初めて「空想」を目にしたその日から、私は魅力にとりつかれている。銀色のスーツ、巨大な怪獣、奇想天外な科学……。半世紀前の作り手の本気に胸を打たれた。それは、日本が世界に誇る文化「特撮」のらん熟期であった。
私が企画・脚本・演出を務めた昭和特撮風ヒーロー活劇『空想労働シリーズサラリーマン』が、動画投稿サイト「ユーチューブ」で配信中。あくまで特撮「風」。画のない音声ドラマだからだ。
キーワードは「空想と想像」。特撮とは、空想の事柄を形にする作品ジャンルである。そして音声メディアは、音のみで聞き手の想像をかき立てる特性を持つ。ならば、音声の力で想像を喚起し、どんな空想も聞き手の中で形にしてもらえると思った。
巨大ヒーローの世界をありありと描きながら、日々の音に耳を澄ませた。ドライヤーの音を光線音に、ペットボトルの音をビル破壊音に、ストローの音を巨大生物のうなり声に……。日常のありふれた音が空想の世界を創造していく。特撮への愛が深まるとともに、音声メディアの可能性を感じた瞬間でもあった。古来より人間は夜空に浮かぶ星を眺め、神々や怪物の姿を想像してきた。私たちは「音」という星々をつなぎながら空想を形にしている、と言うとかっこつけすぎだろうか。
10月21日(土)毎日新聞掲載
この記事はいかがでしたか?
リアクションで支援しよう