田畑竜介Grooooow Up

月~木曜 6:30
『教育と愛国』ドキュメンタリー映画と“道徳教科書”を考える

『教育と愛国』ドキュメンタリー映画と“道徳教科書”を考える

RKBの神戸金史・解説委員の元に、「あなたの文章を教科書に採用したい」という話が来た。神戸さんは喜んだ反面、考えた末にお断りしたという。その教科書は「道徳」だった。なぜ断ったのか?このほど福岡市で上映されるドキュメンタリー映画とも絡めながら、RKBラジオ『田畑竜介 Grooooow Up』でその問題意識を語った。

 

「僕の文が教科書に載る?」

5年ほど前、私の書いた文章を「教科書に採用したい」という話が来たんです。たまたま「津久井やまゆり園事件(※)」の時に、私が障害のある長男のことを考えて書いた文章で、1000字ぐらいの短いものです。Facebookに個人的に投稿したもので、事件に対するカウンターの意味もあって、テレビや新聞で取り上げられました。僕自身もその後、1冊の本を書いたんです。

※「津久井やまゆり園事件」 2016年7月、神奈川県相模原市の障害者施設に、元職員の植松聖死刑囚(当時26歳)が刃物を持って侵入。45人を殺傷(うち19人の障害者が死亡)した事件。神戸解説委員は「事件の直後に、なぜFacebookに投稿したのが」をまとめ、『障害を持つ息子へ』(ブックマン社)を出版している。

本を読んだ教科書出版会社から依頼が来ました。びっくりしましたね。教科書に自分の書いた文章が載る。「おー!」と思いますよね。でも、それは道徳の教科書だったので、ちょっと躊躇したんです。

 

道徳というのは、戦前の「修身」からの流れを持っています。国民のあり方・生き方を子供たちに教えていったものです。だんだん国粋主義・排外主義が高まっていく中で、例えば「日清戦争で戦死した兵士が、敵の銃弾に当たって死んでしまってもラッパを口から話さなかった」ということが、「愛国心」として取り上げられていた時期もあります。「国にとって、こういう国民であってほしい」ということが込められていた要素の強い教科だったので、敗戦後にGHQ(連合国最高司令官総司令部)から修身は停止命令を受けています。

 

ただ、道徳教育が本当になくていいのかっていう議論もちろんあって。私たちが子供の時は「活動の時間」という形で、道徳の時間が週に1時間ぐらいあった。正式な教科ではなかったんですね。それが正式な教科になり、教科書を作ることになった。その第1号の教科書の時に、たまたま私に声がかかったんです。だいぶ悩んだんですけど、最終的にお断りしちゃったんですね。「道徳教育、本当に大丈夫なのかなあ」という疑問もあって。

パン屋が和菓子屋に変わった道徳教科書

ちょうどその頃、「パン屋さん問題」が起きていたんです。覚えていませんか?小学生の道徳の教科書の案が出来てきた時、パン屋さんが取り上げられていた。それに対し「学習指導要領の内容に照らして、扱いが不適切である。伝統や文化の尊重、国や郷土を愛する態度に問題がある」という検定意見が出たんです。それで、「どうしたらいいか」と悩んだ教科書会社は、パン屋さんを和菓子屋さんに変えたんです。

 

愛国的な心をちゃんと持とうというのは、道徳の一つの要素。一概に悪いというわけじゃないんですけども、この問題が明るみになると、パン屋さんがすごく怒ったんです。「戦後教育の中で給食にこれだけ貢献してきたのに、なぜ?」というインタビューをよく覚えています。そういうこともあって、断っちゃったんです。

 

道徳の教科書は、子供の心に大きく影響していきます。いじめをなくすとことにも非常に有効かもしれません。ところが第1次安倍政権下の2006年に教育基本法が改正されて、「愛国心条項」が戦後初めて盛り込まれた。

 

こういった流れの中で、「戦前の修身の復活じゃないか」というふうに見る人もいます。愛国心も大事だと思うんです。「教えて何が悪い」という方ももちろんいらっしゃるでしょう。でも、ならば中国でも、北朝鮮でも愛国心を持っていいわけです。今のような専制国家での(愛国)教育も、ありうるんです。戦前の大日本帝国は滅びたわけです、大きな犠牲を払って。そう考えると、愛国心の話は慎重に、慎重に考えた方がいいだろうと私は思っていますが、それが教科書を通じてどんどん強くなっているということが、今回公開されたドキュメンタリー映画『教育と愛国』の中で、つぶさに描かれています。

映画『教育と愛国』のインパクト

大阪の毎日放送(MBS)で、ずっと教育の問題を真剣に追いかけてきた斉加尚代(さいか・ひさよ)記者が2017年に作ったドキュメンタリー番組『教育と愛国』が映画化されて、福岡でも今週末(6月3日)から始まります。

 

斉加さんは、報道記者をずっとやってきた後、2015年からドキュメンタリー担当のディレクターになっています。沖縄の新聞記者たちを描いた作品『映像’15 なぜペンをとるのか~沖縄の新聞記者たち~』で日本ジャーナリスト会議賞。基地反対運動を取り上げたテーマ『映像’17 沖縄 さまよう木霊~基地反対運動の素顔~』でも民放連優秀賞。そして、『教育と愛国』はギャラクシー賞の大賞まで取っている。非常に有名な記者・ディレクターさんです。

 

この方がずっと追いかけてきた映像とはどんなものなんだろう、と思って見てみました。第2次安倍政権の中で、どんなことが教科書を通じて行われてきたか。歴史や道徳の教科書を誠実に確保する人たちに対して、陰に陽に圧力がかかってきた。それがつぶさに描かれていて、見たら本当に怖くなってきたんです。

 

「道徳教育・愛国心教育が必要」。確かにそうだろうと思っているんですが、「時の政権の都合のいい形に結びついていかないかどうか」をきちんとチェックする必要が、戦前の修身の体験を持っている私たちにはあると思うんです。私なんかアマノジャクだから、共産主義の政権ができた時に教科書にどんどん介入したら、それも僕は嫌です。

 

戦後、「教育委員会」が行政や政治から独立した形で設置されたのも、「地方自治」という考え方も、今の憲法の考え方に従って、不当な政治的介入を防ぐためにできたものです。それが今「なし崩しになってきていないか?」というのが、この『教育と愛国』の問題意識です。歴史の教科書に対する、非常に激しい攻撃。中傷の手紙をその採択した学校に送りつけている人は、どんな人たちなのか。インタビューを実際に受けていて、正義だと思っているので、何か怖いんですよ、見ていたら。

この映画が、福岡市中央区の映画館・KBCシネマで6月3日から。4日(土曜日)は12時50分~14時40分まで。この後、斉加さんと私でトークイベント(1時間)をやります。道徳教育・愛国心教育に賛成の方にも、ぜひ見ていただけたらなと思っているんです。いろいろな議論になったらいいんじゃないか。今、教育現場で何が起きているのかということを考えるきっかけにもなるかもしれません。

<神戸解説委員より>

斉加尚代さんは2019年、著書『教育と愛国 誰が教室を窒息させるのか』を岩波書店から出版しています。今回読み直していて、「私の文章を載せたい」と言ってきた教科書会社のことが載っていたことに気付きました。それによると、この教科書会社の社長は、韓国を攻撃する本やヘイトスピーチ団体代表の著書を発行している出版社の代表者でもあるとのこと。本の中では、実名で明らかにされていました。ラジオの生放送では時間の都合で申し上げられなかったので、ここで補足しておきます。

 

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