険です。

陽子さんは今年4月に初めて子供を預けたのですが、家庭に収入があるので、1日5000円あまりを支払っています。収入が基準以下の場合は無料です。これまで4回ほど利用しています。2人の子のうち、1人だけを預けることもあるそうですが、心境に変化が出てきました。

陽子さん:「このお母さんたちはボランティアですか? 何なんですか? なんで預かるんですか?」とSOSの担当の方に聞いたりもしたんですけど、困っている私みたいなお母さんを助けたいという思いや、本当に子供が好きで里親になった方がたくさんいるというのを初めて知りました。なんか、すごいいい制度だなと思って。

陽子さん:私は今、利用している立場ですけど、もうちょっとしたら子供が大きくなってあんまり手もかからなくなったら、預かってみるのも楽しそう、面白そうだよねーと…。「今預かってもらっているくせに、何を言っているんだ?」と言われそうなのであんまり言ったことないんですけど、ちょっと子育てに余裕ができたら、預かってみる立場にもなってみたいな、とちょっと思ったりもしています。うちはもう2人しか作る予定はないので。他のお宅の子と遊ばせるのは、お互いにとっていいんじゃないかな。あっちの子にもとってもうちの子にとってもいい刺激になるんじゃないかなーと思って。まあ、今は無理ですけど、先々は。ちょっと興味はあります。

もっと、「助けてと言える社会」になった方がいいと思うんです。「助けて」と言われた時に助けてあげられる社会であってほしいですね。ショートステイ里親事業は拡大してきています。福岡市の場合はまず区役所に相談を。ほかの地域でも探してみてはいかがでしょうか。

※福岡市こども家庭課によると、ショートステイを利用した児童数は2021年度に延べ1,200人だったが、2023年度には1,100人増えて、ほぼ倍増。このうち、里親に預かってもらった児童数は、113人から834人と7倍の大きな伸びとなっていて、増えた1,100人のうち大半の700人を引き受けたのが「里親」だったことが分かる。

子どもショートステイのあらまし(福岡市の場合)

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【子どもショートステイ】
保護者が育児疲れや疾病、冠婚葬祭などのため、一時的に家庭でお子さんを養育できない場合に、児童養護施設等にお子さんの養育・保護を依頼することができます。なお、利用者数が施設の定員等を超える場合は、利用できません。各区役所の家庭児童相談室にお問い合わせください。ただし、土曜・日曜など緊急を要する場合は、直接施設へ連絡。

【利用料金(日額)】
2歳未満=5,350円、2歳以上=2,750円
※生活保護受給世帯・ひとり親世帯・市県民税非課税世帯は無料

【児童養護施設・乳児院】
和白青松園 092-606-2109
福岡育児院 092-621-2241
福岡子供の家 092-803-1217
福岡乳児院 092-573-7025
みずほ乳児院 092-871-6172

【児童家庭支援センター】
SOS子どもの村 092-805-6800
https://local.sosjapan.org/

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この記事を書いたひと

神戸金史

報道局解説委員長

1967年、群馬県生まれ。毎日新聞に入社直後、雲仙噴火災害に遭遇。福岡、東京の社会部で勤務した後、2005年にRKBに転職。東京報道部時代に「やまゆり園」障害者殺傷事件を取材してラジオドキュメンタリー『SCRATCH 差別と平成』やテレビ『イントレランスの時代』を制作した。現在、報道局で解説委員長。