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RKBのインタビューに答える中田優子氏

沖縄戦「神谷代表と同じ認識」福岡県選挙区で当選した参政新人の歴史観

radiko podcastで聴く(前編)

与党が過半数割れに追い込まれた一方、議席を伸ばし「大躍進」と注目を集めた参政党。開票日夜のRKBテレビの選挙特番で、福岡県選挙区で初当選した参政党新人にインタビューした同局の神戸金史解説委員長が、7月22日のRKBラジオ『田畑竜介Grooooow Up』に出演し、歴史認識に対する回答に疑問を呈しました。

旧来の政治秩序が「溶融」

今日(7月22日)の新聞朝刊は選挙一色ですね。選挙のあとはいつも「月曜の朝刊より、火曜日の朝刊の方が面白いですよ」と言ってきましたが、今回は読んでも後はこうだよねと言いにくくなってきた結果かなという感じです。

各紙の1面記事には見出しのほかに、「ワッペン」が付いています。読売新聞は「衝撃2025参院選後」、毎日新聞は「自公溶融」、朝日新聞は「政界激動2025」。西日本新聞は「カオス政治 石破政権続行」。また、社説を見ると、西日本新聞は「民意に従い退陣すべきだ」、産経新聞も「即時退陣を改めて求める」と、強い言葉が出ています。

今回は、本当に歴史的な選挙だったと思います。6年間という長い任期の参議院(3年おきに半数が改選)。3年前は与党が大勝しているので、次回も大勝しないと過半数を取り戻すことはできません。今回と前回の間ぐらいでは、議席は今よりも減るので、過半数割れがずっと続くことになります。毎日新聞は「溶融」という言葉を使っていましたが、今までの政治の概念が崩れてきています。

ところで「保守」という言葉は、言葉の意味が以前と少し変わってしまっていて、昔で言う「極右」を「保守」と表現する人が多くなっています。本来使われてきた「保守」は急激な変化を求めず、漸進的に変えていくこと。旧秩序を一気に壊さないのが、一番重要な保守の立場でした。

日経新聞の社説は「自公過半数割れで国の進路を誤るな」。政権の続行には疑問を示しつつも、どうしたらいいのか戸惑っている感じです。日経新聞はいわゆる財界や経済人をバックに読者もビジネスマンが多くいます。資本主義社会を肯定しながら社会をどう進めていくか。いわゆる保守だと思うんです。

社説では、「単独で過半数を取れない各党が、その時々の政治情勢に応じて連立を組んだり、与野党協議で合意したりすることが常態化する時代の到来である」と書いています。これは、旧来の意味の「保守」の立場で書いている社説だなと思いました。

社会の不安が土壌となるデマ

最近、「7月5日に地震がある」という話があったでしょう。すごい勢いで拡散されて、一瞬にして消えてしまった話題です。社会が底知れぬ不安を抱えていないと、ああはならないだろうと思います。物価高、生活苦、賃金が上がらない状況、展望のなさ…。「○月○日に地震が起こる」というのは完全にデマですが、底流でつながっているのではないかなという気がします。私が長崎県雲仙・普賢岳災害の取材を続けていた時にもデマがありました。

雲仙噴火災害(1990~1995年): 197年ぶりに噴火した長崎県雲仙・普賢岳で、1991年に大火砕流が発生、43人が死亡した。立ち入りを禁止する警戒区域が設定され、住民は強制避難。最大時には1万人を超えた。1993年にも火砕流、土石流が頻発。1995年に噴火は収束したが、直接被災していない住宅や農地、ホテルなども荒れ果て、大きな被害を受けた。

普賢岳災害はとにかく長く、「一体いつまで続くんだ…」とみんな疲れ果てていました。「7月23日に普賢岳が大噴火する」というデマが流れ始めました。1993年は火砕流が連日起きていました。デマが流れたのは2年ぶりに死者が出た直後でした。

九州大学の心理学の先生に話を聞いたら「最悪でもいいから、答えが欲しい」という気持ちがデマの広がる土壌になっている、という答えが返ってきて、すごく腑に落ちた記憶があります。何か、答えが欲しい――。私たち一人一人の心の中に、「何か解決策を出してくれ」というマグマみたいなものがあったからこそ、今回の地震デマ騒動が起きたと考えられなくはないでしょうか。

参院選も、不安、不満のマグマの噴出が、参政党と国民民主党の躍進につながり、既成政党とは違う形の展開をしている党に力がどんどん集まって、従来の秩序でやっていた組織政党は軒並みだめだった。社会が変革を本気で求め始めているのに、現状は応えきれてないのがこの結果を招いたのではないか、という感じがしました。

不寛容を煽る参政党代表の発言

今回大躍進した参政党ですが、神谷宗幣代表の発言などでいろいろ物議を醸しています。首をかしげるようなこともかなりあり、より強く受け止めて周辺で声を上げている人たちもいますが、よくよく聞いてみると、言っていること自体はそこまでではないかもしれない、と思ったりもする時もあります。

例えば「日本人ファースト」。その延長線上に、「外国人の生活保護の受給率がー!」とか、「国民健康保険料をどうするんだ!」とか「日本人ファーストだから外国人移民はだめなんだ」とか、強い言葉を語っている支援者、支持者は多くいます。

開票当夜の記者会見で、そういう人たちがいることをどう思うか? と繰り返し聞かれた神谷代表は「参政党支持者・支援者を装う反対勢力が紛れ込んでそういう行動を取っている」と言ったので、「さすがにそれはなかろう…」とかなりびっくりしました。

このように、言葉が強く、煽るような言葉遣いが非常に巧みなので、そこに連動して社会が不寛容になっていく。そんな効果がある気がして、「ちょっと怖いな」と感じています。今回の選挙で大きな議席を持ったので、今後は責任政党としての発言をしていかないといけないでしょう。

参政党当選者にも聞いてみた

選挙特番のスタジオで元村有希子さんと

RKBテレビの選挙特番で、スタジオで解説しました。一緒に出演した九州大学理事の元村有希子さんとは、前職の毎日新聞で福岡総局勤務時代に隣の席で仕事をしていました。その元村さんと、福岡県選挙区で初当選した参政党の中田優子さんに中継をつないで質問しました。

中田優子さん 1989年福岡市生まれ。シングルマザーとして子育てと仕事を両立。飲食・美容業界を経て、宅地建物取引士。不動産の現場で暮らしの矛盾を感じ政治を志す。参議院福岡県選挙区(改選3議席)で2位当選。

元村有希子: これから6年間の任期があります。総選挙もありませんし、じっくりと政策に取り組めると思います。一番取り組みたい、あるいは貢献できると思っている点は、どういうところでしょうか?

中田優子: まずは、減税政策。皆様の手元に残るお金を増やしていく。経済政策をまず先に進めていきたいと思っています。そして、子育て世帯の目線、母親としての子育て支援、教育の問題、そして不動産従事者としての移民や、不動産関係ですね、土地・建物・会社の買収、こういった問題に関しても同時に進めていきたいと思っております。(CMに入るジングル音)


 

沖縄戦への認識 代表と「全く同じ」

ここでテレビの放送ではCMに入ってしまったのですが、まだ中継はつながっていました。私は「参政党の神谷代表は、『戦争中、日本軍は沖縄の人々を救うために沖縄に行った』と発言されましたね。中田さんはどのように考えておられますか?」と聞きました。

中田: そうですね、全く同じように思っています。「国民を救うために助けに行った」という認識です。

神戸: 実際には、沖縄ではそう思われていません。

中田: もう一度、よろしいですか。

神戸: 沖縄では、日本軍が自分たちを助けに来た、とは思っていないんです。神谷さんの発言には猛反発が起きていますよ。

中田: はい。そうですね、やはり今まで伝えてきた、表向きと言ったらあれですけど、その歴史認識も2パターンあると思いますので、そういったことが起きても仕方ないですし、そういったことも含めて、これから正しい歴史認識を皆様に1人でも多くの方に行っていくのが、我々の使命であるとも考えております。

神戸: あの、まともな歴史学者で、そういうふうに言う人はほぼいません。残念ながら、もう少し歴史を勉強された方がよいと思います。

中田: はい。ありがとうございます。はい。

CM中で放送されていないのですが、こんなやり取りがあったのです。中田さんの言う「そういったこと」とは、「助けに来たとは思っていない、と沖縄が思っていること」を指しているのか、「猛反発が起きていること」なのか分かりませんでしたが、「そういったことが起きても仕方ないし、これから正しい歴史認識を皆様に1人でも多くの方に行っていくのが我々の使命でもあるとも考えております」という話。これは、沖縄の人が聞いたら怒ると思います。

沖縄の守備隊は懸命に戦った。だけど、国が潰れるのを何とか防ごうとしていたわけで、目の前にいる人たちを助けることが目的ではなかった。だから、住民に「壕(ガマ)から出て行け」と言い、泣いている子どもを見て、「ちゃんと始末しろ」とか、そういう流れの中で、住民の集団死に関して日本軍が関与したことは、否定できない事実です。

沖縄史の研究者たちはいろいろな証言を集めて、明らかに沖縄は本土のための捨て石になっていった、と考えています。「住民に向かって『2パターンある』という言い方は、ちょっとあり得ない」と、私は思いました。

※時間がなかったので放送では省略しましたが、沖縄自民党県連幹事長で、当時の大田昌秀知事を攻撃して追い落とした翁長雄志さん(のちに県知事)が立場を変えたのも、こうした歴史修正主義のためでした。2007年、沖縄戦で起きた住民の集団自決に日本軍が関与した、という記述が、高校の教科書から削除・修正されました。沖縄では、保守系も含めて、抗議する11万人の大集会が開かれ、若者から「私たちのおじい、おばあがうそをついているというのか」という叫びが上がりました。翁長さんは保守の立場なのに、「沖縄のアイデンティティに関わる」と先頭に立って反対しています。

「批判」を「攻撃」とみなして力に

オールドメディアから批判が出ると、参政党は「攻撃」と捉えて反発する姿勢を取り、トゲを出して身構えてしまう。言わない方がいいのか、言った方がいいのか、私たちも悩んでいます。攻撃というより、ちゃんと事実に即した話をしてほしいと思っているわけです。

外国人の犯罪が増えている事実も全くなく、むしろ刑法犯はすごく減っているのは統計上明らかです。何となくイメージで語ることが多いので、それを見聞きして「そうだよね」と、元々ある不安・不満に少しずつ火がついている人が多い気がします。

※外国人刑法犯検挙件数の推移 2005年に4万件超だった外国人刑法犯の検挙件数は、2023年に1万5,000件超に減少。

参政党に投票した方々を否定するわけではないのですが、言っていることが正しいのかを検証するために、やはりメディアが何かしないといけないと思っています。TBSテレビの『報道特集』も一生懸命頑張っています。

「選挙運動の名のもとに露骨なヘイトスピーチが」参議院選挙 急浮上の争点“外国人政策”に高まる不安の声【報道特集】(7月12日放送)
https://newsdig.tbs.co.jp/articles/-/2042279?display=1

選挙期間中にここまで踏み込んだ報道をすることは、今までではあり得なかったと思いますが、やはり問題点はきちんと提示すべきでしょう。そうでないと、一気に流れが起きてしまったのに、実は根拠が薄かったりすることになります。

兵庫県知事選挙のように、デマで人の命まで失われてしまう時代になっています。取材して「違うな」と思ったことを、私たちはちゃんと言わなければいけない。そのうちの一つが、『報道特集』の姿勢です。毅然としていて、「よくやったな」と思います。やればやるほど攻撃を受けるのも分かっていますが、社会的公正のために誠実な報道をしようとした、と私は受け止めています。

これから参政党が国政政党としてどう振る舞っていくのか。代表がどんな発言をしていくのか。非常に注目されます。「今まで通りでいいのか」が求められていくのではないでしょうか。少なくとも、沖縄に関してこういった空想のような日本史の姿を描かないでほしい。「事実と全くかけ離れている」と言っておきたいと思います。

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この記事を書いたひと

神戸金史

報道局解説委員長

1967年、群馬県生まれ。毎日新聞に入社直後、雲仙噴火災害に遭遇。福岡、東京の社会部で勤務した後、2005年にRKBに転職。東京報道部時代に「やまゆり園」障害者殺傷事件を取材してラジオドキュメンタリー『SCRATCH 差別と平成』やテレビ『イントレランスの時代』を制作した。現在、報道局で解説委員長。