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「総理」と「首相」、「丁字路」と「T字路」放送用語の“正解”は?

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RKBラジオ『田畑竜介Grooooow Up』のコメンテーター、RKB毎日放送の神戸金史解説委員長は、生放送での新人アナウンサーの言葉遣いに「引っ掛かりを感じた」という。10月7日放送の同番組で、ブックレット『放送で気になる言葉2025』の内容を紹介しながら、パーソナリティたちと放送で使う日本語について議論を交わした。

「首相」ではなく「総理」を使う理由とは

『放送で気になる言葉2025」』(日本新聞協会発行)

神戸金史解説委員長(以下、神戸): RKB報道部に『放送で気になる言葉2025』というブックレットがあります。日本新聞協会が出しています。「新聞なのに」と思いますが、新聞協会には放送分科会があって、東京キー局やNHK、通信社が中心になっていて、気になる言葉を書き出しています。この本は一般の書店にはおいてありませんが、新聞協会のホームページから購入できるそうです。この本、面白かったんですよ。知らないことも結構ありました。

神戸: 例えば、「総理大臣」。「首相」という言い方もあります。新聞は「首相」なんですよね。放送では習慣として「総理」と言っているんですが、なぜ「総理」と言うんだろう。僕は考えたことがありませんでした。新人アナウンサーの中井さん、なぜだと思いますか?

中井優里アナウンサー(以下、中井): …なんで総理と呼ぶか?

神戸: そう、「首相」じゃなくて。

田畑竜介アナウンサー(以下、田畑): 「石破首相」と新聞で表記されていますもんね。我々放送が、テレビ・ラジオで言う時は「石破総理」。

神戸: 総務大臣を「総務相」と新聞では書くけど、放送で聞くと「総務省」と勘違いしちゃうでしょう。だから総務大臣と言いますよね。僕も当然そうだなと思っていたんだけど、『放送で気になる言葉2025』によると――。

<閣僚を呼ぶ時は「××相」でなく「××大臣」を使用することを基本としているため、内閣総理大臣もそれに合わせた形で「首相」ではなく「総理」と呼ぶようになったと考えられる>(84ページ)

神戸: 「そういうことか、だったら覚えやすいよね」と思いました。

田畑: 我々放送局では、書き言葉を話し言葉に変換するところもありますかね。

神戸: 村上ソウムショーと言ってもねえ。村上ソウムダイジンと言わなきゃわからないですもんね。

「Tをテーと言うな!」

神戸: 『放送で気になる言葉2025』に、「丁字路」という項目がありました。

<近年では「Y字路」や「S字カーブ」など、アルファベットの形状を例えに使うことから、「T字路」と表記し、発音することも増えた。そのため、現在では「丁字路は誤り」と誤解している人もいるようだ>(82ページ)

神戸: 中井さんはどっちを使っている?

中井: 「T字路」の方が、わかりやすいのかなと思って使うようにしています。

田畑: 放送では、本来は「丁字路」なんですけど、それで苦情が来たこともあるそうです。「あの人はTをテーと言うのか?」。

神戸: あはは、「D」を「デー」と言う、みたいな?

田畑: そうそう。「十字路」は漢字じゃないですか。同じように、漢字の「丁」という表記です。

神戸: でも「Y字路」というのもある。この本の中に書いてあったのは――。

<道路交通法には「丁字路」と記述されている。正式な法律用語は丁字路である>

神戸: どっちが正しいかということではなくて、2025年の段階で「こういう経緯でこうなってきたよ」「今こうなってるよ」と書いてあって、面白いなあと思いました。

田畑: 大事なのは、本来の意味がちゃんと伝わっているかどうか。Tにしろ、丁にしろ、「あの形ね」と頭に浮かぶことが大事ですね。

「ダントツ」の「トツ」とは?

神戸: 「ダントツ」という項目があります。「ダントツ」の「トツ」って何だと思いますか?

中井: 「トップ」ですね。

神戸: あ、知ってた? 僕は知らなかったんですよね。

<「断然+トップ」を略した俗語だ。圧倒的に強い、際立っているといった意味で使われる。(中略)「ダントツの最下位」はおかしい>(16ページ)

田畑: おかしいです。「ダントツの1位」もおかしいですけど。

神戸: 「トップの1位」みたいな。

田畑: もう、多いんですよ! 「ダントツ1位で」とか、よく聞きます。

神戸: なるほど。

<「ダントツの首位」は意味が重複していることになる。一種の強調表現とも言えるが、違和感を覚える視聴者もいるかもしれない>(同ページ)

神戸: …というような感じで、100ページ余りの薄いブックレットサイズですけど、この本には腑に落ちるところがいっぱい出ていて、面白いです。

新人アナ、痛恨の放送ミス

神戸: この本を広げていて思い出したのが、先週のこの番組で、中井さんが体験型リアル脱出ゲームのお話をした時のこと。「小学生ぶり」って、言ったよね?

中井: はい。私自身は覚えていなかったので、それくらい自然に、誤って使ってしまいました。

田畑: 10代20代の方でそういう言い方、最近よく耳にするようになりましたね。

神戸: 放送は基本的に「日本語できちんとしゃべろう」と言うのだけど、時代によって変わってもいい、と思います。多分、ちょっと遅れているんですよ。言葉について、放送は保守的だと思います。僕は、その方がいいと思っています。放送でも自然と使っておかしくないようになっていった時、だんだん辞書にも入ってくるのかな、という気もします。ただ、1年くらいでなくなっちゃう言葉はいっぱいあるので、やっぱり、放送は言葉に対して保守的な方がいいんじゃないかな? と僕は思ってるんです。

田畑: 僕もそれでいい、と思っています。

神戸: 「××ぶり」という言い方は、「××」に数字を入れていくのが基本ですよね。

田畑: 期間を表す言葉が入りますよね。

神戸: なので、「卒業式ぶり」のように、数え始める時点が入る言葉遣いはもうおかしいのです。「小学生ぶり」も良くなかったんだけど、先週は訂正する時間がありませんでした。

田畑: どこから始まったのか、起点を言う場合は「××以来」という言葉を使った方がいい。

神戸: ただ、若い世代の人が違和感を覚えなくなってきているのも確かな気もします。例えばこの本に上がってきた例です。

<勝ったのはいつぶりだろう—スポーツ選手のコメントでよくこんな言い方が出てくるが、「第20回大会ぶりですね」などと言ってしまわないように注意したい>(26ページ)

田畑: ああ……「いつぶり」って確かによく聞きますね。

神戸: これは「小学生ぶり」と同じですね。「いつぶり?」「小学生ぶり!」。これは

<「いつから」と「何年ぶり」を合体、省略してしまったのかもしれない>(同ページ)

中井: ああー……。

神戸: 昨日、この本を手に取ったら出ていたので、「あ! 先週の放送でこれあった!」と。

中井: 勉強になります。

催すだけならセーフ

神戸: 「雨模様」。どういう時に使うか。アナウンサーは習うでしょう?

中井: もうすぐ雨が降りそうな。

田畑: おーそうそう、セーフ!

神戸: よかった、ちょっと今ドキドキしたんだけど。

中井: あはは。

田畑: 降っているんじゃないんだよね。降りそうな天気ですね。

神戸: 降ったり止んだりしている様子も「雨模様」と言う人が多くなっていますね。「この新しい意味を併記している辞書も増えているが、紛らわしいので天気予報では使わない方がいい」と書いてありましたが、僕が知らなかったのは、なぜ雨模様と言うのか?

田畑: ああ、そこは大事ですよね、確かに。

<元々は「あまもよい」「あめもよい」と言っていた>(10ページ)

神戸: 「もよい」はどんな字を書くか。正解は開催の「催」、「催す」。

田畑: あああ、なるほど。雨が来そうだ…

神戸: 「催す」わけですね。トイレのことを考えてしまいますが、本当に「降っちゃった」ら大変なことになるけれど、「まだ降っていない」わけですよ。だから「雨もよい」。後から漢字が付いて「雨模様」になったということらしいです。催しているだけで、まだ起きてはない。このうんちくを知っていれば間違わないな、と思いました。

「鋭くうがった見方」

神戸: 「うがった」見方。疑ってかかるような見方をする感じで使うことが多いですよね。でも本当は、「雨が石を穿(うが)つ」と言うように、穴を掘るという意味ですね。「鋭く物事の本質を捉えようとする視点で見ている」が本来の「うがった見方」。

<「疑って掛かるような見方をする」という本来とは違う否定的なニュアンスで使う人が48.2%に上り、本来の正しい「物事の本質を捉えた見方」とした人(26.4%)を大幅に上回った。(中略)もはや否定的使用を“誤用”とは言えないかもしれない>(59ページ)

神戸: ただし、使う場合は「鋭くうがった見方」という風に言えば肯定的に使えますし、「うがち過ぎた見方」と言えば否定的にも使えるよねということで、放送で使う時はいろいろな言葉遣いを気にしながらやってみましょう、と提案がなされています。この本、一般の方が読んでもとても面白いと思います。

◎神戸金史(かんべ・かねぶみ) 1967年生まれ。学生時代は日本史学を専攻(社会思想史、ファシズム史など)。毎日新聞入社直後に雲仙噴火災害に遭遇。東京社会部勤務を経てRKBに転職。やまゆり園事件やヘイトスピーチを題材にしたドキュメンタリー映画『リリアンの揺りかご』(2024年)は各種サブスクで視聴可能。最新作のラジオドキュメンタリー『家族になろう ~「子どもの村福岡」の暮らし~』は、ポッドキャストで公開中。

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この記事を書いたひと

神戸金史

報道局解説委員長

1967年、群馬県生まれ。毎日新聞に入社直後、雲仙噴火災害に遭遇。福岡、東京の社会部で勤務した後、2005年にRKBに転職。東京報道部時代に「やまゆり園」障害者殺傷事件を取材してラジオドキュメンタリー『SCRATCH 差別と平成』やテレビ『イントレランスの時代』を制作した。現在、報道局で解説委員長。