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僕とOVERCOAT

Dice&Diceで働き始めて10年、沢山の素敵な服と出会うことができた。その中でも、僕が最も衝撃を受けたブランドが「OVERCOAT」だ。

「OVERCOAT」のデザイナー大丸隆平さん。大丸さんは日本を代表する某メゾンブランドに入社し、若くして中心的なパタンナーとして活躍した。その後単身渡米し、NYのマンハッタンにデザイン企画会社「oomaru seisakusho 2」を設立する。今では、Alexander Wang、Thom Browne、Prabal Gurung、Jason Wuなどの名だたるブランドのパターン製作を手掛けている。そして、大丸さんは自身のブランド「OVERCOAT」をスタートさせた。
こんな触れ込みを聞いていた僕は、「OVERCOAT」が入荷するなり急いで荷をほどき、中からコートを一着選んで、鏡の前で袖を通した。

着てみて感じたのは、強烈な違和感だった。

普段着ている服の着用感とは全然違う。いつもは窮屈なところに感じたことのない空間ができている。いつもは生地が沿わない部分に何故か生地が沿ってくる。緊張は程よく緩み、逆に緩んでいたところは正されるような不思議な感覚だ。そんな感覚は生まれて初めてだった。

簡単に言ってしまえば、それは「着心地が良い」ということになるのだろうが、どこか言葉足らずな感じがして、あまり適切ではないと分かっていながら違和感と言ってしまう程だ。

「OVERCOAT」の服はどれも、一見すると「普通」に見える。しかし、目を凝らすと実は全然「普通」ではないことに気が付く。普通の服にはないところに結い目があったり、逆に一続きの生地だったり。それはパターンという服の設計図をもとに導き出された縫い目であり、全てに意味がある。

そんな緻密に計算されたパターンは、ある意味手品のような仕掛けとなって、不規則なカーブで形づくられている人の体を包み込んでくれる。それは個人に留まらず、サイズやジェンダー、エイジなども超えることができる包容力なのだ。

このことからも分かるように、「OVERCOAT」の服はどんな人にも寄り添い楽しませることができる、今までにないほど「優しい」服である。

そして、それと同時に「差別を超える」というなかなか難しい理念を、生地や縫製やパターンといった服の持つ本来の力で実現しようとしている「尖った」服でもある。

こんなにも社会にインパクトを与える服なんて、世界中どこを探しても無いと思う。だから、大丸さんがカマラ・ハリス氏の服を仕立てたと聞いても、それは本当に凄いことなのだが、僕は妙に納得してしまっている。
先日、大丸さんを招いてオンライン座談会を開いた。その時語ってくれた大丸さんの半生を聞いて、「OVERCOAT」のような優しくも尖った服が生み出される理由が、僕にはなんとなくわかったような気がした。(「Dice&Dice、OVERCOATと出逢う」という座談会の書き起こし記事で読んでいただけます。)

大丸さんの半生は、典型的なヒーローの逸話でもなければ、成り上がりの派手なサクセスストーリーでもない。言ってしまえば、社会の中心から逸れた者が、逸れたまま、ひときわ輝いているといった印象だ。

僕はそんな大丸さんの素朴な人間性と、その人が生み出す服に、心を奪われて「いつか大丸さんのように輝いてみたい」と、珍しく憧れを抱いてしまっているのだ。


4/23~5/3の間、Dice&Diceでは「OVERCOAT」のポップアップストアを開催します。初日から3日間はデザイナーである大丸さんも在店する予定です。是非お立ち寄りください。

■OVERCOAT POP UP STORES FUKUOKA AT DICE&DICE
開催日:4/23[金]- 5/2[日]
※火曜定休
※デザイナー在店日:4/23~4/25
時間:13:00 ~ 18:00
場所:DICE&DICE
住所:福岡市中央区今泉 2-1-43 DXD bldg.

■トークイベント : 4/24[土] 18:00 ~ 19:00
大丸隆平 (OVERCOAT) 後藤麻与 (T.READ) 吉田雄一 (Dice&Dice Director)

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