出光グループの原油タンカー「日章丸」RKB記者同乗取材記~往復2万5000キロのオイルロードをいく!~【前編】

出光グループの原油タンカー「日章丸」RKB記者同乗取材記~往復2万5000キロのオイルロードをいく!~【前編】

出光興産の創業者 出光佐三氏をモデルにしたベストセラー小説「海賊とよばれた男」。映画のハイライトとして描かれるのが、1953年に世界を驚かせた「日章丸事件」です。輸入ルートを封じられるなか、戦勝国イギリスの圧力に屈することなく、秘密裏にイランから日本へと原油を運んだタンカー「日章丸」(当時は二代目)。現在は五代目となる「日章丸」にRKB記者が同乗。往復2万5000キロのオイルロードをいく船上の様子を、2013 年8月末から約1カ月半にわたり取材しました。

「日章丸」とは?

「日章丸」は、全長が東京タワーの高さと同じ333メートル、幅が60メートルもある出光グループの巨大原油タンカーです。積むことができる原油は30万トン。これは、日本国内で消費される量の半日分に相当するそうです。
「日章丸」が中東の産油国から運んできた原油は、シーバースという施設からパイプラインを通して陸上のタンクに積み上げられます。今回停泊するのは、千葉県袖ケ浦市沖約8kmの東京湾にある京葉シーバース。積み上げ作業にかかる日数は2日間。作業が終わると、再び中東の産油国へと向かいます。
1年の3分の2をこのタンカーで過ごすという乗組員。停泊中には、通船で訪れる家族とつかの間の再会を果たす乗組員もいます。家族との楽しいひとときに後ろ髪を引かれつつ、2013年8月30日、「日章丸」は再び中東ペルシャ湾に向けて出港しました。

乗組員の仕事

「日章丸」の乗組員は26人、うち5人が日本人です。全体の8割をフィリピン人の乗組員が占めています。操船する航海士、エンジンを担当する機関士、船の整備や貨物の積み下ろしを担う甲板手など、乗組員の仕事は多岐にわたります。この日は甲板部の乗組員がタンクの部品を交換。タンクの底にはスラッジと呼ばれる油かすが残っているため、有毒ガスが残っていないことを確認し、ゴーグルを着用した万全の体勢でタンク内に入ります。
敗戦直後、出光興産の創業者 出光佐三氏(1885~1981)は、全国の油槽所のタンクからスラッジを集める仕事を請け負ったといいます。理由は、当時いた約1000人の社員を首にしないため。過酷すぎて同業他社がやろうとしなかった作業をあえて引き受けたのです。

東京湾を出てから丸4日、「日章丸」は沖縄沖を航行中。しかし、中東ペルシャ湾のどこで原油を積むのかはまだ決まっていません。原油の積み地は、産油国と日本国内の製油所の事情で変わることも多く、出発時には決まっていないことがほとんどなのだとか。「今回はシンガポールを通過する1週間後くらいに決まるだろう」と松本悦男船長は語ります。

船の「心臓」

「日章丸」には世界に数あるタンカーの中でも稀な特徴があります。それは、船のプロペラが2つある“二重反転プロペラ”です。プロペラを2つ使うことによって、推進力が増すうえに燃費が向上するといいます。ちなみに、日章丸の燃費は燃料の重油1リットルあたり7メートル(プロペラが1回転して進む距離)。1日に約670キロメートルを航行するため、使う重油は毎日100トンにもなります。
船の心臓にあたるディーゼルエンジンは最大出力3万7000馬力。エンジンから生じる熱エネルギーは、海水を飲み水に変える造水設備にも活用されています。取り込まれた海水はヒーターによって蒸留水に。そこに殺菌用の薬品とミネラル成分を入れたものが、飲料水として使われます。
「日章丸」の浄水設備は、海水を利用して1日に40トンの水を作ることができます。1日に使う水は20トン弱。その大半はシャワーやトイレなどに使う雑用水です。飲料水は約1トンで、定期的に水質検査も行われます。船上でつくられた飲料水は、水道水とほとんど変わらない味だとか。
造水設備の導入費用は約500万円で。ランニングコストは殺菌剤やミネラル分の費用を含め、飲料水1リットルあたり0.1円になるそうです。

東京湾から中東・ペルシャ湾へ
乗組員の仕事
船の「心臓」

乗組員の船上での生活

「日章丸」での乗組員の生活はどんなものなのでしょう。
まずは、食事。乗組員26人分の食事をつくるのは、フィリピン人のコック2人です。船上での調理には、ガスではなく電気を使います。この日の昼食は、ちゃんぽん、ニジマスの塩焼き、キュウリのキムチ風、マスカットと、ボリュームたっぷり。夕食には、豚の角煮、舌平目の揚げ物などが食卓に並びます。
食糧庫には、唐辛子、カボチャ、牛乳、豆腐などさまざまな食材のほか、寿司桶なども積まれていました。ひと航海1か月半のため、出発時に船に積まれる食料は、肉・魚600~700キログラム、野菜約200キログラム。野菜、果物、肉などは航海中にも補給されます。
乗組員に好評なメニューは、ラーメンやハンバーグ。10日に一度は、ビールなど決められた量のお酒を楽しむこともできます。

RKB取材クルーの船上での生活

同乗取材をするのは、RKB毎日放送の久間直樹記者と丸本知也カメラマンです。約1か月半の同乗期間、日本人乗組員が使っているのと同じ個室で寝泊まりし、洗濯は船内のランドリールームで各自行います。
部屋は、一般的なビジネスホテルのシングルルームよりも広めでクーラー付。居住棟は地上6階建てのため、船内にはエレベーターも設置されています。
長期間の取材ということもあり、丸本カメラマンは1時間テープ70本を持参。船上での撮影は、波やエンジンの振動で画面が揺れやすいため、振動が直接三脚に伝わらないよう、三脚にお手製のクッションを付けるなど工夫をこらして撮影にあたります。
撮影に伴いカメラ内で生じるわずかな火花が、原油や可燃性ガスに引火して大惨事になるリスクを完全に排除するため、タンカーでのカメラ取材は、基本的に船首と船尾、そして居住棟に限られています。

航海中に出会った海の生きもの

取材中、記者たちは珍しい海の生き物にも出会いました。驚いたのは、重さ約50キログラムもあるエイ。フィリピン人乗組員が甲板から垂らした釣り糸にかかり、約30分の格闘ののち3人がかりで釣り上げたものです。他にも、フィリピンでは「ラプラプ」と呼ばれるハタ科のクエも釣れました。
釣った魚は、フィリピン人のコックがさばいて食卓へ。ココナッツミルクを使った『二ラボグ』と呼ばれるエイの料理と、『キラウィン』と呼ばれるラプラプの料理です。「意外なおいしさ」と好評で、魚を釣ったフィリピン人の甲板手も満足げな笑顔を見せていました。

船の食事
取材クルー
出会った海の生きもの

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RKB毎日放送は、創立70周年を記念して、3月24日から4日間にわたり、TBSテレビと共同で、計25作品のテレビドキュメンタリーを西南学院大学で無料上映します。一部の作品は上映後1週間、オンライン配信〔有料〕で視聴可能です。