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台湾の住民投票が日本にも大きな影響与える!?

台湾で先週土曜日(12月18日)3年ぶりとなる住民投票が実施された。

東アジア情勢に詳しい飯田和郎・元RKB解説委員長は出演したRKBラジオ『櫻井浩二インサイト』で「日本にも貿易・外交面で影響が大きい」と話した。何を問う選挙で、どう影響するというのだろうか?  

アメリカからの豚肉輸入をめぐる住民投票が安全保障に影響

まずは、この住民投票について説明したい。

台湾では、18歳以上のすべての住民が投票する権利がある。今回の投票では「賛成」「反対」を問う項目は4つあった。いずれも野党・国民党が中心になって住民投票を請求したものだ。

しかし結果は全てが却下され、蔡英文総統の与党・民進党政権が「勝利」する形となった。4つの項目のうちで最も注目されたのが、成長促進剤「ラクトパミン」を使ったアメリカ産豚肉の輸入を問うもの。これをエサに混ぜてブタに食べさせると、赤身が増える効果がある。

ラクトパミンについては多くの国では問題視されていないが、一部の国や地域では禁輸措置を取っている。台湾も、長年にわたり禁輸を続けてきたが、アメリカとの関係を重視する蔡英文政権は今年1月「安全性が確認された」との判断で輸入を解禁したばかりだった。

しかし国民党は「安全性に問題がある」として、ラクトパミン入りのエサで育ったアメリカ産のブタの肉の輸入を制限しようとした。

台湾の人々は、食の安全に関し敏感だと言われる。2011年3月の福島第一原発事故直後から、福島県と周辺の5県で生産された食品の禁輸が今も続いている。

国民党サイドとしては、台湾住民のそんな意識をくみ取って、住民投票に持ち込み、与党・民進党にダメージを与えようともくろんでいた。

もし、住民投票の結果、豚肉の禁輸となれば、アメリカからの安全保障上の協力に障害が生じただろう。中国との関係が緊張するなか、アメリカと台湾の関係後退は避けられなかった。

ほかにも、台湾が望むFTA=自由貿易協定の交渉や9月に申請したTPP=環太平洋経済連携協定の加盟にも悪影響を与えるはずだった。TPPは中国も加盟を表明しており、中国と台湾が争う形になっている。

今週月曜日(12月20日)、台湾の現職外交官と話す機会があった。

今回の住民投票の結果について感想を聞くと「これからも台湾が世界とつながっていくことが示された」と安堵した様子だった。蔡英文総統も、住民投票結果が明らかになった直後に「台湾住民が国際社会に積極的に参加したいことが明確になった」との談話を発表している。

中国の圧力で台湾の国際空間が狭まっている。台湾はやはり、自分たちも「地球の一員」として、国際的な組織や枠組みに入りたいと熱望しているのだろう。

『一つの中国』を原則とする野党・国民党は退潮

私は、アメリカ産豚肉の輸入問題より、今回の住民投票によって、与党・民進党と野党・国民党の政治バランスが今後どうなるかの方に関心が高い。

台湾では2年後の2024年1月に総統選挙が行われる。総統の任期は4年間で2期連続、つまり8年間までは務めることができる。蔡英文氏は現在2期目で、次は立候補できない。

つまり、民進党も国民党もどちらも候補者は新顔になる。台湾もこれから次の総統レースに向けて「政治の季節」に入るが、国民党は総統選に2回続けて敗れ、党勢は低迷している。

住民投票を蔡英文政権に対する不信任投票にしようともくろんだが、投票結果は蔡英文政権が信任される形になってしまった。国民党のダメージは大きい。

その国民党はいまも「台湾と中国本土は『一つの中国』に属する」という原則を堅持している。この国民党の基本政策は、現実と大きく乖離している。台湾住民の大多数は中国との統一を拒んでいるからだ。

かたや、中国はこのところ、台湾への圧力を強めている。台湾住民の反発心が今回の住民投票の投票行動にも表れたと思う。

日本や中国は住民投票をどう見ている?

日本政府は非公式ながら、民進党政権との間で安定した関係を築いている。当然、2年後の総統選挙でも民進党政権の継続を望んでいるだろう。

その意味においても、中間選挙の側面もあった今回の住民投票の結果を、好ましいと受け止めているはずだ。先ほど述べた、福島県など5県の生産品の輸入解禁への弾みになることも望んでいるだろう。

一方、中国は台湾での住民投票という制度そのものに反発している。台湾の住民投票に関する法律は2003年、民進党政権のもとでできた。民進党政権は「住民投票こそ民主・主権を体現するものだ」と主張し「台湾の自決権=台湾のことは台湾住民が決める」ことを実践している。

しかし中国は「台湾は中国の不可分の領土であり、台湾のことは自分たちが決める」という立場だ。どのようなものでも「台湾独立」につながるとして,断固として反対しているのだ。

今回の住民投票や4年に一度の総統選挙のように、そこに住む人が直接、投票で自分の意思を示すことを積み重ねていく。それこそが民主主義だ。

今月、開かれた「民主主義サミット」で、アメリカは「台湾の民主主義の成功」を賞賛したばかり。ただ、日本やアメリカには、今回の住民投票の結果を受けて、台湾独立派が勢いづき、過激な行動に出かねない、という警戒もあるため、引き続き注視しかなければならない。

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