第一話「せいもん払い」その6~10
2011年11月7日、かなめと博は偶然、住吉宮の「歩射祭」に遭遇した。他の見物客に押されてよろけるかなめを、博が手を取って守った。矢が放たれた瞬間、二人の前にいた人物の姿が「消滅」した気がした。その途端、つないだ手が熱を持ったような不思議な感覚で、二人は思わず手を離していた。それが何なのかは、二人にはわからなかった。その後、博は学校にはほとんど出てこなくなった。卒業できる最低日数だけ出席し、予備校で猛勉強して、東京の大学に行ってしまったのだ。卒業式にも出てこなかった博を、かなめは心配していたが、連絡先もわからないままだったので、どうしようもなかった。
2016年11月8日、博多駅前で大規模な陥没事故が起きた。今はその痕跡もなく、人々は陥没事故など忘れてしまったようにその場所を歩いている。今でも、陥没事故の真相は、謎のままだ。かなめは、危うくあの事故で、たった一人の「被害者」になる可能性があったのだ。前日深夜から同僚たちとカラオケで「オール」して朝帰りしていたかなめは、コンビニで買い物をして、店を出ようとしていた。そのとき、陥没事故が起きたのだ。間一髪助かったものの、その時、何かの声が聞こえて、立ち止まったのだ。「博多の街を救ってくれ……」と。あの「声」がなければ、かなめは命を落としていただろう。
2020年、旧博多驛再開発プロジェクトの、キックオフミーティングが始まった。プロジェクトは、博多区の「祇園」地区の再開発も目的としており、実行委員会には、博多の重鎮の議員や商人も名を連ねていた。その主任デザイナーとして抜擢されたのは、東京でデザイン事務所に就職した綱木博だった。その博は「博多なんて田舎くさいから、都会的なデザインにしましょう」などと委員たちの前でうそぶいた。博多っ子の委員たちは、激高して席を立ってしまった。
2020年、旧博多驛再開発プロジェクトの、キックオフミーティングが始まった。プロジェクトは、博多区の「祇園」地区の再開発も目的としており、実行委員会には、博多の重鎮の議員や商人も名を連ねていた。その主任デザイナーとして抜擢されたのは、東京でデザイン事務所に就職した綱木博だった。その博は「博多なんて田舎くさいから、都会的なデザインにしましょう」などと委員たちの前でうそぶいた。博多っ子の委員たちは、激高して席を立ってしまった。
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