とんかつ専門店でメニューを開くと、まず直面するのが「ロースヒレ問題」です。どちらにも特徴があり好みの分かれるところですが、最大の違いはなんといってもロースに多く含まれる「脂身」でしょう。
筆者は以前胃腸を患って数年間食事制限をした経験があり、その間は一切の揚げ物を絶っていました。完治して久しぶりにとんかつを口にした時、感動したのはその脂のうまさ。もうどこで食べたか忘れましたが、脂身には脳に幸せを感じさせる魔力があるようです。
そんな魔力的な味を求めて向かった先が、赤坂の「とんかつ とんとん」です。大正通りから曲がった路地に建つ古いビルのさらに奥まった場所にあり、この佇まいを見ただけで美味しいものにありつけそうな雰囲気がぷんぷんとしてきます。
店主の平野憲一さんは、長くメキシコ料理店「エル・ボラーチョ」で働いていたという経歴の持ち主。ところが独立するにあたっては、「福岡にはない、ちょい飲みもできる蕎麦屋のようなとんかつ屋をやりたかった」といいます。
その後押しになったは、平野さんが「この豚を福岡の人に食べてもらいたかった」というほど惚れ込んだ岩手県産の「白金豚(はっきんとん)」。宮沢賢治が当地の豚を「白金のよう」と評したことから名付けられたブランド豚で、まろやかな甘みのある脂身が最大の持ち味です。
メインメニューの「白金豚のとんかつ」(1,500円)はロースとヒレが用意されていますが、今回は「脂身」のうまさを確かめるためにロースの一択です。この店に限っては、「ロースヒレ問題」は発生しませんでした。
サラリとした米油を使って程よいキツネ色に揚げられたロースは、130gほどを6切れにカットされて登場します。その切り口はうっすらピンク色の赤身に、透明感のある脂身がきらきらと光る美断面! このルックスを見ただけで、脳内ホルモンが一気に分泌されそうです。
最初の1切れは何もつけず、そのままガブリといくのが極上のとんかつを食べる時の作法です。スッと歯が入る柔らかな食感に続き、きめの細かい繊維の間から肉汁がジュワッと広がるのはまさに至高の瞬間。その後には艶かしい脂の旨味が脳内を駆けめぐり、得もいわれぬ恍惚感が訪れます。
2切れ目以降は、添えられたわさび塩と八丁味噌を溶いた特製ソース、そしてシャキシャキの千切りキャベツのローテンションで。味が濃くなるほどに「これはビールだろ!」と、思わず昼飲みに突入してしまいました。
最初に「ロース一択!」と宣言しましたが、筆者はなにも「ロース至上主義者」ではありません。2品目には、もう一つの銘柄豚である宮崎県産「霧島山麓豚」を使った「ヒレかつとじ」(1,000円)を注文しました。
こちらはいかにも南九州産らしい力強い風味があり、ロースとはまた違ったうまさが楽しめます。鰹と昆布、鯖節でとった出汁が香り、蕎麦屋でいう「かつ丼の台抜き」と同じで昼飲みには最適のメニューです。
そして、もう一つ。この店で外せないのが、長浜市場から仕入れる新鮮な魚を使った「アジフライ」(800円)です。形の良いアジ一尾を開いた身は分厚く、自家製タルタルソースとの相性も抜群。これでまた、ビールがグイグイと進んでしまいます。
昼12時から夜10時までの通し営業で、早い時間からの昼飲みもOK。今回は単品で注文しましたが、12時から16時の間は「とんかつ定食」(1,200円~)もあり、それ以降の時間帯は注文を受けてから土鍋で炊く「ごはんとみそ汁」(500円)も用意されています。黒板メニューには日替わりの一品料理がズラリと並んでいますので、昼飲みといわず夜は居酒屋としても利用できますよ。
ジャンル:とんかつ、居酒屋
住所:福岡市中央区赤坂1-6-5松村ビル1F
電話番号:092-231-2157
営業時間:12:00~OS21:30
定休日:日曜
席数:カウンター8席、テーブル6席
個室:なし
メニュー:白金豚とんかつ(ロース・ヒレ)1,500円、ヒレカツとじ1,000円、アジフライ800円、かにクリームコロッケ650円、ポテサラ300円、白金豚すじの煮こみ600円、ごはんとみそ汁500円、とんかつ定食1,200円~(12~16時のみ)
URL:https://www.instagram.com/tonkatu_ton2/
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