田畑竜介Grooooow Up

月~木曜 6:30
ウクライナ侵攻で途切れたモスクワからの報道と「オシント」の重要性

ウクライナ侵攻で途切れたモスクワからの報道と「オシント」の重要性

私たちのもとに届けられる日々のニュースは、世界・日本の各地から発信されているが、最近「あの都市」の特派員からの発信がなくなった。いや、なくなったようにみえる。「あの都市」とはロシアの首都モスクワ。しかし、特派員たちは滞在を続けている。メディアがロシア国内にとどまっていることの重要性について、RKBラジオ『田畑竜介 Grooooow Up』に出演した、飯田和郎・元RKB解説委員長が説明した。

 

リポートはしなくてもモスクワにとどまる特派員たち

ロシアではウクライナ侵攻に反対する報道を実質的に禁止する法律が今年3月成立した。この法律はウクライナへの軍事侵攻について、ロシア当局が「虚偽である」とみなした報道をした場合、記者たちに最高で15年の懲役が科せられるものだ。これを受けて、アメリカやヨーロッパ、日本などの主要メディアは「記者の安全を確保するため」としてロシアでの活動を一時停止した。この「安全」とは、直接の戦闘から身を守ることではなく、当局による身柄拘束などを防ぐ意味だ。

 

だが、これは表向きの一時停止ともいえる。たしかに放送局の記者はモスクワからリポートをしていないし、新聞・通信社の記者は自分の名前入り(署名入り)で記事を発信していない。しかし、日本のメディアのモスクワ特派員は、今もモスクワにいる。

 

4月6日の毎日新聞朝刊に、ウクライナ侵攻に関して「日本の報道機関の役割」というインタビュー記事が掲載されていた。答えていたのは、マスコミ出身で旧ソ連や東欧の情勢に詳しい東洋英和女学院大学の町田幸彦教授だ。町田教授はこう話している。

「日本を含む外国メディアがロシア国内にとどまっていることが大切だ」

私も同感だ。モスクワに常駐しているからこそ、ロシア官製メディアの報道の異質さを感じることができる。プーチン大統領が狂気の行動を取るこの国の空気や匂いを共有できる。さらにはロシアの人々の本当の気持ちを知ることができる。それらの肌感覚を、自分の所属するメディア総体の報道に役立てることができるはずだ。

 

つまり、自分自身はロシア国内からリポートはできずとも、また、署名記事を発信することができなくても、それらの情報をモスクワから提供すれば、ロシア国外にいる同僚のリポートや書いた記事の厚みを増すことができる。町田教授の言葉の意味はそういうことだろう。いま、モスクワにいる記者たちはそんな“側面サポート”を続けている。

情報戦でメディアに求められる「オシント」とは

これも日本メディアに限らないが、ウクライナ侵攻でのメディアの役割がもう一つある。今回のウクライナ侵略に関する報道で特徴的なのが、情報戦でメディアが真偽をどう見分けるかだ。

 

権力者は時としてウソをつく。権威主義国家では特にそのようなケースが目立つ。公開されている情報を丹念に分析するオープンソース・インテリジェンス=オシントが極めて重要になっている。

 

例えばウクライナの首都キーウ(キエフ)近郊のブチャで、民間人の多くの遺体が見つかり、国際社会からの非難の声が上がっている。これに対し、ロシア国防省は「ロシア軍の部隊は3月30日までにブチャから完全撤退した」また「ロシア軍が支配していた時期は、暴力行為による地元住民の被害は一件もない」と主張し、ブチャで撮影された動画、遺体写真は、「自国軍の撤退後に置かれたものであり、デマ」と反論した。

 

しかし、米ニューヨーク・タイムズは、米宇宙開発企業が提供した衛星画像を比較し、それを根拠として「映像を撮影した3月18、19日にはすでに遺体とみられるものが映り込んでいる」「遺体のうち少なくとも11人は、ロシア軍の支配時から同じ場所に放置され続けていた」と結論づけた。ロシアのウソをデータで見破った。ロシアの主張こそフェークだったわけだ。

 

隠されている事実を暴くだけではなく、公開されている情報を精査して真相を明らかにしてゆく。オシントの作業も記者の重要な仕事になってきた。

記者がニュースの現場にいることの大切さ

町田教授のインタビューに戻りたい。「記者がニュースの現場にいることの大切さ」について町田教授はこうも言う。

「今は発信が難しくても、取材をしておいて時間が経ってから発信することも考えておくべきだ。現場で見たり聞いたりすることが根本であり、継続することが報道機関の信頼を生む素地なのだから」

コロナ禍が続き、感染を防ぐためにも、遠隔地からインターネットを使ったオンラインの取材が可能になってきた。便利になり、これはこれで重要な取材方法だ。ただ、「ニュースの現場にいる」という従来からの基本も大切にしたい。

 

これはなにもウクライナ、ロシアでの現地取材に限らない。私たちの身近な取材でも実践していきたい。

 

 

飯田和郎(いいだ・かずお) 1960年生まれ。毎日新聞社で記者生活をスタートし佐賀、福岡両県での勤務を経て外信部へ。北京に計2回7年間、台北に3年間、特派員として駐在した。RKB毎日放送移籍後は報道局長、解説委員長などを歴任した。

金曜ドラマ『石子と羽男―そんなコトで訴えます?―』

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