田畑竜介Grooooow Up

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「パンダ外交」ソフトイメージの裏側に中国のしたたかな戦略

「パンダ外交」ソフトイメージの裏側に中国のしたたかな戦略

「中国の○○外交」といえば、ここ数年は「マスク外交」「ワクチン外交」とコロナ禍にちなんだもの、あるいは習近平政権になってから現れた、相手に高圧的な態度を取る、相手を威嚇する「戦狼外交」というのもある。一方で、以前からあり、今も続くのが「パンダ外交」だ。上野動物園のジャイアントパンダ「シャンシャン」の中国返還のニュースから、東アジア情勢に詳しい、飯田和郎・元RKB解説委員長がRKBラジオ『田畑竜介 Grooooow Up』で、パンダ外交についてコメントした。

 

日本で生まれたシャンシャンを中国に“返還”!?

「パンダ外交」とは、中国にだけ生息するが、日本でも多くの人を魅了するジャイアントパンダをツールにした外交だ。

 

今年は日中国交正常化50周年。50年前の1972年10月28日、国交正常化を記念して中国から日本にパンダがプレゼントされた。東京の上野動物園にやって来たのはカンカン、ランランの2頭。日本中がパンダフィーバーになった。現在、日本国内には上野動物園の5頭、和歌山白浜・アドベンチャ―ワールドに7頭、神戸・王子動物園に1頭の計13頭がいる。

 

この13頭の国籍はどこだろうか?正解を発表する前に、先週の金曜日(11月18日)、こんなニュースが流れた。

東京・上野動物園のジャイアントパンダ「シャンシャン」が、来年2月中旬から3月中旬に中国に返還されることが決まりました。「シャンシャン」は、双子のパンダ「シャオシャオ」と「レイレイ」の姉で、2017年に上野動物園で生まれました。「シャンシャン」は当初、おととし12月に中国に返還される予定でしたが、新型コロナの影響で日本の専門家が渡航できず、4度延期していました。(TBS NEWS DIGから)

日本生まれなのに中国に返還される、ということは「シャンシャン」の国籍は中国ということだ。「シャンシャン」に限らず、今、日本にいる13頭全てが、実は中国国籍だ。

 

1981年、希少動物の保護を目的にしたワシントン条約に、中国が加盟した。1981年以降に日本にやって来たパンダは、繁殖や研究を目的に、いわば中国籍のまま「貸し出し」された。中国へレンタル料も支払っている。また貸し出された両親から生まれた子供は、中国に返す約束になっている。だから、「シャンシャン」のように子供たちはやがて、日本を離れる。

 

一方、中国がワシントン条約に加盟する前に日本に来た「カンカン」「ランラン」、それに1980年に来日した「ホアンホアン」までの3頭は中国から贈呈された。いわば、国籍が中国から日本に変わったのだ。

日本の命運を左右した戦前のパンダ外交

最近、講談社から出版された「中国パンダ外交史」が話題を集めている。著者は東京女子大学准教授の家永真幸さん。中国の戦争と革命、さらに改革・開放などの歴史のなかで、愛らしいパンダが中国のイメージアップの役割をどう担い、パンダはいかに外交の舞台で活躍し、政治利用されてきたか…を描いている。

 

たとえば、日本に2頭のパンダが初めてやってきた半年前の1972年4月、中国はアメリカ・ワシントンのスミソニア動物園にオス、メス1頭ずつをプレゼントしている。当時アメリカはパンダブーム、中国ブームにわいた。ニクソン大統領が現職のアメリカ大統領として初めて中国を訪問した直後だった。

 

家永さんの本にもあるが、さらに時代を遡ると、もっと興味深い。中国に今の共産党政権ができる前、1941(昭和16)年のことだ。蒋介石の中華民国が日本と戦争を続けていた。蒋介石の夫人、宋美齢は2頭のパンダをアメリカ・ニューヨークの動物園にプレゼントした。これはアメリカからの支援を得るためだった。

 

パンダの可愛らしさはすでにアメリカで知られていた。この蒋介石夫人だが、それから2年後の1943年、アメリカの連邦議会で演説する機会を得た。彼女は流暢な英語を操って「アメリカの敵はドイツではなく、日本だ」と訴えた。アメリカの世論を味方につけ、アメリカはやがて参戦するのだが、その2年前のパンダ贈呈の効果も大きい。日本は戦争に負けた。パンダは日本の命運をも左右したと言っていかもしれない。

いまも外交の駆け引きにされているパンダ

ところで、「パンダ・ハガー」という言葉を知っているだろうか? 「パンダをハグする(=抱く)人」の意味の英語。「パンダ外交」など中国外交工作の手中にはまり、中国寄りの考え方になる国家や外交官を指す。パンダは、そんな比喩にも使われる、中国にとって、重要なコンテンツなのだ。

 

これまた先週のニュースだが、台湾の台北市立動物園にいたオスのジャイアントパンダが11月19日に死んだ。このオスは2008年にメスとともに、中国が台湾へプレゼントしたもの。2頭のパンダが海を渡った2008年当時の台湾のトップは、親中派の馬英九総統。中国側が「これはいい機会だ」と判断し、台湾市民の気持ちを中国サイドにぐっと引きつけようという狙いからだ。

 

しかし、現在は中国と台湾に緊張関係にある。代わりのパンダが台湾へ来るどうか、影響しそうな気もする。台湾のパンダは、お父さんが死んだので、お母さんと子供の2頭。このままでは繁殖は不可能だ。

 

同じことは、アメリカに対しても言える。ワシントンのスミソニアン国立動物園には、オスとメスのパンダ、そしてこの2頭の間に生まれた子供がいる。2020年末に中国へ返還される契約だったが、3年間延長された。しかし、その期限が今から1年後にやって来る。ワシントンでもパンダは大人気だが、返還の判断をするのは中国側。米中間の外交が影響するかもしれない。

 

密猟などの影響で、およそ50年前は数百頭しかいなかったパンダは現在、1800頭以上まで増えた。中国の保護、さらに、国際的な種の保存のための協力が実っている。絶滅危険度は「絶滅危惧種」から「危急種」に引き下げられたが、貴重な存在であるのには変わらない。

 

国際的な政治のツールにされてきたパンダ。パンダ自身には責任はない。これまで同じように、愛くるしい姿を、世界の子供たちに見せてほしい。

飯田和郎(いいだ・かずお) 1960年生まれ。毎日新聞社で記者生活をスタートし佐賀、福岡両県での勤務を経て外信部へ。北京に計2回7年間、台北に3年間、特派員として駐在した。RKB毎日放送移籍後は報道局長、解説委員長などを歴任した。

 

金曜ドラマ『クロサギ』

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