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全盲の彫刻家・三輪途道“指先を瞳の代わりに創作続ける”

一線の彫刻家として活躍しながら、視力を失った女性がいる。群馬県の三輪途道さん(56歳)。今、瞳の代わりに指先を使い、触覚を頼りに粘土とウルシで彫刻を作り続けている。RKB報道局の神戸金史解説委員との電話で、「全盲の彫刻家は、私しかいないんだよ」と言い切るポジティブな三輪さんとやりとりを、RKBラジオ『田畑竜介 Grooooow Up』で紹介した。  

東大寺の大仏1250周年記念の像を制作

10月13日に朝刊を開いたら、三輪途道(みわ・みちよ)さんとおっしゃる彫刻家が取り上げられていたんです。共同通信の配信記事で、九州の新聞にも出ていました。

 

三輪さんは、東大寺の大仏建立1250周年記念(2002年)で東大寺から、大仏に目を入れたインドの僧・菩提遷那(ぼだいせんな)の木像を造ることを頼まれた方で、現代の彫刻として造り上げ、大分の方に染色を頼みました。
そのとき私、取材をしたんです。東大寺が頼んだ仏像の。木彫です。頑固親父みたいな顔をしていました。こういった物を作る彫刻家さんなんです。

 

ところが40歳前くらいから視力に問題が起き始めまして、「網膜色素変性症」で視力がどんどん落ちてくる状態になって、現在ではほぼ失明状態になってしまいました。きのう電話してお話を聞きました。

三輪:私って能天気だから、「なるようになるんじゃない」ってぐらいで、そんなに「凹みモード」はありませんで。ま、たまには鬱が起きるけど、うん大丈夫かなと思うときもあるけど、でも「しゃーないべ」って思うんで、皆さんが思ってるようには凹んでいないと思います。

 

神戸:彫刻家として生きてきたら、すごく衝撃じゃないかなと勝手に想像するんだけど、そこまでではなかった?

 

三輪:いや、やっぱりそれ衝撃というか、それ以前に「食べていけるか?」という不安が半分以上だよね、現実的に。「どうしよう」と素直に思うんだけれども、でも「木は彫れなくても、他の表現方法はきっとあるだろう」と思ったので。なんか深く考えない生き方で、ここまで来てしまったって感じですね。
私のことを「なんかやたら親しげにしゃべってるな、こいつ」と思ったかもしれませんけど、実家が近くで、保育園の時に同級生だったんです。みちよちゃんとはずっと離れてはいるんですけど、お付き合いはしていて、あの仏像を彼女が造って「まさか自分が九州で取材できるなんて」と喜びも感じたんですが、視力が落ちてきて本当に困っただろうなと思っていました。
彼女は去年「祈りのかたち」という本を出しました。仏師であり、自分のオリジナルの作家でもある彫刻家の三輪さんが作った本なんです。どうしてこの仏像はこれほど魅力があるのか。村にある小さな、民衆が作った石彫の仏像がどうして心を打つのか。そういったことを書いているんですが、実はこの本、2つに分かれています。右側から読んだら、健常者が読む本、左から読むのは視覚障害者。それが1冊の本になっています。
「視覚障害者は縦書きより横書きが読みやすい」というデータがあるんだそうで、縦書きを横書きに変えています。それから、新聞や教科書で使っている明朝体は太さが均一でないので、とても読みにくいそうで、丸ゴシック体を採用しています。
そして1行1行罫線を入れて、行が違うことを示しています。視野が狭いので文章の行替えが分かりづらく、何度も同じ行を読んでしまうことがあるからです。でもたっぷり行間を空けてしまうと、ページ数がものすごく必要になっちゃうから、罫線を入れて把握しやすくしているんです。
真っ黒なページに白い文字で書いています。そして、仏像の輪郭がはっきりするよう、白く縁取りをしています。こうでないとぼんやりしてしまって見えない人が多いんだそうです。

 

これは、「Low vision book」というスタイル。「Low vision」とは、視覚に高度な障害があるものの、完全には視力を失っていない状態を指す英語です。それを、健常者用の本と合わせているのに、びっくりしました。表紙で、両方をくるんでいるんです。

指先を瞳の代わりに

目が見えなくなっても、ずっと彼女は彫刻に挑戦しています。

三輪:(木彫は)材木を寝かせたり、角度を変えたりして、「刃物が喜ぶ」方向に木を動かしてあげなくちゃいけないんです。でも粘土はどんと置けば、回転させる必要がないんで、そのまんま「頭の中のXYZ」で造れるのよ。

 

神戸:ははー、なるほど。

 

三輪:これが、決定的。3次元で造るということをずっと鍛えてきたから、見えなくて触って、頭の中のXYZがある程度は描けるんだよね。
頭の中のXYZ(座標軸)。見えていた時代のイメージがあるので、「こんな彫刻を作りたい」「粘土で作りたい」場合、動かさずに粘土をドンと置いて。木彫りは横から裏からひっくり返したりしながら整えていくそうですけど、それは今はできない。

 

その代わり、「粘土ならできるじゃないか」と、今は指を目に替えて、粘土での彫刻を作り始めているんです。もう前向きさがすごくて、びっくりしました。幼なじみですけど、彫刻家として東京芸大の大学院を出た一流の方。視力を失った時にめげずに進んでいることが、すごくうれしいんです。

写真絵本「みえなくなった ちょうこくか」

そして、このたび出版したのが、この薄い写真絵本です。今までに彼女が造った彫刻の写真を置きながら、目が見えなくなっていく過程を友人が文章にしてくれました。

木はほれなくなった

けれど

あたしはあたし

みえなくなった

けれど

あたしはあたし

あたしは ちょうこくか

 

せかいにあふれる たましいを

あたしの手で かたちにしたい
三輪さんは、こんな前向きな言葉も言っています。

三輪:私ずっと、個人だけで生きてきた人間なんで。普通の人と真逆で、本当に独りで立ってきた人なんで。「団体を組むとすごいぞ」「いろんなことができるな」って気づいちゃって、今さら遅いぞって感じですけど。今までなかった「人生の扉」が開かれたような気がします。目が見えてるうちだったらきっとやらなかったことを、見えなくなったがゆえに、新しいことに取り組めることになりました。「全盲で彫刻する人」なんていないんだから、マイナスをプラスに置き換えたら私しかできないオリジナリティも絶対出ると思うんで、うん。私はしぶといですよ!

 

神戸:これは楽しみだな。

 

三輪:金史ちゃーん、またよく見てね。

 

神戸:わかりました! ふふふ、ありがとう。
三輪途道(みわ・みちよ)という名前を覚えておいていただけたらと思います。写真絵本「みえなくなった ちょうこくか」、Low vision book「祈りのかたち」、ご興味のある方はぜひ。ものすごく励まされるような内容になっています。

三輪途道著『祈りのかたち』(2021年、上毛新聞社出版部、税別2500円)
https://www.kinokuniya.co.jp/f/dsg-01-9784863522923
 

写真絵本『みえなくなった ちょうこくか』(2022年、メノキ書房、税別1800円)
https://menoki.org/
神戸金史(かんべかねぶみ) 1967年生まれ。毎日新聞に入社直後、雲仙噴火災害に遭遇。福岡、東京の社会部で勤務した後、2005年にRKBに転職。東京報道部時代に「やまゆり園」障害者殺傷事件を取材してラジオドキュメンタリー『SCRATCH 差別と平成』やテレビ『イントレランスの時代』を制作した。

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