SDGsおじさん in 熊本【第4回アジア太平洋水サミット】

SDGsおじさん in 熊本【第4回アジア太平洋水サミット】

2022年4月23(土)、24日(日)、僕は熊本市の熊本城ホールにいました。第4回アジア太平洋水サミットに参加するためです。参加と言っても登壇するわけではなく、分科会で日本の若者を代表して発表する高校生をアテンドするためですが…。しかしまあ、この2日間は勉強になりました。というか、勉強にしかなりませんでした。では、何が勉強になったのか?…それは「若者を意思決定の中心に据える」という議論についてです。

近い将来、世界のリーダーになりうる女子高校生

実は、僕は当日に向けて3ヶ月ほど前からある女子高生のサポートに入り、ミーティングを重ねていました。僕の役割は発表本番に向けて彼女をリードしていくことだったのですが、最後は逆に彼女に引っ張られて終わりました(笑)。そうなった理由は、僕の経験や力量不足もあるのですが、一番の理由は彼女の力がスバ抜けていたことです。彼女は国連の高官たちとも対等に会話し、魅きつける力を持つ女子高生。近い将来、世界のリーダーになりうる人材だと確信しました。

名前は、都築マリ彩まりあさん(18)。
福岡県筑紫野市にあるリンデンホールスクール中高学部の高校生です。これまで23か国以上を訪れ、様々な社会問題を目の当たりにしてきた実績もあります。

今回の水サミットは、天皇陛下がご自身の研究を発表されたり、岸田首相が開会式で宣言されたりしたほか、海外の閣僚レベルも参加する格式が高いものです。その中でマリ彩さんが堂々と発表したのは、自分たちの学校の体操服をポリエステルのリサイクル素材で作る取り組みを始めたという「服育プロジェクト」です。衣服を作る過程には多くの水が使われているのが現実です。彼女の発表にはプロジェクトを実行することによって水の使用量がどれだけ削減されたかなどの具体的なデータが盛り込まれており、多くの人の興味をひく内容でした。しかも発表はすべて英語です。単に原稿を読み上げるのではなく、客席を見渡しながら自分の言葉で話していたマリ彩さんの姿が印象的でした。

若者が企業を巻き込み変革を起こす

その発表で大きなポイントとなっていたのは、若者の発案が大人や企業を動かし、それらを巻き込んでイノベーションを起こしたということです。また、このサミットは“若者が参加する”ということだけに意義を見出すものではありませんでした。若者にも大人と同様に意見が求められ、自分の経験をもとに返答する力が求められていたのです。

そして、マリ彩さんをはじめとする各国の若者は、さまざまな問いかけに即座に対応していました。そんな光景を目の当たりにし、僕は年配者がよく口にする「自分たちが若い頃はこんなことを考えたこともなかった」という言葉の意味を実感しました。その様子は「彼ら彼女らはどのような未来を生きるのか」と見当もつかないほどの迫力でした。

世界のスタンダードはスピーディ

マリ彩さんの言動でもうひとつ驚かされたことがありました。それは、2日間の水サミットを通して、僕が自己嫌悪やある種の劣等感を感じた出来事でもあります。
マリ彩さんは1日目の夕方に発表を終えた時、その場に発表を聞きにきていた国連スタッフのオランダ人女性と名刺交換をしていたのです。そして「その翌日に個人レベルでもう少し話をしよう」という約束もしていました。そこに「友達も誘っておいで」と言われたようで、当日別会場にいたリンデンホールスクールの学友と一緒に行くつもりでいました。しかしそんな矢先、展示ブースへの入場のみが許可される学友の入館パスと、マリ彩さんのパスは種類が違うことに気づいたのです。

マリ彩さんのパスの方が展示ブース以外のエリアも入る事を許可された効力の強いものでした。「他の友達のパスではこちらの会場に入場できないから、残念だけど誘えないね」と大人同士が会話していると、マリ彩さんは学友のいる展示ブースへ国連の高官を連れてきました。18歳の女子高生が5人の高官の先頭に立って歩く姿は、まるでサザエさんのエンディングのごとく勇敢でした。そして展示ブースに到着するやいなや、ブースのなかを配置転換し、その場に椅子を並べて、国連の高官と高校生たちとの即席トークセッションを始めたのです。

一般的には、周りの大人たちに対して事前に「ここに椅子並べていいですか?」とか「ここでマイク使って話をしてもいいですか?」などと確認するものではないでしょうか。しかし、マリ彩さんの決断にはそんなことは必要なかったようです。そして、その決断はさらによい結果をもたらしました。マリ彩さんだけでなく、学友のみんなも国連の高官と英語で議論するという貴重な機会を得たばかりか、周辺には新聞社を始めとする取材陣が輪を作り、大きな盛り上がりを見せたのです。
日本では準備された段取り通りの進行がよしとされる風潮がありますが、世界のスタンダードは逆。その場の流れでその時々の最善に舵をきり対応していく力が必要とされます。その時のマリ彩さんはまさに意思決定の中心にいました。もちろん議論の最中も同様です。

「国連2023年水会議において、若者としてどの様なアジェンダを上げたらよいと思うか?意見を聞きたい」という国連の高官からの問いにマリ彩さんはこう答えました。
「人は永遠に若者であることはできない。私たち高校生もいつか歳をとって若者でなくなる。だから自分たちの活動を継続していくには、後任を育成していくことが必要で、そのためには民間会社、政府、教育機関や団体などが連携して、持続可能な活動を行うためのプラットフォーム作りが必要だと思う。」

若者を対象に議論をすると、大人はどうしても「若者は未来を生きていく世代」と考えがちです。それは間違ってはいないのですが、「若者は未来だけではなく、今も生きている」。だからこそ、決して大人だけで議論すべきではないのだと考えさせられました。

会社で若者の意見が通らなかった場面を思い出して…

その日の夜、福岡へ戻る道中で先週の会議の様子が思い出されました。とある番組の会議で、25歳の若手ディレクターが「新しい芸人さんを起用してみたい」と発言したところ、上司は「レギュラー番組のコーナーにお試しで出すとか、とにかく試して、それを見てからじゃないと難しい」と返答したのです。そして、結果的に上司の意見で決着しました。僕は上司の発言が間違っているとは思いません。しかし、これから先の時代を担う若者の意見に耳を傾けて尊重し、“大人”である上司も一緒に議論していかなければどんな社会になるのかな…とも思います。

社会という枠組みの中で、新しいものが入れ替わり続けてこそ、社会は持続可能となるのではないでしょうか。

THE WRITER

松井聡史 / RKBテレビ制作部ディレクター
松井聡史 / RKBテレビ制作部ディレクター
カメラやパソコンよりも土を触ってる時間の方が圧倒的に長いRKB農園部(自称)。最近の仕事は、生ごみのコンポスト、畑の水やり、除草作業、野菜の販売、そして時々、番組企画書の作成。RKBラジオよなおし堂ではレギュラーでコーナーを持ち、SDGsを発信している。

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