フリーハグが巻き起こす“化学反応” ウクライナで見た「空気が一瞬で変わる場所」

戦争が長期化するウクライナに2か月間滞在し、抱擁を交わす「フリーハグ」を行った日本人の男性がいます。「戦う勇気もなければ、支援する経済的余裕もない。でも知っている―、ウクライナの人が大変なことを」こうメッセージを掲げた男性に、現地の多くの人が共感し、ハグの動画がSNSで拡散しました。そんな男性が活動の中で気づいたのは、夕方になると市庁舎で決まって訪れる「その場の空気がまったく変わってしまう」瞬間でした―。

「変わったことをしよう」ウクライナで活動

ウクライナの首都キーウで現地の人たちと次々とハグ=抱擁を交わすのは、桑原功一さん(38)です。今月、帰国して今は福岡県に滞在しています。桑原さんはこの10年間、反日集会が起きていた韓国など世界各国で偏見をなくそうとフリーハグという活動を行ってきました。

桑原功一さん「デモ参加者が私をハグしてくれたら多くの人の偏見を崩すきっかけになると思ったんです。ウクライナから避難してきた人から『忘れ去られるのが一番きついことだ』と聞きました。自分にできるのは、現地で何か変わったことをすることだと考えました」

今年9月に渡航。ウクライナの各地でフリーハグを行いました。その際、ウクライナ語で書かれた次のメッセージを掲げました。
メッセージ:
私は前線に行って戦う勇気はありません。私はウクライナ人たちを支える経済的な余裕もありません。でも私は知っています。ウクライナの人々が今大変な時を過ごしていることを。だから私は日本からウクライナに来ました。あなたをハグしてこのメッセージを伝えるためにあなたと共にいます。あなたのそばにいます」

「何のためにハグ?」本人も半信半疑・・・しかしSNSで拡散

現在、日本政府はウクライナ全土に退避勧告を出しています。「飛行機代を支援金として送った方が良いのではないか?」「現地の人に冷ややかな目で見られるのではないか?」と悩みながらの活動でした。しかし、ハグをする人は予想以上に次々と現れます。

桑原さん「ハグで何ができるのかと最初は半信半疑でしたが、実際にやってみたらすごい喜んでくれたんですよ。写真や動画を撮られてウクライナ中に拡散されて、ウクライナ中から感謝のメッセージが届きました」


ただ、戦争中だという現実を痛感させられる場面にも遭遇しました。前線から離れ日常の光景が広がっているように見えた西部の街リビウを訪れた時のことです。桑原さんは当時、ライブ配信で「果たして何を待っているのだろうな。仕事終わりのバス待ちかな」と語っていました。しかし、目の前の“市庁舎前に集まる人たち”は、バスを待っていたのではなく、戦死した兵士を乗せた車列を見送っていたのです。

桑原さん「戦争で人が亡くなっているのは数字では理解していましたが、現実に人々の人生に影響しているというか、まだ戦争が終わっていないと実感しました。その瞬間だけまったく雰囲気、空気が変わっていました」

ハグは数千回に、現地テレビ局も取材

桑原さんの活動は、ウクライナのテレビやSNSで紹介され現地の人にも知られるようになりました。招きを受けて向かったのは、ロシア国境まで30キロの東部の街・ハルキウです。激戦の跡が生々しく残っていました。ここで出会った家族が、攻撃を受けて住むことができなくなった自宅を案内してくれました。『こんなひどい状態になってしまった』家族は桑原さんを通じて、現状をより多くの人に訴えようとしたのです。

桑原さん「政府も軍事支援がメインなので、住居が失われてしまった人たちの支援がまったくないようです。自分の無力感をすごく感じました。その中でもフリーハグを続けてきたので、頑張って何か良い化学反応が起きるのを待つしかありません」


当初1週間の予定だった滞在期間は2か月に延び、ハグの回数は数千回に及びました。ウクライナは今、厳しい冬を迎え首都キーウでも夏には見られる外国人の姿が少なくなっているそうです。ウクライナの人たちは、国際的な関心が薄れていくのを一番恐れているということで、桑原さんは今後もSNSなどで発信し続けることにしています。

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