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中国共産党大会“105歳の最長老元幹部出席”が意味するものは?

北京の人民大会堂でいま、中国共産党大会が開かれている。習近平氏が党の総書記3期目に入るのは確実で、ほかにどんな人物が最高指導部に入るかの方に関心が移っている。そんな中、東アジア情勢に詳しい、飯田和郎・元RKB解説委員長は、中国共産党の長老、つまり引退した高級幹部に注目をしているという。その理由をRKBラジオ『田畑竜介 Grooooow Up』で語った。  

1年前に話題となったあの人物も出席

上海で中国共産党の第1回大会が開かれたのは1921年で、今回が20回目にあたる。注目は、会議のあとに判明する最高指導部の顔ぶれだ。習近平氏が党の総書記3期目に入るのは確実なので、ほかにどんな人物が新たに最高指導部に入るかの方に関心が移っている。

 

そんな中、私が注目しているのは中国共産党の長老、つまり引退した高級幹部だ。長老の動きは今、申した最高指導部メンバーの人選にも関わってくる。

 

党大会の運営を仕切るのが、議長団常務委員会と呼ばれる組織だ。46人で構成されるこの組織は現役党幹部のほか、18人は存命している長老で構成する。最高指導部である政治局常務委員会の、かつてメンバーたちだ。

 

党大会が開会した10月16日、人民大会堂の舞台の最前列に、すでに引退している長老たちが並んだ。その中には習近平氏の前任者で10年間、総書記を務めた胡錦濤氏、同じ時期に首相だった温家宝氏がいた。さらに、話題となった“あの”張高麗氏も姿を見せた。

 

中国の有名テニスプレーヤーに性的関係を強要したと伝えられた人物だ。あの騒ぎからまもなく1年になる。中国では、そのようなスキャンダルは「なかった」という結論で終わっている。だから、引退した高級幹部=長老の一人として党大会に出席できたのだ。スキャンダル後、公の場に姿を現すのは党大会が初めてなので、中国以外のメディアの注目を集めた。

ただ一人、人民服姿で出席した105歳の長老

しかし私は、別のある長老が出席するかどうかについて注目していた。

 

その人物とは、今年4月で105歳になった宋平氏。習近平氏の報告は1時間45分の長さだったが、宋平氏は人民大会堂の舞台最前列に座り、資料を手に報告を聞き続けた。だが、さすがに車イスに乗っていた。身体の衰えは隠せず、周囲からの介助を受けていた。とはいえ、ここに姿を現すだけでも、大きな意味を持つ。

 

そもそも中国共産党の長老とは、かつては抗日戦争や、国民党の内戦に参加し、また、中華人民共和国建国で中心的な役割を果たした指導者たちを指す。やがて改革・開放路線を牽引した指導者たちも含まれる。長幼の序に代表される儒教の色濃い中国、また苦難の道を歩んで来た中国だけに、現役の最高幹部は長老を無視できない。

 

もちろん宋平氏は、存命する長老の中の最長老。建国前は周恩来の秘書を務め、1989年の天安門事件後、鄧小平の下、共産党のピラミッドの最高位、政治局常務委員に上り詰めた。引退したのは1992年。すでに30年が過ぎたが、それでも昨年7月、中国共産党創設100年の祝賀式典にも出席している。

 

党大会で宋平氏はただ一人、人民服(中山服)を着込んでいた。「中国の現代史と共に人生を歩き、共産党に生涯をささげてきた」という自負からだろう。「69歳の習近平もまだまだ鼻たれ小僧」と言わんばかりの姿にも思えた。

波紋を呼んだビデオメッセージ

共産党大会直前の9月半ばのこと、この最長老・宋平氏が、中国の国内企業の式典に寄せたビデオメッセージがインターネット上で出回った。これが波紋を呼んだ。宋平氏はこの中でこう訴えている。

「『改革・開放』は、中国が発展していく過程において、必ず通らなければならない道だ」
鄧小平が唱えた「改革・開放」路線を習近平氏が修正、つまり独自の「中国式発展戦略」にシフトしていくのでは? との懸念が出ていたなかでの宋平氏の発言だった。「長老として、習近平氏のやり方に黙っていられない」ということなのだろうか。なにより党の長老の発言が公になるのは異例で、いろいろな読み方ができる。

 

宋平氏は党内では改革派の長老とみなされてきた。今の習近平氏の時代の一つ前の時代、さきほど紹介した胡錦濤氏、その補佐役だった温家宝氏は、ともに地方で勤務していた時に、宋平氏にその力量を見出された。そして2人はその後、中央に引き立てられたという共通点を持つ。

 

胡錦濤主席~温家宝首相コンビによって、「改革・開放」は進められた。その「胡錦濤時代」は、宋平氏と2人の出会いがなければ、誕生していなかったかもしれない。宋平氏からすれば「胡錦濤時代は俺がつくった」という自負もあるだろう。

“気骨の人”が老体に鞭打って示した抵抗

宋平氏は気骨の人でもある。2004年のこと。当時のトップ、江沢民が完全引退したのは、引退を渋る江沢民氏に対し、宋平氏ら長老らによる辞任圧力があったから、とされる。当時の香港の雑誌が詳しく報じている。

 

宋平氏を含む長老は、個人への権力集中、個人崇拝が中国をいかに停滞させたかを知っている。毛沢東が発動した文化大革命だ。今回は、異例の3期目入りが確実な習近平氏への、過度な権力集中を阻もうとする抵抗にも思える。その一つが、鄧小平の「改革・開放」路線の死守だ。「内向きの中国式の発展」に警鐘を鳴らしているようにも思える。

 

とはいえ、習近平氏の続投が濃厚だ。習近平氏も長老の介入を警戒し、手を打ってきた。今年5月には、指導的役割を担った党の引退幹部(=長老ら元高級幹部も含む)に対し、規律や規則を順守するよう求める文書をまとめた。党人事をつかさどる部門の責任者は、メディアにこう説明している。

・「党中央の大きな政治方針をみだりに論じてはいけない」

・「政治的にマイナスの言論をまき散らしてはいけない」

・「規律に違反した者は厳しく処罰する」
引退した長老を封じ込めようとしたのだろうが、長老の影響力は以前ほど大きくないだろう。そうであれば、105歳の宋平氏は、まさに老体に鞭を打って、共産党大会の会場にやって来て、抵抗を示したのかもしれない。

 

習近平氏の総書記3期目続投は、まず間違いない。しかし、問題は最高指導部=政治局常務委員の新メンバーに誰が入るかだ。ここに、習近平氏の側近ばかりでなく、長老らが納得できる、すなわち「ポスト習近平」を狙える人材が入れば、長老たちの抵抗は、ひとまず功を奏したと言えるのではないだろうか。

飯田和郎(いいだ・かずお) 1960年生まれ。毎日新聞社で記者生活をスタートし佐賀、福岡両県での勤務を経て外信部へ。北京に計2回7年間、台北に3年間、特派員として駐在した。RKB毎日放送移籍後は報道局長、解説委員長などを歴任した。

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