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あなたのデジタルクローンが無断で作られている!?Cookieの同意は慎重に

ウェブサイトで何かを調べたりすると、次からそれに関連する広告が出るようになってくる―。多くの人が経験したことがある“なんだか気味が悪い現象”はなぜ起こるのか?元サンデー毎日編集長・潟永秀一郎さんが、レギュラー出演しているRKBラジオ『櫻井浩二インサイト』で解説し「規制が強まる動きはあるものの、個人の対策も必要」と警鐘を鳴らした。

 

次々に卑わいな広告が出て困っている

潟永秀一郎(以下、潟永):本題に入る前に、デジタル業界でよく知られている小噺がありまして。最近パソコンを始めた年配の男性が、娘婿さんに「ネットを開くと、次々に卑わいな広告が出て困ってるんだ」と相談をしたそうです。お婿さんは「それはお義父さんがそういうページをご覧になったからですよ」と言いたくても言えずに、「そうですか」とパソコンを初期化してあげた、という話です。元は実話らしいんですが、つまりその人がウェブ上で何を見たかというデータが、本人が知らない間にネット上でやりとりされているわけです。

潟永:その代表的な仕組みが「クッキー(Cookie)」というものです。クッキーは大別して2種類あって、ひとつはファーストパーティクッキー、もうひとつがサードパーティクッキーです。ファーストは、自分が見たウェブサイトが発行しているもので、サードは文字通り第三者が発行しているものです。一度ログインしたページって、同じスマホ上で次に開いたときも、IDやパスワードを入れなくても開けますよね。また、ショッピングサイトで、カートに入れた商品が、いったんブラウザを閉じても残っています。これはファーストパーティクッキーの仕事で、いわばお得意さんを見分ける目印なんです。一方サードは、サイトに載っている広告媒体がつける目印で、広告主は次からその訪問者を識別できるんです。例えば、ファッションのページをよく見ている人は、そこに載せているいろんな広告主から“興味のある人”として目印をつけられていて、この人が別のサイトを見ていても同じ広告が載るわけです。

高橋早紀(以下、高橋):2年前にランドセルを探していた時期に、次々にランドセルの広告が出てきました。

潟永:こうしたデータは広告を運営する側にどんどん蓄積されるので、例えばグルメサイトで福岡の飲食店を探していて、野球の試合結果とか中古車情報とかもよく見ていると、「福岡在住の野球ファンで、しばしば外食をして、車を買い替えようと考えている」という人物像ができあがり、より効果の高い広告を打てるんですね。さっきのランドセルもそうですよね。ランドセルだけじゃなく、おそらく入学に関係するようなものも広告に出てきたはずです。

高橋:写真館も出てきましたよ。

知らない間にデジタルクローンが作られる!?

潟永:そうでしょう。そういう人物像ができているんですね。怖いのは、ネットのアクセスが多ければ多いほど“正確な人物像”ができあがっていくことで、ここにニュースやSNSの閲覧情報なども加わると、思想とか趣味嗜好っていった部分も浮かび上がってきます。こうして出来上がった人物像を、業界用語で「デジタルクローン」と言います。つまり、あなたの分身がネット上で出来上がっていくわけです。それは場合によっては人に知られたくない自分だったり、自分も意識していない自分だったりするかもしれないわけです。そんな分身がネット上にいるって、嫌だし怖いですよね。その一方で、デジタルクローンをめぐっては「自分のクローンを作りたい」と思う人が作らせる「AIクローン」と呼ばれるものもあります。AIに自分の考え方をどんどん学ばせて、もう1人の自分をコンピュータ上に作ることです。どんなに優れた経営者でも、瑣末なことまで全部ひとりで判断するわけにはいきませんが、このAIクローンがいれば、小さな判断を任せられます。しかもAIがどんどん学習していきますし、年をとらないので、やがて本人の相談相手になったり、亡くなった後はクローンがあらゆる判断をすることになったりするかもしれません。これを開発しているベンチャー企業は、まだ実用段階に入っていないのに、出資金を40億円も集めているそうです。

潟永:ちなみに、自分のパソコンやスマホに、どれくらいクッキーが付与されているかっていうのは調べることができます。言葉で説明すると難しいので「サードパーティクッキー 確認方法」で検索してみてください。私も調べてみたら、数百の広告主から勝手に1000位の目印つけられていました。これらは自分で消せるんですが、消すと不便になるものもあります。さっき言ったように、再度ログインするときに必要なものもあるかもしれません。しかし、知らないところで勝手に自分の情報収集をされていたら嫌じゃないですか。いまサードパーティクッキーの利用を規制する動きが強まっていて、特にヨーロッパで進んでいます。日本でも個人情報保護法の改正法が来年施行されて、収集されたデータを同意なく第三者に提供することが禁じられるようになります。最近インターネットを閲覧すると、クッキーの取得に同意するか拒否するかを尋ねる表示が出るようにようになったでしょう?それは法律の施行を前に、すでに仕組みを作り始めているんです。勝手に情報を収集しちゃいけません、同意を取りなさいと。

自分でできる基本的な対策は徹底を!

高橋:でもクッキーの意味がわからないと「同意しますか?」と言われると「はい」にしてしまう人もいるかも知れません。

潟永:そう。だから仕組みは分かっておいた方がいいでしょう。一方で、個人情報に対する不安が高まると、より安全だと思われるブラウザにお客さんが動いていく可能性があります。そこで、Appleは独自に規制を強化して、自社ブラウザの「Safari」ではサードパーティクッキーの利用を止めたそうです。Googleのブラウザ「Chrome」も来年中には利用を止める予定で、Googleはサードパーティクッキーに代わる新たな仕組み作りにも着手しています。

潟永:ご存知の通り、日本国内の広告費はデジタルだけが伸び続けていて、今やマスコミ4媒体(新聞・ラジオ・雑誌・テレビ)の合計とほぼ同じ年間2兆3000億円です。サードパーティクッキーは、広告効果を高めるだけではなく、その広告がどれぐらい見られたかを測定するために使ったり、アフェリエイトという、商品購入に誘導するサイトの運営者に報酬を支払う仕組みに使われたりしているので、今後も完全になくなることはないとみられています。しかし、便利さの裏には知らない間にこういうやりとりがされていて、自分のデジタルクローンができているという現実もあるので、少なくともセキュリティソフトをきちんと入れて、怪しいサイト、情報を盗まれるようなサイトにはつながないという基本は徹底しないといけません。

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