兵庫県知事選・韓国非常戒厳・米議事堂襲撃に共通する“暴走する妄想”
兵庫県知事選をめぐる混乱は、県議会調査特別委員会(百条委)の委員を務めた竹内英明元県議(50)が死亡する事態となった。「NHKから国民を守る党」の立花孝志党首は根拠のないデマを振りまき陳謝した。1月21日、RKBラジオ『田畑竜介 Grooooow Up』に出演したRKB毎日放送の神戸金史解説委員長は「妄想が暴走する事態に、ファシズムの匂いがする」と語った。
立花投稿は「明白な虚偽」
兵庫県議会の竹内英明前県議(50)が亡くなったことについて、兵庫県警の村井紀之本部長が、県議会警察常任委員会でこのように発言しています。
村井本部長は、「事案の特殊性に鑑みて答弁する」と切り出し、「被疑者として任意の調べをしたこともなく、ましてや逮捕するといった話はない」と、竹内氏への捜査を明確に否定。「明白な虚偽がSNSで拡散されていることについて、極めて遺憾だ」と述べた(朝日新聞1月21日朝刊社会面)
https://www.asahi.com/articles/AST1N1CH1T1NPIHB007M.html
これはかなり異例のことです。この「明白な虚偽」と言われているのは、「NHKから国民を守る党」の立花孝志党首が投稿した内容ですね。「ご冥福をお祈り致します!」と書き出し、「竹内元県議は、昨年9月ごろから兵庫県警からの継続的な任意の取り調べを受けていました」「こんな事なら、逮捕してあげた方が良かったのに」と投稿していました。
これを県警本部長が明確に否定し「明白な虚偽」だと言っています。普通は「個別の事案には答えられない」と言うことが多いんですが、「特殊性に鑑みて答弁する」と。
竹内前県議は自殺とみられています。「明白な虚偽」だと言われた立花氏はその後、「兵庫県警御免なさい」という動画を投稿、「事実と異なることをインターネットで発信したことについて謝罪をさせていただきます」と述べました。でも、謝罪をすれば済む話でもないですね。根拠がよくわからない。兵庫県知事選挙の期間から、ずっとそういう感じですよね。
「妄想暴走」状態の知人と絶縁
今回の兵庫県知事選挙の話です。私が居酒屋で非常に仲良くしていた常連さんが、酔った状態でお店に突然入ってきて、亡くなった県幹部の方について「彼は死んで当然だ」としゃべっていました。
私は「ちょっと止めましょう、根拠の乏しい話だし、誰も本当かどうかわかりませんよ」と言ったんですけど、「いや、彼は死んで当然ですよ」と続けたんです。「もうやめてください、聞きたくありません」と言いましたが、酔っていたせいで止まらない。
もう聞きたくなくなかったので、僕は席を立ちました。とても仲の良い先輩で、人柄的にも好きなんですけど、非常に不愉快だったので、私はその方が来る曜日はその居酒屋に行くのを止めました。つまり、縁を切りました。
何かを信じてしまって、暴走しているような状態を、どういう言葉で表現したらいいのかよく分からないでいたんですが、ここのところ思っているのは、彼は「妄想が暴走している」わけです。「妄想暴走」状態みたいな感じなのかな、と。
議事堂襲撃と非常戒厳
これは、日本以外でも起きていると思います。2021年1月にアメリカ連邦議会議事堂が襲撃された事件でも、トランプ大統領が扇動し、刑事責任があるのかどうか議論がありました。免罪の話も出ていますけれども、民主主義の中心地であるアメリカで、民主主義の中心である議事堂を民衆が襲撃するという事態は、あり得ない話でした。
ところが、韓国では先月、尹大統領が非常戒厳を発令しています。これも、「野党勢力は北朝鮮の考えに基づいて動いているので、そこに対する行動だ」と正当化をしているわけです。これも、妄想の暴走だと思うんです。世界的に、妄想が暴走する状況が広がっているのです。
トランプさんが大統領に就任しました。きょうの朝刊にいっぱい記事が出ていますが、前回の襲撃事件についての議論がきちんとされないまま、もう一回、権力者に上り詰めたわけです。これから、どんな世界が広がっていくのか。またもや妄想が暴走する可能性があると思います。
情報源は扇動する「デマゴーグ」
アメリカだけでなく、韓国の尹大統領も、兵庫県知事選挙もそうだと思うんです。本当かどうかわからないことにいきり立って、でも自分たちは間違っていないと思い、誰かを攻撃する。だが、確たる根拠があるかないかはわからない。
その情報源を、僕は「扇動者」と呼んでいいと思うのです。煽る人たち、アジテーターです。古代ギリシャでは「デマゴーグ」と呼んでいました。全部が嘘じゃない。本当のことも交えつつ、嘘を意識して、交えた上で煽る。
この状況は、ファシズムに近くなっていると思います。戦前の日本のファシズムも、上から命じられただけではなくて、民衆の方からこぞって手を挙げた面があって、歴史学では「上からのファシズム」「下からのファシズム」という言い方をします。
これからの時代、ファシズムが進むような社会にならないでほしいと思います。妄想が暴走する状況。暴走する妄想をどう制御するか。考えさせられる、けさの朝刊各紙でした。
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この記事を書いたひと
神戸金史
報道局解説委員長
1967年、群馬県生まれ。毎日新聞に入社直後、雲仙噴火災害に遭遇。福岡、東京の社会部で勤務した後、2005年にRKBに転職。東京報道部時代に「やまゆり園」障害者殺傷事件を取材してラジオドキュメンタリー『SCRATCH 差別と平成』やテレビ『イントレランスの時代』を制作した。現在、報道局で解説委員長。