櫻井浩二インサイト

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ウクライナ侵攻・中国のスタンスは?外務省報道官の発言から読み取る

ウクライナ侵攻・中国のスタンスは?外務省報道官の発言から読み取る

ロシア軍がウクライナ東部への攻撃を開始して1週間。国際社会によるロシア包囲網が狭まるなか、ロシアと密接な関係にある中国は、このウクライナ侵攻に対し、どのようなスタンスなのか。RKBラジオ『櫻井浩二インサイト』に出演した、飯田和郎・元RKB解説委員長は、中国外務省の定例会見に注目し「この1週間で中国のスタンスが変わりつつある」とみているという。

 

侵攻直後の会見ではアメリカと西側メディアの批判に終始

中国外務省の会見は通常、月曜から金曜まで毎日午後に開かれる。2月24日の会見は、まさにウクライナ侵攻直後の開催だった。当然ながら、この日のメディアの関心は「ウクライナに武力侵攻したロシアを、中国は支持するのかどうか」という一点だった。これに対し、スポークスマンはそれをかわすように「アメリカ批判」「西側メディア批判」を繰り返した。

会見での一問一答は、中国外務省のホームページに、中国語でアップされている。それを見ながら、スポークスマンの発言をいくつか紹介したい。まず中国中央テレビの質問。

「アメリカ国務省は『中国は国家の主権と領土の保全の原則を尊重すべきであり、ロシアに対し、ウクライナ問題において譲歩するよう促す義務がある』と指摘しているが」

国営メディアなので、これは中国外務省と中央テレビの間で事前にすりあわせた質問だろう。これに報道官はこう答えている。

国家の主権と領土の保全の尊重について、アメリカはそれを言う資格があるのか。わずか20年前、ユーゴスラビアの中国大使館がNATO(北大西洋条約機構)の軍に爆撃され、大使館にいた中国人ジャーナリスト3人が死亡し、多くの者が負傷した。

 

今日、新疆ウイグル、香港、台湾などの問題において、アメリカ、それに「盟友」と称する、その仲間たちが中国の内政に干渉し、中国の主権と安全を損ねている。

アメリカは建国から250年も経たないのに、この間、20年と間を置かず、時には民主、時には人権の名目、時には誤った情報をもとに、外国へ軍事介入してきた。

さらにフランス・AFP通信の質問に、スポークスマンはこう答えている。

アメリカは絶え間なく、緊張を高め、戦争を扇動してきた。アメリカがウクライナにどれだけの武器や弾薬を運び入れたか?知っておくべきだろう。

 

緊張を高め、戦争を扇動しないよう関係各方面を説得してきた。一方のアメリカは背後で火を煽り、火が燃え上がったのち、他の者を非難する。無責任だ。即座に火を消すべきだ。

メディアの関心は「中国とロシアの関係」のはずだが、スポークスマンは「この事態をつくりだしたのはアメリカ」だと言いたいのだろう。

 

ところで、中国はいまだ、今回の事態で「侵略」という表現を使っていない。スポークスマンの批判の矛先は、「侵略」の定義をめぐって外国メディアにも向けられる。

あなた方西側メディアは「侵略」という単語を使うが、アメリカは国連での武力行使容認決議なしに、イラクやアフガニスタンに対して、違法かつ、一方的な軍事行動を取った。罪のない多くの市民を傷つけたが、あなたは「侵略」という言葉を使ったか?それとも他の単語を使ったか?

イギリスのロイター通信の記者がストレートにこう尋ねた。「中国の指導者はプーチン大統領によるウクライナ侵攻を支持するのか、しないのか」と。

私は、このような質問の仕方はとてもいやだ。そして、中国に対する、あなたの見方を明確に露わにしている。先入観、偏見や傲慢、それにレッテル貼りだ。

もはや回答ではなく説教である。質問を繰り返すロイターの記者に報道官はさらにこう続けた。

きょう、あなたはずっと中国に対し絡むようだが、中国は当事者か?違うでしょう。中国にはこんな故事成語がある。『トラの首に鈴をつけた人でないと、その鈴を外せない』。

この故事成語の意味は「ものごとのあと始末をするのは,問題を引き起こした人でなければいけない」。つまりここでも、問題を引き起こした人=アメリカを非難している。中国の最近の強硬な外交姿勢は「戦狼外交」(戦う狼)と表現される。「中国外交の顔」スポークスマンのコメントも、この時はまさに戦う狼だった。

国際社会のロシア包囲網で孤立化をおそれた中国

ただ、2月24日の時点では、中国もウクライナ情勢の流れを読めていなかった。だから、ロシアでも、ウクライナでもなく、アメリカ批判に終始した。しかし、その後の国際社会によるロシア包囲網が強まってくると、調整に入っている。事態はロシアとアメリカの対立ではなく、ロシアと国際社会の対立になってきており、中国自身の孤立化を避けるためだ。

 

昨日(3月2日)までの記者会見を見ると、過激なアメリカ批判、メディア批判は消え、代わりにこんな表現が数回出てきた。

中国とロシアは戦略的パートナーシップの関係にあるが、同盟ではない。

以前と違う“ロシアとの距離”を感じるこのフレーズ。国連安全保障理事会でも、中国は拒否権を行使せず、棄権に回った。

 

中国とロシアは共通の利益のために結びついているだけだ。「他国の主権に干渉すべきではない」と繰り返してきた中国からすれば、軍事侵攻・侵略を続けるロシア、何よりプーチン大統領のやり方はまさに、中国の外交指針と矛盾する。「責任ある大国」を自任する中国には矛盾でしかない。また、先ほど紹介したように、スポークスマンが欧米の有力メディアに、あのような発言を続ければ、それが記事になって世界に向け発信され、中ロが同一視され、その結果、中国の異質さが浮き彫りになる。

 

世界中で、反ロシアを掲げた抗議デモが広がり、ロシア国内でも反プーチンの集会が開かれている。多くの国での抗議活動は、それぞれの国や団体を動かし、それがロシアへの経済的圧力やウクライナへの武器供与につながる。スポーツでの世界では、ロシアでの開催や、ロシアとの対戦を避ける声も出ている。中国はその流れをじっと観察しているのだ。

ロシアに失望すると同時に苦悩する中国

ウクライナ危機は、ロシアとウクライナによる2国間の問題ではなく、「今後の世界秩序再編の可能性」もある問題であり、その認識は中国も同じだ。ただ、「ウクライナに侵攻するつもりはない」と言った舌の根の乾かないうち、ロシアが実行した軍事作戦に失望している。中国の国連大使が「状況は中国が望まないところまで発展している」と述べていることも、ロシアへの失望感の現れではないだろうか。

ひと言で表現すると、中国はロシアを「支持」はしないが「一定の理解」はしている。逆にいうと「一定の理解」はしているが「支持」はしない。戦況が仮にロシアに有利に進んでも、この姿勢をより強めるだろう。中国は「ウクライナ危機に乗じて」、ではなく、今は身を潜める。ある意味そこに中国の苦悩がある。

 

飯田和郎(いいだ・かずお) 1960年生まれ。毎日新聞社で記者生活をスタートし佐賀、福岡両県での勤務を経て外信部へ。北京に計2回7年間、台北に3年間、特派員として駐在した。RKB毎日放送移籍後は報道局長、解説委員長などを歴任した。

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