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【写真読み物】耳で感じる“音の風景”師走の街は音であふれていた

ニュース
街は音であふれている。ハッと振り向く大きな音もあれば、聞こえているはずなのに無意識にスルーしているものもある。そんな気にも留めない身近な「音」を紡いだら、新たな師走の街が浮かび上がった―。

耳をすますと聞こえた何気ない「音」


ラジオが遠くでなっている「強い寒気が流れ込む見込みです」。甲高い声が飛び込む「おはようございます!」

登校する子供たちが横断歩道を走って渡った。

ターミナル駅でホームを歩く人たち。手入れの行き届いた床材を踏む靴の音が、一定のリズムを奏でていた。どこにでもありそうな冬の一日。耳をすますと聞こえてくる。

「歳末助け合い運動が始まりました」
市街地の呼びかけの音。

「寒いですが気持ちだけはあったかく」
温かい励ましの音。

落ち葉が風に吹かれ、それをほうきで掃く人がいる。季節が移ろう音だ。

カチカチと指が動くたびに数字が回る。年末の交通量調査の一幕。調査員がつぶやく「増えているね」と。
戻りつつある街を実感する音。

120年ものの「型」からキカイの音


どこか懐かしい音も聞こえてきた。ガランガランと少し湿った音を上げながらせわしく動くキカイ。120年ものの「型」は現役だ。できあがったまん頭を切り離すとサクッと乾いた音がした。「代々受け継がれているもので大切な音です」守り繋ぐ“味”と“音”だった―。

強く、腹から出された息。視線は一点から揺らがない。えい!のかけ声で道着がこすれ、厚手の生地がなった。浜辺の気温は7度、水温は18度。腰まで海につかり「泣いたらあかんで」。声を張ることで寒さを紛らわせる。空手の寒稽古は、精神力と忍耐力、礼と節があわさった音にあふれていた。

神事は音の宝庫


映像に「第九」が重なる。第4楽章に「時流が厳しい時に、引き裂いていたものを結び合わせる」という歌詞がある。感染症で集まることを制限された今を生きる私たちを励ますメッセージにも思える。

火祭りの神事は音の宝庫だ。鈴がなり、神職が笛をふき、そして炎が上がり炭がはぜた。「Beautiful Experience」と外国人が舌を巻いた。「いい子になります」とインタビューに答える子供。疫病退散と祈りの音だ。

「今年も冬が来たなという感じがしますよね」パンとはじけたのは牡蠣。日が暮れると拍子木を打つ音が町内に響く。「みんなで力を合わせて安心安全」、夜警だ。

寒い夜に“行きたくなる”音もある。屋台から聞こえる麺をすする音だ。

438日ぶりに陽性者がいなかった日


3,2,1!その瞬間、福岡市中心部に設けられた巨大なツリーが無数の光を放った。RIBBON(つながる)&REBORN(復活)がテーマ。手拍子をしたり口ずさんだり―、街に響いたのは2年ぶりの「音」楽だった。

我慢の冬。外で「第九」を歌うのはテノール歌手。寒稽古の子供たちのかけ声が再び聞こえた。“復活”のサックスと女性たちのゴスペルが積み重なっていく。そこに「陽性者0」の速報を伝える男性アナのナレショーンが割り込む。2021年12月17日は、福岡県が毎日発表する新型コロナの陽性者が438日ぶりにゼロだったのだ。

ツリーの無数の光に反射して―


サンタさんへのお願いは?「決めています、みんなには秘密だよ」女の子の瞳に巨大ツリーの灯りが反射している。さぁ何が届くのかな―。

これまでにみつけた色んな音が一斉に登場し、映像が音で満たされた。こう締めくくられた映像作品『耳で感じる冬~“音”風景~』は、九州・沖縄の全民放テレビ局とNHKが参加する「九州放送映像祭」のミニ番組コンテストでグランプリに輝いた。

2021年12月の福岡の風景を音で紡(つむ)いだのはRKBの両角竜太郎カメラマンだった。

作者が伝えた「新しい景色」

両角竜太郎カメラマン
2021年の冬は連日耳にしていた“コロナ”というワード。「音風景」では世相に向き合いつつもこの“うんざりワード”を極力、封印することで「今こそ前向きに明るく過ごそう」「5分だけでも肩の力を抜いてほしい」という願いを込めて構成しました。

師走の街に響く何気ない音を通して一年を振り返り、強く生きる人々の姿や無邪気な子供たちに微笑んでもらえれば幸いです。今こそ私たち制作者は下を向かず、持ち前の発想力で粘り強く、新しい景色を描き伝えていきましょう。

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