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マイナンバーカード義務化「話が違う」元雑誌編集長が進め方に疑問

政府は2024年の秋でいまの健康保険証を廃止し、マイナンバーカードと一体化する方針を明らかにしました。事実上のマイナンバーカード義務化で、これまで「強制はしない」と言っていたのはどうなったんだと、反発の声も上がっています。RKBラジオ『立川生志 金サイト』のコメンテーターを務める、元サンデー毎日編集長・潟永秀一郎さんも「話が違うじゃないか」と思っているひとり。番組の中で以下のようにコメントした。  

閣議決定で決まっていた保険証の原則廃止

「2024年度中を目途に、保険者による保険証発行の選択制の導入を目指し、さらにオンライン資格確認の導入状況等を踏まえ、保険証の原則廃止を目指す」

 

実はこれ、今年6月に閣議決定されていたんです。出ました、安倍元首相の国葬もそうでしたが、これも閣議決定。国会審議を経ないまま、大事なことを決めちゃっているんです。まずは、ここから解説しますね。

 

閣議決定されたのは、「デジタル社会の実現に向けた重点計画」です。ただ、大きく書かれているのは「デジタル化による成長戦略」とか、「デジタル化による地域の活性化」とか人材育成などの話で、冒頭に紹介した保険証の話は、後ろの方に小さな文字で書かれていました。

 

これを一字一句見ていきます。まず2024年度中は、あくまで「目途」目標です。また、ここが大事なんですが「保険証発行の選択制の導入を目指し」とあって、あくまで「選択制」です。この後、「原則廃止を目指す」とありますが、ここにはわざわざ注釈が付けてあって、「加入者から申請があれば保険証は交付される」とあります。

 

つまり、どこをどう読んでも「2024年秋に、保険証はマイナンバーカードに切り替えます」とは書いてありません。一気の切り替えと、時期の前倒しを決めたのは河野太郎・デジタル担当相です。

国会軽視・国民軽視の進め方

当然、記者会見では「マイナンバーカードを取得しない人はどうなるのか」と聞かれましたが、「ご理解がいただけるように、しっかり努力をしていきたいと思っております」との答えで、今のところ例外を認める考えはないようです。また「マイナンバーカードの事実上の義務化ではないか」という質問にも「ご理解をいただけるように、しっかり広報していきたいと思います」と繰り返し、きちんと答えていません。

 

そんな中でこんなことを言うのははばかられるんですが、実は私、マイナンバーカードの普及そのものには賛成です。調べた限りでは、多くの方が心配している個人情報の流出や、国による個人情報管理といったことは、仕組み上できないようになっていますし、むしろ得られるメリット、例えば行政手続きのためにわざわざ役所に行かなくていいとか、給付金が迅速に届くとか、そちらが大きいと思っています。

 

ただ、そんな私でも、今回のやり方は「それはないでしょう」と思います。河野氏は「6月の閣議決定で方針は示している」という趣旨の説明を繰り返しますが、ちょっと「だまし討ち」っぽくないですか? 私たちが何かの契約で、話が違うと解約を申し出た時に「ほら、契約書のここに書いてあるでしょ」と、小さな文字を指されるのと似た感じがします。

 

だいいち、そもそもこんな大事なことを、閣議決定で決めていいんですか? このやり方、安倍、菅、岸田と3代の政権にわたって引き継がれていますが、国会軽視=つまりは国民軽視=以外の何物でもないと、私は思います。それを許しているのは野党の弱さもありますが、まあ、近年の政権はとにかく国会を開きたがらない。これ、ほとんど憲法違反でして、裁判にもなっています。

「内閣の召集義務の履行は極めて重要」

憲法53条は「内閣は、衆参いずれかの総議員の4分の1以上の求めがあれば、臨時国会の召集を決めなければならない」と定めています。少数派の意思を尊重し、国会にきちんと行政を監視させるための規定ですが、残念ながら「いつまでに開く」という期限が定められていません。このため特に、安倍・菅政権下では棚ざらしが相次ぎました。

 

このうち裁判になったのは、2017年6月の召集要求です。森友、加計問題の渦中で、野党は国会での集中審議を求めましたが、当時の安倍内閣が国会を召集したのは98日後。3か月以上経ってからです。しかも冒頭で衆院を解散したので、実質審議は行われませんでした。このため、野党議員や弁護士らが、この対応は「違憲」だとして、損害賠償などを求める訴訟を各地で起こしたんです。

 

いずれも損害賠償の請求は棄却されていますが、原告の狙いはそこではありません。国会を召集しないことへの司法判断です。1審はいずれも憲法判断には踏み込んでいないものの、那覇、岡山両地裁の判決では、内閣には合理的な期間内に要求に応える「法的義務」があり、状況次第では違憲と判断される可能性がある――と指摘しました。

 

また、2審でも福岡高裁那覇支部は「国民の意見を国会に反映させる観点からも、内閣の(召集)義務の履行は極めて重要な憲法上の要請であることは論をまたない」と厳しく指弾しています。

 

「5年前の話じゃないか」と思われるかもしれませんが、岸田政権も変わっていません。7月の参院選後、政府は8月3日に臨時国会を召集しましたが、会期はわずか3日。国葬や旧統一教会の問題で、野党が会期延長を求める中、国会は閉じられました。

 

このため野党は8月18日に改めて召集を要求しましたが、今の臨時国会が開かれたのは1か月半を過ぎた今月3日です。この間、円安や物価高が進み、北朝鮮の弾道ミサイル発射が相次ぎ、ロシアがウクライナの4州併合を強行するなど、国内外ともに政治課題が山積する中で、です。旧統一教会問題は、閉会中審査が行われましたが「だったら、国会開けばいいじゃない」と思いますよね。

「寝耳に水」が内閣支持率低下の本質

という状況で、立憲民主党や日本維新の会、共産党など野党の5党1会派は、3日の開会日に「国会法の改正案」を衆議院に提出しました。「衆・参いずれかの議員の4分の1以上から要求があった場合、内閣は要求のあった日から20日以内に臨時国会を召集しなければならない」という規定の追加で、実は、自民党の憲法改正草案にも召集を20日以内とする規定があるので、政府も無碍にはしにくい――そういう内容になっています。

 

岸田首相のキャッチフレーズは「聞く力」。様々な場面で「国民に理解していただける丁寧な説明を心がける」と繰り返していますが、現実は国葬も、マイナンバーカードの事実上の義務化も閣議決定で、国会論議を経ないまま、国民には寝耳に水でした。「何も変わってないじゃないか」という失望――それが内閣支持率低下の本質だと、私は考えます。

 

今国会でこの改正案がどう扱われるのか。リスナーの皆さんにもぜひ注目していただきたいですし、もし成立するようなら、歴史に刻まれるべき改革だと、私は思います。

内閣の中にもマイナンバーカード未取得者が

最後に一つ余談を――。

 

マイナンバーカードの普及率はまだ人口の半数に届いていませんが、政府目標は今年度中に100%。だから河野氏も禁じ手のような保険証廃止を打ち出したのでしょう。

 

ところが、なんと内閣の中にまだカードを取得していない人が2人いました。内閣府の藤丸敏副大臣と中野英幸政務官です。すでに取得申請を済ませたそうですが、与党議員の中には、まだほかにもいるんじゃないでしょうか。

 

ついでにリスナーの皆さんも、どうせ義務化されるなら、マイナポイントがもらえるのは年内申請分までなので、余計なお世話ですが、急がれた方がいいか、と思います。

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