田畑竜介Grooooow Up

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ゼロコロナ批判から政権批判へ・中国の抗議活動をキーワードで解説

ゼロコロナ批判から政権批判へ・中国の抗議活動をキーワードで解説

習近平政権の厳格なゼロコロナ政策に対し抗議活動が起きた。厳しい言論統制が敷かれる中国で、しかも複数の都市で同時発生するのは極めて異例だ。東アジア情勢に詳しい、飯田和郎・元RKB解説委員長がRKBラジオ『田畑竜介 Grooooow Up』に出演し、「若者」「新疆ウイグル」「サッカーワールドカップ」という3つのキーワードで解説した。

 

外国メディアが肌で感じた若者たちの抗議行動

今回の抗議行動は北京にしろ、上海にしろ、大都市で起きた。首都・北京と第二の都市・上海(=最大の経済都市)。これまでこの種の出来事はチベットや、新疆ウイグルなど遠隔地で発生し、取材する特派員たちはその場に居合わせるケースが少なかったが、今回は駐在する外国人特派員自身が目撃している。

 

現場に駆け付けた外国人特派員は、抗議の声を上げる人たちの“熱”を自分の肌で感じ、記事を書いた。日本のメディアはもちろん、欧米メディアの記事も読んだが、ここでアメリカCNNの記事を紹介したい。CNNは「行動の中心が若者だった」と強調し「彼らは自由を求めた」と報道している。

 

若い世代が表立って政治的な動きに出たのは、1989年の天安門事件以来。メディアに自分の顔を隠すことを拒まない者もいた。中国では「要注意人物」と当局から烙印を押されることを覚悟した上での行動だ。各地の100を超える大学の学生がこの活動に賛同した。名門大学のキャンパス内でも、ゼロコロナ政策に、怒りの声が上がったという。

 

反省を含めて考えたい。私たちは、今の中国の若者を評して、たとえば「政治に興味がない」「愛国教育の影響を受けた世代だから、『強い中国』を求める意識が高い」、また「格差社会のなかで、大学生であれ、あきらめのような感情が支配する」などなどと、中国の若年層をステレオタイプにみてきた。

 

だが、香港では言論や表現の自由が制限されることに、若者たちが反対の声を上げた。さらに、その香港の様子をみた台湾の若者が、中国への警戒心を強めていった。香港や台湾の同じ世代の若者の動きを、中国本土の若者も知っている。当局がどんなに情報遮断しても、香港や台湾の出来事が伝わってくる。

 

今年10月の統計で、16~24歳の失業率は17.9%と極めて高い。景気は後退局面で就職も厳しい。なにより中国政府が目的や意義を国民に明確にしないまま、ロックダウンを続けるという、若い彼らが自分の将来像を描きにくくなっていることも要因だ。

反日デモは“官製”今回の抗議行動にも「裏」がある?

中国での抗議活動といえば、「反日デモ」も連想するが、あれは当局主導で、特定の人物に官製のデモをさせていた。「中国の民衆が怒っている」という日本政府に対する役割を果たしたら、また、ある程度の規模に達したら、矛先を収める調整もしていた。

 

今回の抗議のきっかけは、ゼロコロナ政策への反発だが、それがいとも簡単に共産党一党独裁体制への批判、また、これまでの慣習を破って3期目に入った習近平主席個人への批判に向かうことが証明された。しかも、主役は若い世代。問題の深さを感じる。

 

習近平氏は周りを側近で固め、盤石な体制を築いたが、心の中では「心配で、心配でたまらない」はずだ。つい先日の共産党大会で、北京、上海のトップ=つまり習近平氏のお気に入りたちが最高指導部入りした。その二大都市で抗議活動が起きた。統制能力不足を露呈し、メンツがつぶれた格好だ。

 

習政権「裏」を調べているだろう。「裏」つまり、全国に広がった抗議活動は「だれかが糸を引いている、操っているのではないか」と疑っているのだ。今、国外も含めて背後関係を懸命に調べているはずだ。それは、今後の体制維持のためでもある。今後、強権的な姿勢に向く可能性もある。

新疆ウイグル自治区の「連帯を確かめる場所」で抗議行動

今回の抗議行動の、そもそもの発端は、新疆ウイグル自治区の区都=中心都市、ウルムチで11月24日に起きたアパート火災だった。10人が命を落としたのだが、「コロナ禍のために、建物が封鎖され、消火・救援活動が遅れた」と怒りの声が上がった。

 

SNSなどを通じて、それが拡散したのだが、私は上海での抗議活動の場所に注目している。それは上海の旧市街地を南北に縦断する道路「ウルムチ路(通り)」。だ。中国では街の通りに、各地の都市の名前が付けられていることが多い。上海の場合、「ウルムチ路へ集合して、抗議の声を上げよう」という呼びかけが、やはりSNSで広がった。

 

ウルムチ、またチベットなど、宗教問題や民族問題、さらには分離・独立もくすぶる少数民族地域の地名を、通りの名前に付けるというのは「みんな中国という大きな家に住む家族」、それを市民に認識させようという当局の狙いがある。ただ、今回は、新疆ウイグルの人たちとの「連帯を確かめる場所」として使われた。

 

映像で見たが、ウルムチ路は車道と歩道に警察のバリケードが置かれ、抗議活動ができないようになっていた。「シンボリックな場所」にしたくないわけだ。

 

中国当局が何より警戒するのが、火災で犠牲になったウルムチ市民への連帯が、新疆全体、数多く住むウイグル族への連帯に派生すること。新疆ウイグル自治区で少数民族への著しい人権侵害が続いているのは、国連も認定している。いったん、火が付けば、ほかの少数民族の問題に波及しかねない。

『見せたい』映像であり『見せたくない』映像

三つ目のキーワード、サッカーワールドカップ。中国当局にとって、ワールドカップの競技会場は「『見せたい』映像であり、『見せたくない』映像」と言える。中国の放送局は「観客がマスクをしないで、声援を送る映像見せないようにしている」ようだが、実際には『見せたい』映像もある。

 

ピッチの周りのスポンサーの広告や電光掲示板に注目してほしい。次々とスポンサー企業の表示が変わる。表示は英語(アルファベット)が中心で、時折、現地のアラビア語が出ている。そして、漢字=しかも中国大陸で使う「簡体字」も現われる。これは中国でワールドカップをテレビ観戦している中国人に見せ、宣伝効果を狙う中国企業のものだ。

 

スポンサーとなっているのは「世界で売り上げを伸ばす家電メーカー」「大手の不動産・運輸を手掛ける企業」「世界進出する中国トップの乳製品メーカー」などで、中には国有企業もあった。

 

中国代表はアジア地区予選で敗退し、本大会に出られなかったが、サッカーはバスケットボールとともに、中国人がもっとも好きなスポーツのひとつだ。本大会に中国が出場していないのに、中国企業の中国語の広告を出す。経済成長が鈍化しているとはいえ世界第二位の経済大国らしい。

 

しかし、国内で国民にはゼロコロナ政策を強いるから、ワールドカップを「『見せたい』一方、『見せたくない』」のだ。こんなところにも、中国の矛盾が表面化していると言えるようだ。

◎飯田和郎(いいだ・かずお)

1960年生まれ。毎日新聞社で記者生活をスタートし佐賀、福岡両県での勤務を経て外信部へ。北京に計2回7年間、台北に3年間、特派員として駐在した。RKB毎日放送移籍後は報道局長、解説委員長などを歴任した。

 

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2023.02.08
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