築121年の価値【SDGs「持続可能」という考え方】

築121年の価値【SDGs「持続可能」という考え方】

以前、フィンランドに行った時に現地の方に聞いた言葉があります。

「新築よりも築100年の建物の方が家賃は高い。」

すべての建物が該当するわけではないと思いますが、北欧には物を大切にする習慣や、歴史に価値を見出す文化が根付いているからだそうです。そして自分が使ったものは後世に引き継いでいく。これこそまさに、過去と今と未来をつなぐ「持続可能」な考えだと感じました。

そんな建物が福岡県西部に位置する糸島市にも存在します。その名は「旧西原邸」です。「旧西原邸」は、糸島地方の商家・西原家によって、宿場町として栄えた唐津街道「前原宿」に明治34年(1901)建築されました。最初は小さな店だったそうですが、ロウソクの原料となる櫨(はぜ)の実や菜種などの取り扱いを始め、次第に醸造業、質業に着手。その後、貸付や酢醤油製造、呉服など商品の流通にも事業を拡大していき、福岡藩への財政支援にも積極的に応じていたという西原家は、現在の「糸島市商工会」の前身となる「前原商業会」を立ち上げるほどの豪商も成長していったのだそうです。

この「旧西原邸」は今、食事処「古材の森」として活用されています。メニューは季節の糸島の食材を使った『町屋御膳』(ケーキ&珈琲付き)で、前日までに予約するとプラス500円で地魚のお刺身も追加できます。僕も先日頂いたのですが、薄味なのに印象深く、とても優しい味付けで、1人で食べていたにもかかわらず、思わず笑顔になってしまいました。
個人的には日頃なかなか口にしない系統の食事だったので、お料理の話ももっとお伝えしたいところですが、今回はこのコラムのテーマ…お品書きの1つ目にもある“建物のすばらしさ”についてお話したいと思います。

歴史に感謝と喜び、そしてご縁

白壁の真ん中にある入口を入ると、目の前に現れるのは広々とした土間。一瞬にして江戸時代の世界に引き込まれました。当時の風景を目にしたことはないのに、そこにあたかも人々が生活しているのが見えるような気がしたのです。すぐ右手にある階段を上がると朱漆(ルビ:しゅうるし)で塗られた回廊が輝いて見え、料理を頂く前から「ここに来て良かった!」と思いました。

121年の歴史なくしては存在しなかった空間、その歴史があったからこそ感じられる気持ち…。僕は121年もの間、この場所を守り、今の時代に残してくれた皆さんへの感謝の気持ちでいっぱいになりました。

1階奥にある客室に案内され、梁や柱の味わいとその奥に見える庭とのコントラストに感動して写真を撮っていると、同じように写真を撮る1組の母娘に出会いました。すばらしい景観美にテンションが上がっていた僕は(職業病ということもありますが)、気が付くと娘さんに話しかけてしまっていました。
娘さんは81歳のお母様との思い出作りに北九州から来られたとのことです。山口へ嫁ぎ暮らしていた娘さんは、ここ数年で旦那さんのご両親とご自身のお父様を亡くし、ひとり残るお母様の介護のために北九州へ戻ろうと考えていたのだとか。しかし、「私はまだまだ大丈夫だから旦那さんのところへ帰りなさい」というお母様の言葉で山口に戻ることを決意されたのだそうです。

娘さんに「北九州に残って」と言うと、娘さんと旦那さんや子どもさんたちが離ればなれになってしまう。それではお母様から娘さんへ、さらに娘さんから子どもさんたちへと次の世代に残すべきものや引き継がれるべきものが失われてしまう…そんなふうにお母様は思われたのかもしれません。僕の勝手な妄想にすぎませんが、そう考えると、お母様の潔さや娘を思う気持ちに感動すると共に、寂しさもこみ上げてきました。
もちろん親の介護を否定しているわけではありません。しかし、それぞれの考えや生き方があってこそ、人類の多様な営みは続いていくのだと思います。そして、今回の母娘との出会いでは、この世に先に生まれたものとしての宿命というのでしょうか、親として次の世代を優先する考えの大切さを感じました。
建物が人の手で守られ次の世代へ引き継がれていく持続可能なスタイルであるように、親子や家族もいろんな思いや形を経て、代々続いていくものではないでしょうか。

“解体”から“保存”へ

最後に、この「古材の森」を経営している会社「油機エンジニアリング」について少しお話をしたいと思います。建設機械や解体機械のレンタルや製造・販売を行っている企業で、現在、福岡の中心部・天神で行われている再開発の現場でも新しいビルの建設や古いビルの解体で活躍しています。
もともとそんな解体や開発を生業とする「油機エンジニアリング」に、大きな転機が訪れたが、今から17年前の2005年、「旧西原邸」の解体依頼を受けたことでした。その時、「旧西原邸」を見た当時の社長・牧田隆氏(現会長)は、「こんな立派なものを壊すのはもったいない」と感じ、動態保存(※)することを決意したそうです。解体するはずが一転して保存することになったのです。
そしてこの「油機エンジニアリング」は、この春RKBが導入したコンポストの機械を販売している会社でもあります。「古材の森」で食事を頂いた後、建物の裏へ行ってみると、もちろんそこにもコンポストの機械が設置されていました。
「旧西原邸」との出会いを機に意識が変わったという会長は、今では阿蘇に農園を持つほどに…。その話はまた次回のコラムでご紹介させていただきたいと思います。

※設備の機械類や施設などを動作・運用可能な状態で保存すること

〇古材の森 ランチ&カフェ
住所:糸島市前原中央3丁目18-15
TEL:092-321-4717【要予約】
営業時間 11:30~15:00 オーダーストップ14:00
HP:http://www.kozainomori.net/index.html

 

THE WRITER

松井聡史 / RKBテレビ制作部ディレクター
松井聡史 / RKBテレビ制作部ディレクター
カメラやパソコンよりも土を触ってる時間の方が圧倒的に長いRKB農園部(自称)。最近の仕事は、生ごみのコンポスト、畑の水やり、除草作業、野菜の販売、そして時々、番組企画書の作成。RKBラジオよなおし堂ではレギュラーでコーナーを持ち、SDGsを発信している。

日曜劇場『アトムの童』
10月16日(日)よる9時スタート

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