PageTopButton

松任谷由実のヒット曲から「恋を引きずる女性の心理」を考える

ジャーナリストとして、社会問題をさまざまな角度から掘り下げるコメントで定評のある、元サンデー毎日編集長・潟永秀一郎さんがレギュラー出演しているRKBラジオ『櫻井浩二インサイト』で、ひそかに人気になっているコーナーがある。
 
それは、昭和から平成のヒット曲の数々の歌詞を読み解く「この歌詞がすごい!」だ。実は潟永さん、かつて作詞家志望だったという。誰もが口ずさめる歌詞に込められた世界観や、心情の機微を事細かに解説していく。
6月30日の放送では、ユーミンこと、松任谷由実の3曲を採りあげた。
 
①DESTINY 1番の冒頭「ホコリだらけの車に指で書いた True love , my true love」と2番の冒頭「緑のクウペが停まる 雲を映し Sure love ,  my true love」で時間の経過と彼の心の変化、彼女の変わらない思いが描かれている。ホコリだらけということは、まだ学生ではないかと考える。去っていく彼に、彼女は本当に愛しているとメッセージを送っている。 しかし、2番になると、車は緑色のスポーツカーに変わって、雲が映るほど磨きこまれている。昔よりかっこよくなった彼に彼女はやっぱり好きだと気づく。 しかし、サビでは「冷たくされていつかは見返すつもりだった それからどこに行くにも着かざってたのに 今日にかぎって安いサンダルをはいてた」とくる。 悔しい様子が目に浮かぶが、彼女の健気な乙女心が伝わる歌詞になっている。嘘っぽくなく、リアルにありそうなシチュエーションだ。
 
②幸せになるために 1番の冒頭「話すことは沢山ありすぎるけど 黙ってそのなつかしい顔を見せて」という歌詞だけで、今も彼女がどんなに彼を愛おしく想っているかが伝わる。しかし途中、「明日になればあなたに会える そうただそれだけのために もっと素直にもっとやさしく もっと強くなろうとして来た」とある。 この歌詞から遠距離恋愛の末に別れてしまったのではないかと考えた。 さらに次に来る歌詞が「明日になればあなたのことは もう思い出さないでしょう 私にとってあなたにとって もっと幸せになるために」とある。タイトルにたどり着いたかと思えば、歌詞はさらに続く。「明日になればあなたに会える そうただそれだけのために もっと素直にもっとやさしく もっと強くなろうとして来た」 そうなると「もう思い出さないでしょう」は彼へ「幸せになってね」というメッセージではないか。そう思わせる深さがこの曲のすごさだ。
 
③静かなまぼろし 冒頭の歌詞「通りのドアが開き 雑踏が迷い込む」とある。雑踏が迷い込むという表現とともに、彼が偶然店に入ることを表す。そこでバイオリンの音が子刻みに震えていて、彼女のときめきを表現している。このことから、1番では「ときめき」「期待」が描かれており、続く歌詞は「もしも微笑み この席で向き合えば 時は戻ってしまうの遠い日に」と願う。しかし、2番では一緒に来た女性とメニューを選ぶ声が聞こえる。これはかなりキツいシチュエーションだ。3番で彼女は、一瞬でも夢を見た自分が恥ずかしくなり、彼に気づかれたくないという気持ちになる。そこでこの歌詞「昔の恋をなつかしく思うのは 今の自分が幸せだからこそ もう 忘れて」。傷ついた心のままでは懐かしく思えない。彼女の心の動きを197文字の歌詞で表現しており、まるで短編映画のような曲だ。
 
潟永さんはある疑問を持った。それは「女性の恋愛は上書き」とよく言われるが、女性でも引きずることがあるのか。相手の男性によってはそうなる場合もあるようだ。この3曲に出てきた彼女たちが「今が幸せ!」とほほ笑んでいることを願う。

この記事はいかがでしたか?
リアクションで支援しよう