「改善への出口が見えない」と言われてきた日中関係に、少し違った局面が見え隠れしています。東アジア情勢に詳しい、元RKB解説委員長で福岡女子大学副理事長の飯田和郎さんが、9月28日放送のRKBラジオ『田畑竜介 Grooooow Up』に出演し、日本と中国の関係の現在地について分析しました。
民間交流もストップする中での「古い友人」の訪中
昨年11月、高市総理がいわゆる台湾有事を巡る国会答弁を行って以降、日本と中国の関係は悪化し、修復のきざしが見えないとされてきました。中国は日本との政府間交流だけではなく、民間交流まで一斉にストップしています。
そんな中、ちょっと違った局面も出てきました。前の外相である岩屋毅衆院議員が9月末に北京を訪れ、中国の要人2人と会談したのです。その2人とは、王毅外相と何立峰副首相です。岩屋前外相は、日本国際貿易促進協会(略して国貿促)の会長として代表団を率いて訪中しました。
国貿促は日中が国交正常化する16年も前から中国との経済交流を図ってきた、日中間における民間の友好団体の一つです。岩屋氏の前の国貿促会長は、今年6月に亡くなった河野洋平元衆院議長でした。中国がよく使う表現で言うと、国貿促も岩屋氏も「古い友人」というわけです。「古い友人」という言葉の意味するところは、「付き合いが長い」というだけでなく、「中国を理解し、中国との関係を重視してきた」ということを指します。
岩屋氏は高市内閣の前の石破茂内閣で外相を務めており、王毅氏とは外相同士でカウンターパートの関係にありました。岩屋氏も日中関係を重視してきたこともあり、国貿促の会長に選出されました。一方の何立峰副首相は経済政策を担当しています。
王毅、何立峰両氏は中国共産党のトップ20人あまりで構成される政治局委員の1人でもあります。9月下旬に習近平主席がワシントンを訪れてトランプ大統領と会談しましたが、この2人は米中首脳会談に同席していました。
「撤回」から「是正」「克服」への表現変化
中国政治の重要人物2人が岩屋毅氏と会いましたが、日本のメディアは、中国の要人2人が岩屋氏に発した言葉の言い回しに注目しています。
王毅外相は岩屋氏を相手に、日本にこうクギを刺しました。
「いま、急務なのは、台湾問題における指導者の誤った言動を早急に正すことだ」
そして、経済担当の何立峰副首相は、岩屋氏にこう言いました。
「誤った言動を克服し、日中両国の経済・貿易関係の発展を推進できると確信している」
中国側が問題視した「誤った言動」とは、高市総理が台湾有事は「日本の存立危機事態になり得る」と言及したことを指します。中国外務省はこの高市発言に対し、これまで「撤回せよ」と繰り返してきました。
それが今回、王毅外相は「誤った発言を早急に正す」、つまり「是正」を要求し、何立峰副首相は「誤った発言を克服せよ」と言ったのです。「撤回せよ」から、それぞれ「是正せよ」「克服せよ」に表現が変わりました。
中国の政治手法には、トラブルが生じている相手とは別の「比較的会いやすい人」「会っても差し支えない人」に対し、目の前の人ではなくトラブルを抱える相手に向けてメッセージを送るというケースがよく見られます。
中国をウオッチする人たちは、今回も「同じ手法ではないか」と推測しています。この場合、「比較的会いやすい相手」が「古い友人」である岩屋氏であり、「トラブルを抱える相手」とは高市総理が当てはまるのでしょう。
岩屋氏本人は「総じて厳しい立場に変わりはない」
では、日中関係はよい方向に向かいそうなのでしょうか。結論から言えば、これを「関係改善に向けた中国側からのシグナル」と前向きに評価するのは、時期尚早な気がします。
当の岩屋氏は中国から帰国後の10月2日、地元の大分県別府市で記者会見を開きました。OBS大分放送のニュースサイトの引用になりますが、中国要人2人が自身との会談に応じたことについて、岩屋氏はこう語っています。
「政治局員の2人が会っていただいたこと自体、対話が途絶えていた状況からすれば『一歩前進』と言えるのではないか」
そして、台湾有事に関する高市発言について、中国側の従来の表現である「撤回せよ」から「是正せよ」「克服せよ」に言い回しが変わったことを問われ、このように答えました。 「中国側がどういう意図で言葉を選んだか判断する根拠はない。総じて厳しい立場に変わりはなかった」
要人2人に会った岩屋氏本人が慎重な姿勢を示している通り、「中国側の態度に変化の兆しがある」とは評価できません。今、中国が日本に態度を軟化させる必要があるのか、また、自ら振り上げた拳を自分の方から下ろすかと考えた時、私は「いずれもない」と思います。
先日の習近平主席の訪米での米中首脳会談を通じ、中国側としてはひとまず対米関係安定を維持できました。トランプ大統領からは、中国は「第二次大戦の同盟国だった」という、中国と歴史認識を一にする発言も得ています。一方の高市総理は、台湾有事発言の軌道修正を図るような動きは表面的に見えてきません。
表現変化の裏にある「アメリカへのメッセージ」
それでは、中国要人2人が用いた表現の微妙な変化は何を意味するのでしょうか。そのヒントは、10月2日に日本の各メディアが報じた以下のニュースにあるのではないかと考えています。
「アメリカのトランプ大統領が9月24日、中国の習近平主席と会談した際、『中国は日本と対話すべきだ』との考えを伝えていたことがわかりました。日本政府関係者が明らかにしました」
岩屋毅氏が中国の要人2人と会ったのは、このトランプ大統領と習主席の会談の直後です。中国要人2人が台湾有事に関する高市発言について、従来の「撤回せよ」をとりあえず引っ込めたのは、中国からアメリカへのメッセージだったのかもしれません。つまり、「トランプ大統領の提言はきちんと聞いていますよ」「トランプさんの顔を立てていますよ」ということです。
日本側の反応を探る意図もあるようですが、いずれにせよ日中間にはさまざまな摩擦があり、今後大きくなりそうな問題すらあります。日中関係改善への道筋は、まだ見えてこないのが現状です。
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この記事を書いたひと

飯田和郎
1960年生まれ。毎日新聞社で記者生活をスタートし佐賀、福岡両県での勤務を経て外信部へ。北京に計2回7年間、台北に3年間、特派員として駐在した。RKB毎日放送移籍後は報道局長、解説委員長などを歴任した。2025年4月から福岡女子大学副理事長を務める。





















