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遠回りではなかった|アナウンサーコラム

「スポーツ実況をしてみたい」。そんな感情がアナウンサーという職業へ興味を持ったきっかけだった。一瞬にも思える時間のために様々な犠牲を払いながら研鑽を積むアスリートを、より魅力的に描く言葉と熱量はたまらなく輝いて見えた。

入社2年目。ホークス戦のラジオ実況を目指して努力できるチャンスがあった。
しかし実力が伴わず、デビューはできなかった。自己嫌悪に陥ったが、ある先輩からの「実況デビューに縛られるな。今楽しいと思えている仕事を大事にしろ」という言葉が胸に響いた。ちょうどスポーツジャンル以外の仕事を多くいただき、そこでの苦悩はむしろ充実感に代わっている時期のことだった。

私は何をするにも人より時間がかかる人間だ。そのことを学生時代の部活動や勉強でも実感していたにも関わらず、目先の「デビュー」という事実だけを求めて焦っていた自分に気が付いた。

それから3年後、ラジオでの実況デビュー。課題は山積みだが「これまでのキャリアが実況にも活きているね」と言っていただけたことが、自分の中でとても大きかった。
毛色は違って見えるが、全ての業務が根底ではつながっていると気づけた。幸せなことだ。多種多様なものを伝えられる喜びを力に、これからも目の前の業務に取り組んでいきたいと思う。

6月3日(金)毎日新聞掲載


井口 謙 RKBアナウンサー。山口県下関市出身。

【担当番組】
テレビ:タダイマ! ラジオ:カリメン エキサイトホークス おしゃべり本棚

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