以前「muto」で紹介させてもらった旧車バイク専門店「タイムサイクル福岡空港店」で知り合った女性の話である。
元気ハツラツの彼女は昭和時代に製造されたバイクに乗ってそこへやって来た。見るからに懐かしいというか錆や傷はあるしバイクに興味がない人からするとただの古いバイクだ。そんなバイクをボーイッシュでオシャレな服装でパワフルに駆っている雰囲気に僕は只者ではないオーラを感じたのだった。
「どこから来られてるんですか?」と聞くと「古賀市です」と彼女。なんでも古いバイクや車を複数台所有しているらしい。彼女の名前は下登(しもと)みゆきさん。「良かったらおひとつどうぞ」と彼女が僕に手渡してくれたのは少し小ぶりの回転焼饅頭だった。
「え?回転焼?」と僕。さらに話を聞いてみると古賀市の実家を昭和レトロ風に改装して回転焼のお店を開いているという。店名は「回転焼33mimi」。昭和レトロな店舗で回転焼販売だと?なにそれ、楽しそう。後日、彼女の店を訪問しその仕事ぶりと昭和の雰囲気に一気に惚れ込んだ僕は、どんな経緯でみゆきさんが回転焼の店を開くことになったのか、話を聞いてみることにした。
飲食業で働いて来た下登みゆきさん
下登みゆきさんは1973年古賀市生まれ。現在「回転焼33mimi」を営業しているまさにこの場所で生まれたそうだ。
― 今までどんなお仕事をされていたんですか?
みゆきさん 昔の海の中道ホテル(現・ルイガンズ)の洋食レストランや百道浜のマリゾンのカフェバーのサービス部門で25歳くらいまで働いてました。その後結婚して一旦専業主婦になったんですけど、子育てが落ち着いた頃から温泉施設の和食部門で10年くらい働きました。
― それが、どうしてお店を開くことになったんですか?
みゆきさん 50歳を迎える前、今後の自分の人生を考えた時にやり甲斐のある好きなことをして生きていきたいと思うようになったんです。そしていつかはお店を出したいと思っていたので具体的に考え出しました。本当は小料理屋さんをやりたかったんですけどね。
― 元気で明るくて陽気なみゆきさんが小料理屋の女将さんなんて、まさに天職なイメージですね。
みゆきさん そうでしょ?(笑)でもちょうど開業を計画しだした頃、世の中はコロナ禍のど真ん中だったんですよね。あの状況だったので夜の店は難しいなと思うようになって小料理屋は諦めました。それでお昼の店ということで不動産物件も探し始めていたんです。そんな時に時々帰ってくる実家を改めて見直したら、ここはお昼のお店にピッタリやん!!と気づいたんです!!そしてこの実家で何か店をやりたいと強く思うようになり、母に相談して決断しました。
― 確かに、幹線道路沿いでもないし、かといって人気のない場所でもなく車でのアクセスは良いし駐車場もあるし、光もしっかり入って雰囲気も明るいし、僕は初めて来ましたけどとても良い場所ですね。
みゆきさん 母からは、こんな場所で店をしても誰も来ないんじゃないか、と言われたんですけどね(笑)。今ではお陰様でなんとか地元のお客さんや友達たちが集まってくれるようになりました。
― 回転焼を選んだのは、どうしてでしょう?
みゆきさん 自分が好きだっていうのもありますが、回転焼を売っている店って近くにないので、ここで始めたら喜んでくれる人もいるかなと考えました。それに実家の昭和な雰囲気にも合うと思ったんです。
― なるほど、ぴったりです。
「回転焼33mimi」開業
店作りはDIYで始めたそうだ。実家の子供部屋だった場所を店舗に改装。庭には昭和の古道具を集めたようなテーブルや椅子が置かれ、購入した商品をゆっくり食べられるようにした。
みゆきさん まずは、デッキを作ったり古道具や壁や屋根の塗装をしたり庭に日よけ張ったりしました。友達に手伝ってもらって植木を移動して入口を作ったりとか最初の数カ月は現場仕事からスタートしました。回転焼の焼き台が入ってからは約2ヵ月間、試作の日々でしたね。家族や友達に毎日のように嫌というほど食べてもらいました(笑)
2022年8月10日、「回転焼33mimi」がスタートした。店名の“みみ”とは彼女の昔のあだ名だそうだ。
メニューは、まずは回転焼。サクサクというよりモチモチした食感が特徴。黒あん、白あん、カスタード、ポテサラが150円、香薫ちーず、手作りハンバーグ入りが200円。通常の回転焼よりは小ぶりに作ってるというこのサイズがちょうど良いのだ。ついつい数種類注文してしまう。季節によって芋やコーンを使った餡も作っていたこともあったそうだ。
さらにソフトクリームが300円、ちょっとだけソフトクリームを食べたい人向けのミニが100円。ソフトクリームサンデー(チョコ、抹茶、マンゴー、いちご)が各400円。牛乳風味が強めの美味しいソフトが美しい造形で提供される。
ミニソフトクリーム(100円)
これからのシーズン、一番出るのがかき氷。味は、自家製いちご100%、果肉マンゴ、果肉パイン、宇治抹茶あんのせ、珈琲氷ミルクかけがあり各600円。ドリンクには若い人は開けることさえ出来ないかもしれない昔ながらの瓶ラムネ200円もある。
自家製いちご100%/宇治抹茶あんのせ
― 回転焼やかき氷作りへのこだわりは何かありますか?
みゆきさん 自分が安心して美味しいと思って食べられるものだけお出ししてます。あんまりこだわりについて熱く語ることは好きではないんですが、餡子は国産小豆だけを使っている業者さんにお願いしてますし、かき氷のシロップについてもイチゴ味は自分でせっせとつぶして作ってます。だから着色料は使ってません。長年飲食業界にいたので幸いなことに舌だけは敏感に働いてくれてるとに感謝して“自分なりの美味しい”を追求してます。
昭和グッズに囲まれた生活
そして店内には、レコードやラジカセや看板や食器など、どれを見ても懐かしい昭和グッズが周りにたくさんある。僕が伺った時も、家族連れのお客さんがいたのだが高校生くらいの娘さんが「初めてレコードを生で聴きました!!」と喜んでいた。これらはみゆきさんが自分で集めたり実家にあったものもあるが、開業後に友人やお客さんが持ってきてくれるものもあるそうで、どんどん増えていってるという。
― 昭和のバイクは相当ハマっているみたいですね。
みゆきさん 若い時から中型免許(普通自動二輪免許)は持ってたんですが、全然乗っていなかったんです。うちには大きな息子が3人いるんですが、数年前に息子のバイクを借りてちょっと乗ったら久しぶりに楽しくて、昭和の頃に乗ってたバイク魂に火が付きました(笑)
― それでもどうしてあんなに古びたと言ったら叱られるかもしれませんが、昭和時代のレトロなバイクに乗っているんですか?
みゆきさん 人があまり乗ってないものが好きなんでしょうね。HONDAモンキー50やYAMAHAベルーガというスクーター、それに最近買ったのがYAMAHAのYA-6という1960年代のバイクです。車は、HONDAのN360と古いジムニーにのってます。バイクも自動車も小型タイプなので維持費はあまり掛からないのに個性的なところもハマってる点だと思います。
お店だけでなく、バイクも自動車も昭和一色なみゆきさん。その明るく元気なキャラクターがまさに元気が良かった高度成長期の昭和時代のイメージとも重なって、懐かしくもあり元気をもらえるのは同じ昭和生まれだからだろうか。今は昭和レトロブームでもあるので、若いお客さんがそんな雰囲気を楽しんでいるのもどこか微笑ましく思える。
最後に
― 振り返ってみると実家で店を構えたことはどうでした?
みゆきさん ここで仕事することで母に毎日のように会えるようになったし、やっぱりとても良かったと思ってます。母は最初はあまり乗り気ではなかったですが、今では「何か洗い物とか手伝うのある?」と言って時々に店をのぞいてくれます。それなりに日々の生甲斐にはなってると思います。母の友達からは、娘さんが毎日のように来てそばにいてくれるなんて幸せだねと羨ましがられてるところもあるらしいです。そして一番有難いのは家賃が要らないことですかね。その分良いものをお安く提供できるということにもなると思います。
― お母さんに家賃を払いましょう(笑)。やっぱり地元って良いですね。
みゆきさん 生まれた土地なので古い友達も多いし、古いバイクや自動車が好きな友達もたくさん来てくれます。幸いにも裏にも駐車場があるのでとても助かってます。
とにかく明るく元気なみゆきさん。お店やプライベートの活動が活発なだけではなく、息子さんたちの学校のPTAではみんなに推されて会長職もこなしているという。
古賀市在住の知り合いが「みゆきさんは地元の元気女子としても、回転焼屋のオバちゃんとして大人気ですよ」と連絡くれた。実際、目の前で老若男女のお客に接客する姿を見ていたら、こりゃまた来たくなるわ、と思った。開業してまだ4年とは言え長年飲食業界で働いていた経験があるからだろう、お客さんがドドドっと重なっても慌てることなくシャキシャキと捌いているのは流石である。
美味しいのはもちろんだが、“お店は楽しいのが一番”という僕の信条にピッタリ過ぎる「回転焼33mimi」。一度ドライブがてら古賀市まで足を延ばしてみませんか。会えばわかる、食べればわかる、そんな下登みゆきさんのお話でした。
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