東アジア情勢に詳しい、元RKB解説委員長で福岡女子大学副理事長の飯田和郎さんが、6月1日放送のRKBラジオ『田畑竜介 Grooooow Up』に出演しました。5月に行われた米中首脳会談において、習近平主席がトランプ大統領に対し、対日批判や高市総理批判を展開したというニュースについて、その批判の手法を中心に日中関係の現在地を検証します。
米中首脳会談で対日批判はあったのか
先週、東京の霞が関や永田町を騒がせるニュースがありました。5月に行われた米中首脳会談において、習近平主席がトランプ大統領に対日批判、高市批判を展開したというものです。「超低空飛行」が続く日中関係は、さらに着地点を見いだせなくなったのでしょうか。
北京で先月14、15の両日あった米中首脳会談ですが、会談後に中国側、アメリカ側からそれぞれ発表、またブリーフィングされた内容に従えば、「日本に関する言及」は首脳会談ではありませんでした。しばらく間をおいてから、会談内容が徐々に明らかになるケースは少なくありません。ただ、私は今回ばかりは驚きが大きかったです。
先週明らかになった習主席の対日批判について、その内容を整理していきましょう。ソースは2つあります。海外メディアの報道と、日本の政府関係者が明らかにした内容です。
ひとつ目の海外メディアの報道ですが、これは英国紙「フィナンシャル・タイムズ」が5月24日に報じたものです。私もその報道を英文で直接確認しました。概要は次のようなものです。
「習近平主席はトランプ大統領との会談で、日本の『再軍備化』を取り上げ、高市早苗総理と日本の防衛費増額を強く非難していました。日本についての話題となった際、習氏は声を荒らげ、興奮した様子を見せたということです。 会談前の米中間の協議では、日本については取り上げられなかっただけに、アメリカ側の同席者を驚かせたとのことです。複数の関係者は『習氏の激しい非難は、2日間の会談の中で、最も緊迫した場面だった』と振り返っています」
フィナンシャル・タイムズは、これらの情報について「この首脳会談に詳しい7人の関係者が明らかにした」と言い、信ぴょう性の高さを保証しています。
「名指し」と同列扱いが意味する異例の事態
いわゆるネタ元が7人いる一方で、日本の政府関係者も先月24日、このように明かしました。
「習近平主席は14日の首脳会談で、高市総理と、台湾の頼清徳総統の2人を名指ししたうえ、この2人が地域の平和を脅かしていると主張。さらに、この2人を支援しないようトランプ氏に迫ったということです。複数の日本政府関係者が明らかにしました」
このふたつの報道・情報を合わせると、習近平氏は「日本の話題になると、声を荒らげ、興奮した様子を見せた」、そして「高市総理を名指しして非難した」というわけです。
情報が巡るうち、発言内容の正確さや雰囲気などが微妙に変わってしまうことはあります。私が最も気になるのは「高市総理を名指しして非難した」という部分です。理由を説明しましょう。
私がウォッチしてきた限り、中国の指導層、とりわけ最高指導者は、首脳会談でその場にいない人物を批判、否定する場合、個人名で名指ししないケースが多かったです。それは大国・中国のリーダーとしての気位の高さ、詳しく言うと、格下と見なす人物の名前を挙げること自体、自らの評価を下げてしまうということだと感じてきました。たとえば、その代わりに「日本のある指導者は」とか「台湾の指導者は」という表現が用いられてきました。「名指ししないけど、だれのことかわかるでしょ」という方法です。
ということは、実際の米中首脳会談では習近平氏の口から「高市」という固有名詞は出なかったのではないか、とも考えられますが、真相はわかりません。「名指しした」ということであれば、習近平氏は歴代指導者と違い、台湾有事に関する昨年11月の「高市発言」に対する怒りが、とりわけ大きいということなのでしょう。
もう一点を挙げると、「習近平氏は高市総理と、台湾の頼清徳総統の2人を合わせて名指しした」という部分です。名指ししただけでも大きな出来事なのに、同列に並べたのが「独立を企てている」と中国が非難する頼清徳総統だということです。日本と台湾の指導者が手を組み、台湾統一を阻んでいるという認識なのでしょう。
確かに報道や情報のとおりなら、フィナンシャル・タイムズの報道にある「複数の関係者がいう『習近平氏の激しい非難は、2日間の会談の中で、最も緊迫した場面だった』」というのも頷けます。
中国側の反応と、悪化する日中関係の「新たな段階」
中国サイドは、これら報道が正しいか認めているのでしょうか。報道が出た翌日の25日、中国外務省の定例記者会見が開かれました。これら情報の確認を求められたスポークスマンは、こう答えていました。
「米中首脳会談に関する情報はすでに発表しています。報道内容と、中国側が把握している状況は符合しません」
「符合しない」つまり「ピッタリとは合わない」という説明です。ただ、報道のどの部分が「符合しない」のかまでは述べていません。習近平氏が「高市総理を名指ししたこと」なのか、また「声を荒らげ、興奮した様子を見せた」ことなのかはわかりません。首脳会談では習近平氏の左隣には、中国外務省の責任者・王毅外相が座っていました。首脳会談の実際と報道との間には、大小は別にして違いがあるのは確かなのでしょう。
ただし、日中関係はこれまで浮いては沈んで、沈んでは浮く、つまり落ち込んでもやがて回復する、そんな繰り返しでした。しかし、中国側の反発、とりわけ習近平氏の怒りは、過去とは別次元なのかもしれません。習近平氏の怒りの大小は別として、米中首脳会談の全体会合で日本批判や高市総理批判を展開したとすれば、真向かいに座ったトランプ大統領だけではなく、ズラリと並んで座った中国側の部下たちを意識して示したのかもしれません。「これからも日本には強い態度を貫くぞ」という意思表示というわけです。
同じ先月末、赤沢亮正経済産業相が中国江蘇省で開かれた国際会議に出席しました。そこで中国の商務相との接触がありましたが、立ち話、あいさつ程度でした。中国がホスト国だから、出席した各国代表とあいさつするのは当たり前であり、最低限の接触に終わりました。
高市総理は、中国で起きた炭鉱事故を受け、習近平主席、李強首相に哀悼と見舞いのメッセージを出しました。中国側へのアプローチにも受け取れますが、日中関係は悪い方向の「新たな段階」に来ているのかもしれません。私が想定してきたレベルとは、すでに違う局面に突入している可能性があります。
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この記事を書いたひと

飯田和郎
1960年生まれ。毎日新聞社で記者生活をスタートし佐賀、福岡両県での勤務を経て外信部へ。北京に計2回7年間、台北に3年間、特派員として駐在した。RKB毎日放送移籍後は報道局長、解説委員長などを歴任した。2025年4月から福岡女子大学副理事長を務める。




















