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パリの街角にありそうなビストロでフランスの家庭料理を

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若い頃初めて訪れたパリのビストロは、随分とイメージが違っていた。てっきりヒラヒラのエプロンを着けた可愛いパリジェンヌが給仕をしてくれるのかと思いきや、狭い店内を忙しなく動き回っているのはネズミ色のシャツにサロンを巻いたチョビ髭のオジさんだし、黒板に書き殴られたフランス語のメニューは判読不能。なんとかガイドブックを頼りに"Menu du jour"(本日の定食)を注文すると、出てきたのは牛肉のステーキに大量のフライドポテトが添えられた一皿だった。後になってこれがフランスの国民食と呼ばれる「ステークフリット」だと知るのだが、とにもかくにも食事にありつけたのにはホッとしたものだ。当時の通貨はまだフランで円高でもあり、これにデセールまで付いて、安ワインを追加しても1,500円程度で食べられたのは貧乏旅行者にはありがたい限りだった。そんな懐かしい思い出の味を久しぶりに食べたくなり、向かった先が旦過市場のすぐ近くにあるビストロ「L'ami」である。

Lami_外観 Lami_扉

オーナーシェフの出島麻樹子さんは旦過市場のすぐ近くで生まれ育ち、小倉のレストラン勤務を経て渡仏し、各地の郷土料理や家庭料理を勉強。帰国後は、当時西中洲に店を構えていた福山剛氏(現Gohシェフ)に師事して経験を積み、小倉に戻って2014年に福山氏の愛弟子の中でもっとも早く独立開業を果たした。2021年にはさらに市場に近い現在地に移転し、昼はカスクルート(サンドイッチ)の専門店、夜は本場の家庭料理をアラカルトで提供している。

Lami_メニュー

黒板に手書きされたメニューは「フランス人が普段食べているようなシンプルな料理です」といい、定番と季節の食材を使った料理がおよそ半分半分。毎日使う生鮮食品はすぐ隣の旦過市場で賄い、日本で入手困難な食材はヨーロッパから航空便で取り寄せている。

Lami_料理1

この日は、アペリティフにシャンパーニュとオレンジのカクテル「ミモザ」を頼んだ後、定番の冷菜から「ポワローヴィネーグル」を注文。「ポロねぎ」とも呼ばれる西洋ネギを茹でて冷やした上から"ソースフランセーズ"(いわゆるフレンチドレッシング)をかけただけの素朴な家庭料理だが、冷えたシャンパンカクテルにぴったりの一皿だ。ソースは日本人の感覚ではかなり酸っぱいが、本場の味をそのまま提供しているのがいい。

Lami_料理2

2皿目は、季節の食材を使った「桜海老と新玉ネギのクラフティサレ」。キッシュに似た料理だがパイ生地を使わないため、ふんわりと柔らかい焼き上がりで、どちらかというとスフレに近い食感だ。今が旬の桜海老と新玉ネギの組合せもよく合い、白ワインとともにペロリといけてしまう。

Lami_料理3

そして、いよいよ今回のお目当てである「ステークフリット」の登場だ(写真はハーフサイズ)。フランスではハラミやサガリといった比較的安価な部位が使われることが多いが、さすがにそこはジャパン・クオリティ。鹿児島産黒毛和牛の希少部位クリミをじっくりローストして、絶妙な火入れ加減の仕上がりに。ソースはかけずに、岩塩と黒誤称、ディジョンマスタードで食べるのがビストロスタイルだ。
「ポンフリット」(フライドポテト)も、ただのつけ合わせと侮ってはいけない。外はカリッと中はホクホクとした食感に仕上げるために、茹でてデンプンを落としたジャガイモを低温で揚げて冷凍庫で保存し、注文が入ってからさらに2度揚げするというから恐れ入る。「旦過市場で買った普通のジャガイモですが、手をかければ美味しく食べられます」と出島さん。洋の東西や国柄を問わず、食べる人を思って手間ひまを惜しまないことが家庭料理の極意といえるだろう。

Lami_ショーケース

ランチタイムはフレンチスタイルのサンドイッチ「カスクルート」のみの提供で、イートインでもテイクアウトでもOK。ショーケースにズラリと並んだ20種類以上の「トレトゥール」(フレンチ惣菜)から2種を選んでパンに挟み、好きな組合せをオーダーすることができる。

Lami_店内

円安、原油高、物価高騰のトリプルパンチで、フランスへの渡航費用が爆上がりしている昨今。博多からわずか数十分と数千円で、パリの街角の雰囲気を味わうことができるなら、これほどお手軽なショートトリップもないだろう。

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