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ユーミンの「双子曲」を作詞家志望だった元編集長が解き明かす

ユーミンの「双子曲」を作詞家志望だった元編集長が解き明かす

雑誌「サンデー毎日」の元編集長で、テレビ・ラジオのコメンテーターとして活躍している潟永秀一郎さんは、若かりし頃、作詞家をめざしていた。その経験を生かし、現在レギュラー出演しているRKBラジオ『櫻井浩二インサイト』で「この歌詞がすごい」というコーナーを持ち、往年のヒット曲の歌詞を読み解いている。9月29日の放送では、同じモチーフから誕生した別々の曲を「双子曲」として紹介した。

 

①「夏のクラクション」(稲垣潤一)の双子曲はチェッカーズのヒット曲

 

ヒットメーカー・売野まさおさんの著書「砂の果実 80年代歌謡曲黄金時代疾走の日々」には、こんな一節がある。

 

<誰が読んでも絶対に気付かない自信があるけど、この二つの曲は同じDNAを持つ、別々の惑星で生まれた双生児だ>

 

二つの曲、ひとつは稲垣潤一の「夏のクラクション」。もうひとつは、1984年1月に発売されたチェッカーズ2枚目のシングルで、67万枚を売った初の大ヒット曲「涙のリクエスト」。「夏の-」とは全く違う歌詞と曲調のこの歌が、なぜ双子の曲なのか?実は、どちらも映画『アメリカン・グラフィティ』から生まれたという共通点がある。

 

「夏のクラクション」は映画のラストシーン、主人公が大学進学のために飛び立った飛行機の窓から、白いクーペに乗った憧れの女性が去っていくのを見る場面から生まれた。一方、「涙のリクエスト」は、主人公がこの女性に曲をプレゼントするため、有名なDJ、ウルフマン・ジャックにリクエストの電話をするシーンから着想を得たという。

著書には<書き出しの二行がすぐにできてしまった。あとは集中を切らさず、一気に最後まで行くだけだ。あっという間に2コーラスの歌詞が書きあがっていた。書き始めてから2時間と経っていない。そんなことは珍しかった>とある。

 

その最初の二行とは、「最後のコインに祈りを込めてミッドナイトDJ/ダイヤル回すあの子に伝えてまだ好きだよと」だ。

 

ちなみに、売野さんはチェッカーズのために約30曲を作詞し、このうち「星屑のステージ」や「ジュリアに傷心」「あの娘とスキャンダル」「Song for U.S.A.」など7曲が、オリコンの1位を獲得している。

 

②「Hello, my friend」(松任谷由実)の双子曲と“音速の貴公子”

 

次に紹介するのは、松任谷由実の「Hello, my friend」の双子曲。こちらは業界的には一番有名な双子曲で、生まれた背景には悲しい物語がある。関わっているのはレーシングドライバー、アイルトン・セナ。F1で3回ワールドチャンピオンになり、その中でも1988年にはマクラーレンホンダで16戦中8勝、13回のポールポジションという圧倒的記録を残し“音速の貴公子”呼ばれた人物だ。しかし1994年5月、サンマリノグランプリのレース中に事故で、34歳の若さで帰らぬ人になる。実はこの3年前、ユーミンはモナコグランプリでセナと出会い、この年の鈴鹿グランプリの時には対談をして、親交があった。そのユーミンが、セナの死を悼んで書いたのが双子曲「Good-bye friend」だ。

 

サビの「淋しくて淋しくて」は「Hello, my friend」と全く同じ。実はもともと「Good-bye friend」が、当時のフジテレビの月9ドラマ『君といた夏』の主題歌になるはずだったが、プロデューサーから書き直しの求めがあり、作り直したのが「Hello, my friend」なのだ。

 

どこがどう変わったのか。「Hello-」では、セナが駆け抜けた短い人生の輝きを、ひと夏の恋の輝きに、亡くした喪失感を季節が去っていく寂しさに、それぞれ置き換えている。その結果、セナに送った追悼の歌が、誰しも実感できる普遍性を持つことになった。

 

ひと夏の恋に置き換えたのが冒頭の歌詞で、「Hello, my friend/君に恋した夏があったね/みじかくて気まぐれな夏だった」と、出会った時のトキメキと季節を示し、「Good-by-」では「君を失くした光の中に指をかざし/眩しくて見えない堤防」と、死の喪失感を書いたが、「Hello-」では「Destiny君はとっくに知っていたよね/戻れない安らぎもあることを」と歌って、なくしたものが何かを、聞く人それぞれの思いにゆだねている。ちなみに、セナは事故の前日、何かを予期したように、恋人に電話で「走りたくない」と話していたという。「Destiny=運命」を君は知っていた、という歌詞は、もしかしたらここから生まれたのかもしれない。

 

そして、2番の歌詞「Hello, my friend/今年もたたみだしたストアー/台風がゆく頃は涼しくなる」で、夏はあんなに賑わった通りが、季節の終わりとともに閑散として、店もたたみ始め、秋風が吹き抜ける、そんな避暑地の風景に置き換えることで、寂しさを誰でも実感として共有できる。さらに「Yesterday/君に恋した夏の痛みを抱きしめる/この季節走るたび」と、失った恋の痛みに戻り、「ずっと忘れない」というメッセージが込められる。続くサビで「淋しくて淋しくて/君のこと思うよ/離れても胸の奥の友達でいさせて」「悲しくて悲しくて/帰り道探した/もう二度と会えなくても友達と呼ばせて」は、双子曲で同じ歌詞だ。だが「hello-」の方が、聴く側に季節や風景が示される分、その切なさが実感として伝わるのではないだろうか。これはある意味、俳句と一緒で、伝えたい思いや感動を季語や情景に託すことで、普遍性を持たせる作り方といえる。思いを込めた「good-bye」をボツにされたユーミンは不本意だったかもしれないが、結果として、プロデューサーのリクエストが生んだ名曲と言えるかもしれない。

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