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「ブラック・ビートルズ」アース・ウインド・アンド・ファイアーの功績

アメリカの黒人グループとして最大の成功を収め、「ブラック・ビートルズ」と呼ばれた、アース・ウインド・アンド・ファイアー。音楽プロデューサー・松尾潔さんが、RKBラジオ『田畑竜介 Grooooow Up』で、ちょっと自慢したくなるうんちくを交えて、彼らの功績を解説した。    

「ブラック・ビートルズ」

アース・ウインド・アンド・ファイアー。たとえグループ名を知らなくても、たとえば「Let's Groove」のように、彼らのサウンドはどこかで耳にしたことがある、という方がほとんどではないかと思います。かつてとんねるずが彼らの全盛期のようなコスチュームとアフロのヘアウィッグで、ものまねをしていたこともありました。日本において“きらびやかな”“踊れる”というディスコ音楽のイメージの形成に一番大きな役割を果たしたグループと言っても過言じゃないでしょう。

 

アース・ウインド・アンド・ファイアーが全盛期を迎えた1970年代は、彼ら以外にも、クール&ザ・ギャングやキャメオなど、いろんなディスコミュージックのグループが出たんですが、やっぱり“ブラック・ビートルズ”と言われ、人種を越えた破格の成功を収めたのはアース・ウインド・アンド・ファイアーをおいてほかにありません。

アース・ウインド・アンド・ファイアーの創設者モーリス・ホワイト

きょう12月19日は、このグループを創設したオリジナルのリーダー、モーリス・ホワイトの誕生日です。健在であればきょうで81歳だったんですが、残念ながら6年前に75歳で亡くなりました。このモーリス・ホワイトは、元々シカゴを活動エリアとする有名なジャズドラマーでした。シカゴを代表するピアニスト、ラムゼイ・ルイス率いるジャズバンドの若き天才ドラマーとして活躍していました。そこから脱退して、ジャズだけでなくロックや他の音楽要素をたくさん加えて、ポップな成功を収めようとして立ち上げたのがこのアース・ウインド・アンド・ファイアーだったんです。

ライブをエンタメ化

アース・ウインド・アンド・ファイアーの特徴として、ホーンセクションを大胆に導入したり、きらびやかなステージを演出するためにマジックショーを展開したりという、ライブをエンタメ化した意味においても、音楽史上に残る人たちです。実際、日本に来たときも、かつての引田天功さんのように、ステージからアーティストをパッと消して、別のところから出てきました、という、かなり大がかりなマジックショーをしつつ、高い音楽性と両立していました。

 

よく「マイケル・ジャクソンからミュージックビデオの時代が」というふうに言われますが、音楽にビジュアルの要素が加わったのは、映像ではなかったけれども、ステージを見せることに特化したという意味においては、アース・ウインド・アンド・ファイアーは大きな役割がありました。

大所帯バンドをコストカット

彼らはもともと大所帯のバンドで、きらびやかなステージを展開していったんですね。ところが「人員を削減する」というコストカット面で、彼らはリーダー的役割を果たしています。どういうことかというと、たとえばシンセサイザーという楽器ができてくると、ホーンセクションはそれほど大人数が要らなくなります。そこで大胆なメンバー削減に乗り出したりするんですね。

 

ヒットをいくら出しても、メンバーが多いと、ツアーを何本もやっていたら、ギャラの分配で採算が取れない、というのが悩みの種。アースがメンバー削減ということをやると、他のバンド、グループもそれに追従して、大所帯バンドがどんどん減っていきました。

 

このように、作品だけでなく、後に残した影響力という意味でも、後世に語られるグループです。モーリス・ホワイトは、音楽家であると同時に、ある種の事業家、アントレプレナーとしての役割も果たしたと言えます。

 

当時としては珍しい、黒人主導のレーベルを自分たちで作っています。さらに他のアーティストのプロデュースに乗り出し、たとえば、ちょっと落ち目になりかけたThe Emotionsという女性グループも蘇生させました。ジャンルを超えた共演もよくやっていました。

黒人グループとして最初の成功を収めた

アース・ウインド・アンド・ファイアーを売り出したのが、弁護士でもあり、当時コロンビアレコードのトップにいた、クライヴ・デイヴィス。90歳を超えて今なお、音楽業界のドンとして君臨しているエグゼクティブです。彼がアース・ウインド・アンド・ファイアーを黒人だけじゃなく白人、もっというと世界中に売れるなってことで目をつけて売り出し、それが見事に成功しました。

 

後にクライヴ・デイヴィスが手がけたのが、ホイットニー・ヒューストンやアリシア・キーズ。今でこそ、人種の壁を越えて愛される黒人アーティストはたくさんいますが、そういった前例をクライヴ・デイヴィスが初めて成功させたのがアース・ウインド・アンド・ファイアーでした。音楽産業史の中でもアース・ウインド・アンド・ファイアーは教科書に出てくる名前ですね。

「September」は12月の曲!?

最後に、モーリス・ホワイトの誕生月である12月にちなんだ曲を紹介します。タイトルは「September」。この曲、よくよく聞いてみると、“Now December”と歌っています。「12月に9月の恋を振り返る」という歌なんですね。

 

ソウルミュージック好きあるあるで、「Septemberって実は12月の曲なんだよね」って言いたがる人がいるんですけど、せっかくですのでこれを機に友達や家族と一緒に車に乗って「12月だからこの曲」っていう前振りでSeptemberをかけて「あれ、9月じゃないのこれ?」って反応があったらすかさず「ちょっと2番の頭聞いてよ、Decemberって言ってるでしょ」ってドヤ顔して、楽しい時間をお過ごしください(笑)

 

この曲、9月になるとよくラジオでかかるけど、本来は12月にかけるべき曲ですよ。ただ、アメリカの音楽業界の人にこの話をすると「アメリカでもやっぱりどっちかっていうと9月にかかることが多いかな」って答えでした。

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