田畑竜介Grooooow Up

月~木曜 6:30
中国「統一大学入試」で見えてくる政治・経済・社会のいま

中国「統一大学入試」で見えてくる政治・経済・社会のいま

中国で6月6日・7日、全国統一大学入学試験が全国一斉に行われた。東アジア情勢に詳しい、飯田和郎・元RKB解説委員長は、コロナ禍のなかで実施された今年の統一入試から、今の中国が置かれている政治、経済、社会などが見えてくるという。RKBラジオ『田畑竜介 Grooooow Up』の中で、以下のように解説した。

 

新型コロナが大学入試の日程にも影響

日本と違って、中国の学校は9月に新年度が始まる。それを前に統一入試が実施された。日本の大学入学共通テストに似たシステムだが、異なる部分もある。

 

今年の受験者数は、過去最高の1,193万人。昨年に比べて約10%=115万人増えた。世界最多人口の国だけにスケールも大きい。試験会場の教室数が全国で33万。ただし、これは新型コロナウイルス感染予防のため、受験生の座席を2メートル以上離したケースが多く、そのために試験会場が増えたという側面もあるようだ。

 

コロナ禍の影響が色濃く出ていることでいえば、ロックダウンが解けたばかりの上海に限っては、統一入試の実施が1か月延期され、7月に行われる。

考えが多様化する一方で国家は受験を重要視

韓国もそうだが、中国も過酷な競争社会だ。国家が特に力を注ぐ重点大学、名門大学がある。例えば、北京の北京大学や精華大学、上海の復旦大学。多くの受験生が超一流大学を目指す。

 

ただ、中国社会も多様化が進み、受験生本人、またその親も「生き方」について、さまざまな考え方が広がっている。だから、中国の統一入試を伝えるニュースで、よく使わる枕詞「『どの大学に入学できるか』で人生が決まる」という表現には違和感がある。

 

さて、今年の統一入試だが、中国メディアは「中国共産党の第20回党大会の前にして、統一入試はもっとも重要なイベント」という表現をしていた。党大会は5年ぶりに今年秋、開催される。国家を挙げて成功させなくてはいけない。一方、6月の統一入試も全国規模で実施され、関心も高い。大学は、将来の中国の引っ張る人材を育成する。その人材を選考する統一入試。だからこそ重要視され、失敗は許されない。

 

中国での報道からいくつか紹介したい。首都・北京では「『食(=食べる)・住(=寝泊り、滞在場所)・受験(=試験を受ける)』一体化」(中国メディアの表現)が採用されたケースがあった。つまり、封鎖された地域の受験生は、そこから動くことなく試験を受けた。同じく北京では、接触を防ぐため車両600台を投入し、受験生一人一人を家から会場へ送り迎えしたという。

 

香港に近い広東省の深圳(セン)では、隔離用のホテルを貸し切ったり、医療施設を試験会場にしたりした。コロナ禍だからではないが、南部の広西チワン族自治区では、試験会場周辺の道路で、車の速度制限、クラクション禁止を命じた。また湖北省では、受験生が朝の交通ラッシュに巻き込まれて試験に遅刻しないように、行政が命じて地域の企業に対し、従業員の出勤時間を遅らせる措置を取らせた。まさに国を挙げてのイベントだ。中国だからできる、という感じがする。

 

教師たちも「自分の教え子に、夢をかなえさせたい」と必死だ。これも中国メディアの報道からだが、上海に近い浙江省のある高校では、3年生の担任が毎朝6時半に出勤し、クラスで生徒を指導。学校をあとにするのは夜の10時だという。日本では教師の拘束時間の長さ、過剰負担が問題になっているが、中国の場合は上をいく。

カンニングに徹底した対策を講じる中国

ところで、日本では1月に行われた大学入学共通テストで、受験生がスマホを使い、外部から答えを教えてもらう不正行為があり、大騒ぎになった。中国でもあの手この手の不正行為があり、教育省(日本の文科省に相当)が統一入試を前に、こんな通達を出している。

・入試を悪徳ビジネスにした不法分子は、受験者に『正しい答えを提供する』と試験会場で小型無線器を使う方法を教え、お金を取ろうとしている。

 

・『これが極秘で入手した試験問題だ』という謳い文句で、インターネットなどでデタラメの宣伝をし、料金前払いで騙す例もある。

 

・過去において、ある受験生が多額の報酬を出して、替え玉受験を別人へ依頼したことが発覚。「重大な犯罪。この受験生は自分の将来を台なしにした」とのケースを紹介。

教育省はさらに、カンニングなど不正行為通報用の専用電話を設置した。「公平公正を維持するため」と説明している。やはり、中国は徹底している。

「いい大学は出たけれど…」就職難が深刻化

もちろん「大学に入れたから、将来が約束される」というわけではない。中国でも就職難(=大学生が望む職業と、企業からの求人のアンバランス)が深刻化しつつある。高学歴化が進む一方、企業サイドの求人は減る傾向にある。

 

たとえば、不動産業。都市部のマンションは投機の対象で、昨年までは不動産価格も高騰し、過熱が続いていた。それが一部の大手ディベロッパーが信用不安に陥ったことで、政府は不動産価格抑制のために、厳しい統制に入った。そのため、不動産市場は冷え込んだ。当然、ディベロッパーは採用を控え、学生からも人気の就職先ではなくなった。

 

なにより、習近平政権は「ゼロコロナ政策」を継続していることで、中国経済全体の成長が鈍り、就職環境そのものが悪い。一方で、中国では長く続いた「一人っ子政策」で、人口年齢構成がいびつだ。これまで社会インフラを支えてきた人たちが年齢を重ねるとともに、一斉に一線を退き始めた。大学を出た高学歴の人たちは、労働条件の厳しい職種には就きたくない――。そんなアンバランスが今後、さらに顕著になっていく。

国内での大学進学より留学を選択する学生たち

実際、「それなら、過酷な受験競争を勝ち抜いても意味がない」といった風潮も出てきた。たとえば、4年間の大学生活のあとに、大学院の修士課程、さらに博士課程に進む人数が増えている。今の就職難というタイミングをずらそうという考えもあるのだろう。

 

もう一つ、統一入試を受けずに、海外の大学へ進もうとするパターンもある。その中には当然、日本の大学、さらには日本の大学院へ進むという選択肢も含まれている。私は毎週、福岡市内の大学の大学院で、中国からの留学生たちと接する機会がある。彼らに話を聞くと「中国国内での厳しい受験を避け、福岡へ来た」とはっきり言う留学生もいる。その多くは、卒業後、日本での就職を望んでいる。

 

コロナ禍が一段落してくれば、海外との往来、さらにコロナで減っていた外国人留学生の来日も戻ってくるだろう。大学側も海外からの留学生は、さまざまな意味で歓迎できる存在だ。中国での厳しい受験競争、そして就職難、ひいては中国の受験生やその親の考え方の多様化は、九州の大学、大学院にも影響が及んでくるだろう。

 

 

飯田和郎(いいだ・かずお) 1960年生まれ。毎日新聞社で記者生活をスタートし佐賀、福岡両県での勤務を経て外信部へ。北京に計2回7年間、台北に3年間、特派員として駐在した。RKB毎日放送移籍後は報道局長、解説委員長などを歴任した。

 

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2022.11.24
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