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新疆綿だけじゃない!中国の人権問題が脱炭素推進を阻む?

RKBラジオ『櫻井浩二インサイト』で、中国を中心に国際ニュースを分かりやすく解説している元RKB解説委員長・飯田和郎さんによるラジオコラム。11月18日の放送では、米中間の火ダネの一つ「人権問題が地球温暖化を防ぐ取り組みにも影響を与えかねない」という話をお送りした。 飯田和郎元解説委員長(以下、飯田):日本時間の16日、バイデン大統領と習近平主席による米中首脳会談が行われた。バイデン大統領の就任後、2回の電話での協議が行われたが、オンラインとはいえ、初めての会談。注目点はやはり人権問題。バイデン大統領は前任のトランプ氏が人権問題に関心を示さなかったのとは対照的に、人権問題で対中非難を強めてきたという背景もある。

櫻井浩二アナウンサー(以下、櫻井):中国の人権問題といえば、国内のウイグル族やチベット族ら少数民族への弾圧も国際的な摩擦になっている。

飯田:特に中国の北西部・新疆ウイグル自治区には、漢民族=いわゆる一般的中国人とは違う少数民族・ウイグル族が多数住んでいる。このウイグル族をめぐって、欧米諸国は「著しい人権侵害が続いている」と対中非難を繰り返している。たとえば、現地のウイグル族が使ってきた「ウイグル語を学校など公的な場所で使ってはいけない」「ウイグル族を強制収容している。不妊治療を強制している」などの指摘がある。中国当局は「内政干渉だ」と反発し「強制収容所ではなく過激派対策の職業訓練施設だ」と主張しているが、中国から外国へ亡命したウイグル人や支援組織が人権侵害の証言を行うケースもある。

櫻井:新疆ウイグル自治区といえば、綿花の生産が盛ん。「ウイグル族らに強制的に綿花の収穫をさせている」として、海外のブランドが「新疆綿を使わない」とか、逆に中国市民がそのブランドの不買運動をするという騒ぎもあった。

飯田:新疆ウイグル自治区で採れる綿花は世界の総生産量の20%と少なくない。実は、綿花だけでなく、摩擦の対象になっているものがある。ソーラーパネルだ。
櫻井:ソーラーパネルも?

飯田:10月22日に、G7=主要7か国の貿易大臣会合が開かれた。日本もメンバーに入っている。そこでは、国際的なサプライチェーンから、強制労働を排除する仕組みをつくることで一致した。日本ではあまり報じられていないが、採択された英文の共同声明をよく読むと「我々(G7)は、農業・太陽光・衣類の部門を含め、グローバルなサプライチェーンにおいて、あらゆる形態の強制労働の利用を懸念する」とある。名指しこそ避けているものの、新疆ウイグル自治区で疑われる中国当局による人権抑圧を念頭に置いている。
櫻井:わざわざ「太陽光」と書かれていることがポイント?

飯田:アメリカのシンクタンクによると、ウイグル族を中国当局が強制収容したのち「職業訓練」と「再教育」と称して収容施設内外において、無償や低賃金の労働を強いている、と指摘している。太陽光を電力に変える部材に使う多結晶シリコンを製造しているという。世界中の太陽光発電の普及は、値段の安い中国製パネルに支えられてきた。世界のパネル生産に占める中国のシェアは、発電容量で換算すると、実に71%(2019年)。日本も太陽光パネルの輸入額の実に79%=約8割を中国から買っている。世界大手シリコンメーカー5社のうち4社が新疆ウイグル自治区にある。
櫻井:太陽光パネルの生産はそれだけ中国に依存しているということ?

飯田:しかし、アメリカは強制労働の疑いがあるとして、すでに新疆ウイグル自治区の企業が生産した太陽光パネル用のシリコンの禁輸措置を発動している。日本には人権に特化した輸出入管理の法令や規制がないものの、G7貿易担当大臣会合の結果を受けて、経済産業省が11月1日、国内企業の人権問題への対応を支援する部署して「ビジネス・人権政策調整室」を新たに設置した。

石炭火力に代わる再生可能エネルギーの一つが、太陽光。中国の人権問題、米中対立によって脱炭素に向けた動きが停滞、後退しかねない事態になっている。

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