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消えた外交官…中国を覆う「刺される」恐怖をウォッチャーが解説

飯田和郎

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10月29日までの4日間、中国共産党の重要会議である「中国共産党第20期中央委員会第5回全体会議」が北京で開かれました。この会議で採択された決定事項から、現在の中国を覆う恐怖と、指導層の権力構造の変化が見えてきます。東アジア情勢に詳しい、元RKB解説委員長で福岡女子大学副理事長の飯田和郎さんが、11月2日放送のRKBラジオ『田畑竜介 Grooooow Up』に出演し、この問題について解説しました。

「党内ガバナンス」の名の下に進む権力集中

今回の重要会議では、「全面的で厳格な党内ガバナンスを、粘り強く推進するうえでの重要問題を巡る決定」という、いかめしい名前の採択が行なわれました。

会議のコミュニケは「中華民族の偉大な復興を実現するという戦略的な高みから、全面的な党内ガバナンスの重大な意義を深く認識しなければならない」と説明しています。

少しわかりにくい表現ですが、ここで指摘された「党内ガバナンス」とは、腐敗撲滅や党内の引き締めを指します。要は「汚職の根絶や執政能力(政治や政務を執り行う能力)をさらに高めることを最優先に取り組む。そしてその姿勢を国民に明確に示す」ということでしょう。現在の習近平指導部への権力集中、そして政権基盤のさらなる強化を図ったといえます。

今回の中央委員会総会を終えても、習近平氏の後継者を想定した抜てき人事や、次世代リーダーが現れることはなかったというのがメディアの共通した解説です。習近平総書記への権力集中はより強固になりました。ある意味、今回の総会は、来年開催される共産党大会での習近平氏の4期目続投に向けた“地ならし”になったとも言えるでしょう。そして、習近平氏自身の権力維持を阻む要因を徹底的に排除したのが、次の事実です。

今回の中央委員会総会では、中央委員会メンバー33人の党籍はく奪処分を承認、または追認しました。2022年の現体制発足時には376人のメンバーがいましたが、今回の会議に出席したのは279人。なんと、4年間で100人近い幹部が姿を消したことになります。

中央委員会は、共産党全体、そして国家の指導にあたる最高指導機関です。そのトップにいる習近平氏は、メンバーを自ら選んでおきながら、わずか4年間で四分の一以上の委員の共産党籍をはく奪し、政治生命を完全に奪ったことになります。そのような政治が、我々の隣国で行われているのです。

「消えた」エリート外交官・劉建超氏

劉建超氏による岸田首相表敬(2024年)外務省ホームページより

今回、共産党の党籍をはく奪された33人の中に、共産党の中央対外連絡部長だった劉建超氏がいます。私を含め、北京に駐在した日本人特派員の多くと交流のあった人物です。「党籍はく奪」の知らせを聞いて、私もいろいろな思いが心中を巡りました。

劉建超氏は中国外務省で外交官の道を歩んできました。2001年から2009年まで、外務省の報道局副局長、そして報道局長としてスポークスマンを務めました。テレビニュースで映像がよく流れていたので、ご存知の方も多いでしょう。中国外務省の定例記者会見で国内外のメディアからの質問に答えるスポークスマンであり、首脳会談などにも同席していました。当時はまだ40代で、中国外務省でも若くして抜てきされていました。

2010年代後半以降の習近平時代になると、中国の外交官による攻撃的な外交姿勢、いわゆる「戦狼(せんろう)外交」が見られるようになりました。とりわけ中国外務省のスポークスマンの過激な発言が象徴的です。しかし、劉建超氏がスポークスマンを務めたころは、厳しい口調や内容はあっても、相手の国や国家元首を愚弄することはありませんでした。公の記者会見以外の場でも、誠実な人柄が伝わってくることが多かったです。

理由も告げられず姿を消す恐怖

劉氏はフィリピンやインドネシアで全権大使を歴任した後、2022年に共産党の中央対外連絡部長に抜てきされました。中央対外連絡部とは、共産党の党外交、つまり外国の政党や政治組織との交流窓口を担う組織です。日本で例えれば、中国共産党と自民党といった党同士の交流です。トップである部長は大臣クラスの要職であり、やがては外務省に戻り外相になる逸材とも言われていました。

エリートの道を順調に歩んでいた劉建超氏ですが、昨年8月、アメリカの日刊紙ウォール・ストリート・ジャーナルが「当局により拘束され、尋問を受けている」と報じました。確かに、ほどなくして別の人物が彼の中央対外連絡部長のポストに就いていました。

彼が何をして党籍をはく奪されたのか、中国当局は明らかにしていません。間違いないのは、身柄の自由を奪われ、厳しい尋問を受けているということだけです。

同じ中国外交官ではこんなケースもありました。福岡の中国総領事だった外交官が2020年2月に格上の大阪の総領事に転出したのですが、わずか9カ月後に中国本国に呼び戻され、もう6年余り消息不明になっています。何らかの容疑に問われ、中国当局に身柄を拘束されたと専らウワサされていますが、私の知る中国の外交官も、その元総領事の話には絶対に触れません。私のスマホには、今も彼の携帯番号が残ったままです。

個人が犯した不正なのか、政争に巻き込まれたのか。問題は、中国当局が一切説明をしないことです。私自身、付き合ってきた外交官が次々と、理由も明確でないまま「消えていく」ことにはとても複雑な思いがあります。最高指導機関のメンバーである中央委員であれ、総領事経験のある外交官であれ、役職の上下にかかわらず、いつ摘発されるかわからない。今の中国は、そんな恐怖に支配されているのでしょう。

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この記事を書いたひと

飯田和郎

1960年生まれ。毎日新聞社で記者生活をスタートし佐賀、福岡両県での勤務を経て外信部へ。北京に計2回7年間、台北に3年間、特派員として駐在した。RKB毎日放送移籍後は報道局長、解説委員長などを歴任した。2025年4月から福岡女子大学副理事長を務める。